第12話 意外な一面

 幽霊がとった行動は単純なものだった。


 逃げる。戦う意思を、一切見せることなく、即座に逃げの姿勢を見せた。


 だが、それを簡単に許すわけにはいかないと思い、幽霊を止めようとしたが、何だが冷たい視線を感じ、一瞬手を止めてしまった。


 その隙に、幽霊は脇を通り抜けていき、トイレから出て行った。


 俺は、慌てて、トイレの前で見張りをしていたミラに言った。


「幽霊が、そっちに行った!見失わないように追いかけてくれ!」


 倒すなという指示を伝える余裕もない。かろうじて、追いかけろとだけ伝えるようにはしたが、ミラは幽霊を見つければ当然、倒すだろう。


 俺も、すぐに向かおうと思ったが、再び、腕の中の冷たい視線に止められた。


「……すみませんでした、ルーリアさん。」


「別に怒ってるわけじゃないけど。ただ、こういう表情になってしまうのよ、今は。」


 俺が、そのルーリアの言葉に何も言い返せないでいると、ルーリアは、俺から離れて言った。


「…はぁ。もう良いわ。この件は、お互い忘れるということにしましょう。」


「そうだな。」


 俺がルーリアにそう返して、トイレから出ようとしたとき、ルーリアが振り返って、少し躊躇うような感じで言った。


「……一応、ありがとう、って言っとくわ。それと、案外上手だったわよ、ゼロのキス。」


 一瞬で顔が赤くなったのを感じる。それを見られるのが照れくさくて、俺はルーリアから顔を背けた。


「忘れるんじゃなかったのか?」


「感謝は伝えておかないとって。それに、やられっぱなしっていうのも、何だか性に合わないから。」


 そう言って、ルーリアは悪戯っぽく笑って、先にトイレから出て行った。


 ……あんな風に笑えるんだな、ルーリアは。何だか、はじめて会ったときから、不機嫌そうな顔や、真剣な顔しか見ていなかったから不思議な感じだ。


 そんな事を不意に考えてしまい、再び、顔が熱くなるのを感じた。何とか、そんな考えを振り払って、俺も幽霊を追いかけて、走り出す。


 多分、顔はまだ赤いままだったろうが、トイレの明かりがなくなれば、辺りは真っ暗だ。誰かに見られる心配もないだろう。


 ……そう言えば、振り返ったときに一瞬だけ見えたルーリアの顔も少しだけ赤かった気がしたのだが、ルーリアも俺と同じように照れていたのだろうか。


 だとしたら、ルーリアも案外、ああいう軽口に慣れてなかったのかもしれない。そう思うと、少しだけおかしくなって、口角が上がるのを抑えられなかった。

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転生悪役貴族の生存戦略 ~真っ先にレベルアップ前の最強ヤンデレ女主人公を倒すつもりが、惚れられて行動を共にする事になりました~ 憂木 秋平 @yuki-shuuhei

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