第8話 最悪の遭遇

「良かったの?別にゼロがやらなくても良かったんじゃない?」


 ミラが、心配そうに俺に言ってくる。まあ、当然の反応とはいえ、多分俺が受けなかったら、お前が受けることになっていたぞ、と言ってやりたい気分になる。


 しかし、そんな態度を見せれば、不審がられるのは確実なので、ここは、ただの善意で受けたことにしよう。


「良いんだよ、困ってる人がいたら助けるだろ、普通。」


 自分でも、ちょっとかっこつけ過ぎたかとも思ったが、ミラが、「流石、ゼロ。」とかいって、嬉しそうにしているので、これで良かったんだろう。


 そんなことは置いておいて、とりあえず、クエストを解決するために、女子トイレに行かなければ。


 そう思い、一階の女子トイレに向けて、歩き始めた。


 今は、授業も実習も全て終わっている時間であるため、校舎内に人の姿は見えない。女子トイレに入るというのは、非常に申し訳なくはあるが、トイレ内に誰もおらず、誰にも入るところを見られなければ、ギリギリセーフではにだろうか。……いや、アウトな気もするが、事情が事情なだけに、諦めるわけにはいかない。


 とりあえず、一階の女子トイレに辿り着いたので、ミラに中に誰か入っていないかだけを見てきてもらった。もし、幽霊を見つけても手出しはしないようにも伝えておいた。


 しばらくして、ミラがトイレから戻ってきた。


「一番奥のトイレだけ閉まってたよ。」


 なるほど、おそらく、それが幽霊が入っているというトイレだろう。俺はミラに外で見張っているように伝えて、周りに人がいないのを確認した後、トイレに踏み込んだ。


 とにかく、一瞬で終わらせなければ。こんなところを誰かに見られたら、停学になってしまう。下手すれば、退学だ。


 そんな事を思いながらえ、トイレの奥の扉に向かっていると、その奥の扉が、ゆっくりと開いた。


 俺は、腕を構えた。幽霊が出てきて、戦闘になると思ったためだ。


 しかし、実際にその扉から出てきたのは、幽霊でも何でもなく、一人の女子生徒だった。


 綺麗な長い黒髪に、つり目がちな大きい目。


 見間違えるはずがない、風紀委員のルーリアだ。


 お互い、呆然と見つめ合う。


 しばらくの間、気まずい沈黙が女子トイレに満ちた。


 最初に口を開いたのは、俺だった。


「……実は幽霊が化けているっていうオチとか?」


「変態の言い訳としては、新しい言い訳ね。」


「いや、待ってくれ、信じてもらえないかもしれないが、俺は幽霊退治にここに来たんだ!」


 自分でも怪しさしかないと思う。幽霊退治って何だよ。もう少し、マシな言い訳はないのか、と言いたくなるほど荒唐無稽な話だ。


「……とりあえず、ここから出ましょう。あなたがいつまでも、ここにいるのはおかしいもの。」


 俺は、その言葉に大人しく従うしかなかった。

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