第7話 サブクエスト発生

 ミラは、笑顔を崩さず、まっすぐに俺たちの方に向かって歩いてくる。


「い、いや、ミラ、お前をわざと置いていったわけじゃなくて、急に図書館に用事ができて……。」


「その用事って、この女の子と会うこと?」


「いや違う。この子は、一緒に本を探してもらっただけで。」


「ふーん、それでぬいぐるみをプレゼントすることになるんだ。それ、昨日、わざわざ買ってたよね?」


 そう言われてしまうと、言い逃れができない。


「……もしかして、私、ゼロの邪魔しちゃったかな?もし、そうだったら、ごめんね。」


「別に邪魔ってわけじゃない。ただ、本を探してもらったお礼くらいは用意しておいた方がいいかと思ってな。……とりあえず、教室に戻ろう、ミラ。」


 苦しいかもしれないが、思いついた言い訳をして、何とかミラをリルから引き離そうとする。ミラとリルが会話をするのだけは避けなくては。


 ミラは、リルに聞きたいことがありそうだったが、俺が少し強引にミラを連れて図書館から出た。一応、出る前にリルにぬいぐるみだけ渡して、うるさくした謝罪をしておいた。


 手をつないで歩き始めたら、ミラは、いちいち文句を言ってこなかった。とりあえずは、俺の言葉を信じてくれたのだろう。


 しかし、ミラがどうしてか俺の居場所が分かったのは、問題だな。簡単に単独行動もとらせてもらえない。


 そんな風に、頭を悩ませていると、後ろから俺たちを呼ぶ声があった。


「おーい、そこの君たち、ちょっといいかい?」


 そこにいたのは面識のない、これといって特徴のない男子生徒だった。


 一応、ミラに知り合いか聞いて見るが、ミラは首を振って返した。


 一体、初対面の俺たちに何の用事だろうか、と不思議に思っていると、その男子生徒が口を開いた。


「頼みたいことがあるんだけどいいかな?」


 その瞬間、俺の頭に閃くものがあった。


 もしかして、これはサブクエストではないだろうか。


 サブクエスト、それは学園の中で、様々な生徒から学園で起こる事件の解決を依頼され、それを主人公が解決することで、成長したり報酬を得たりするというものだ。


 この急に、初対面の人間に図々しく頼み事をしてくる感じ、サブクエスト以外にあり得ない。だとしたら、それをミラがクリアすることは非常にまずい。これ以上、ミラがレベルアップしてしまうと、本格的に俺の手にも負えなくなってしまう。何としてでも、それは防がなくては。


「頼み事って何?良ければ、俺が解決してやるよ。」


 これで、良いはずだ。つまりは、このクエストをミラが主導で解決することさえなければ、問題はない。多少、手伝ってもらったとしても、俺が主導して、この問題の解決に当たれば、経験値も報酬も、ほとんど俺のところに来るはずだ。まあ、経験値に関しては、俺はほとんどカンスト状態なので、あまり意味はないが、ミラが手にしなければ、そこはどうでも良い。


「良かった。じゃあ、お願いするけど、最近一階の女子トイレで、幽霊が出るって噂があるんだ。この正体を突き止めて、できれば、二度と幽霊が出ないようにしてもらえないかな?」


 ……マジか。よりにもよって、そのサブクエストか。当たり前だ、本来ミラが受けるはずのクエストなのだから、女子トイレが舞台でもおかしくはない。しかし、俺がこのクエストを解決するとなると、難易度が一気に跳ね上がる。どうしたものか、と頭を悩ませはするものの断る選択肢はない。


「分かった、任せろ、すぐに解決してやる。」


「ありがとう。じゃあ、一週間後までに、お願い。」


 そう言って、男子生徒は去っていった。ちゃっかり、期限までつけていきやがった。ゲームの世界だから当たり前のことだが、実際に見知らぬ他人に面倒ごと押しつけられた挙句、期限まで設けられると、ちょっと苛つくな。

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