第6話 図書室の少女

 クラスの方は、ラミラ、リル、ルーリア、ミラ、そして俺が全員同じということになった。とりあえず、彼女たちと接触を図りたいのだが、入学して一週間、一切の進展がなかった。というのも、ミラが俺の側から離れようとしないのだ。何をするにもついてくるし、寮の中までついてくる。就寝時間になるまで、俺の部屋にいて、起床時間と共に俺の部屋にやってくる。


 正直、ここまで俺にしか目がいってないなら、ミラが他の誰かと仲良くなる気はしないのだが、シナリオの修正力は警戒せざるを得ない。そのため、最終目的は変わらないのだが、当面の目標が、ミラをいかにして俺から引き離すかというものになっていた。


 そして、考えついたのが単純かつ効果的な方法、ミラがトイレに行っている間に、逃げるというものだ。ミラはトイレに行くときも、俺に待っててと言いながら、入っていく。今までは馬鹿正直に、それに従っていたが、ここまで隙がないなら強行手段にでざるを得ない。


 こうして、作戦を思いついた次の日、ミラが予定通り、トイレに行きたいと言ってきた。


「ゼロ、待っててね。」


「あ、ああ。できるだけ長くても良いぞ。」


「ううん、できるだけ早く戻ってくるから。」


 そう言って、ミラはトイレに消えていった。


 今しかない。そう思い、全速力でトイレから離れて、図書館に直行する。今、確実に居場所が把握出来るのが、図書委員で大抵図書館にいるリルだけだ。


 息を切らせながら図書館に辿り着き、呼吸を整えて図書館に足を踏み入れる。


 リルは、図書館の奥の方で、本を探していた。


 銀色の長い髪をしている、綺麗な顔の少女だ。俺は、このゲームをプレイしたことがあるから知っているが、このリルという少女は、大抵の物事に無関心で無表情という設定を持っている。物語を進めていく内に、ミラがこのリルの冷たい心を溶かすことになるのだが、これを阻止しなくてはならない。このイベントが起こってしまうと、リルはミラの頼もしい仲間になり、もし、ミラと俺が戦うことになったときに厄介な存在となる。


 俺は、人当たりの良い笑みを浮かべて、リルに声をかけた。


「あの、本を探してるんだけど、聞いてもいい?」


「どんな本?」


 俺は、本の特徴を伝えて、リルと一緒に図書館を歩き始めた。


 ここまでは、悪くない。ここから、何か話題を振って、会話を弾ませることができれば。


「訓練とかどう?意外と、楽じゃない?」


「別に、楽でも辛くもないわ。」


「ここのご飯結構美味しいよね。」


「別に、美味しくもまずくもないわ。」


 会話にならない。そういう設定があるって知ってはいたけど、実際に、話してみると想像以上に厄介だな。しかし、俺には秘策がある。このゲームをプレイしたときに得た知識として、リルの好きなものを知っているのだ。


 リルは猫が好きだったはず。だから、俺は昨日わざわざ猫のぬいぐるみを買っておいた。これを、さりげなく渡せば、好感度は上がるはず。


「そう言えば、昨日たまたま、この猫のぬいぐるみをもらったんだけど、いらない?俺は、別にぬいぐるみ好きじゃないし、好きな人がいればと思ったんだけど。」


「………!」


 意外と良い反応だ。ぱっと見、無表情だが、よく見てみれば、先程より少し目が見開かれてる気がする。


 よし、作戦成功だ。今日のところは、これで良いかと思い、リルに猫のぬいぐるみを渡した瞬間、図書館に誰かが入ってきた。


 ミラだ。こいつ、どうして俺の居場所を。

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