第3話 俺が未来の旦那さん

 村に入ってすぐに、ミラの家の中に案内された。家の中には、ミラの母親がいた。確か、ミラには小さい頃から父親がおらず、物語の中盤あたりで、敵として再会するというストーリーがあった気がする。


 ミラは、俺の事を母親に紹介した。


「お母さん、この人、ゼロっていうの。私の未来の旦那さんになるかも。」


 ……今なんて?旦那さん?


 あまりに、急な話に頭がついていかない。どうして、そんな話になる。まさか、魔物から偶然とはいえ、助けたからか?そんな単純なことある?


「まあ、ミラもにもようやく好きな人ができたの?良かったわあ~、お母さんミラがずっと一人身なんじゃないかって心配してたんだから。」


 お母さん、結構簡単に受け入れるな。普通、娘が帰ってきて、知らない男連れて、これが未来の旦那さん、なんてことを言ったら卒倒してもおかしくないのでは?


「い、いや、急な話過ぎませんか、ミラだって綺麗な女性なんだし、他にも相手がいたりとか……。」


「…え、何?ミラが綺麗な、しゃせい?」


 とんでもない聞き間違えするな、このお母さん。というか、思っても娘の前で口にしちゃいけないだろ。


「…女性ですよ。女性。」


「あ~、綺麗な女性ね。全くゼロさんは口がお上手なんだから。」


 お母さんは、一人で勘違いして、一人で納得して、話の矛先をミラに向けた。


「それで、どうして、ゼロさんが良いって思ったのよ、ミラ。」


「ええとね、私が森で魔物に襲われてるところを体を張って守ってくれたんだ。」


 ミラが母親の質問に少し照れながら答える。想像してた通りの理由だった。あまりに単純過ぎる……。


 でもまあ、悪い気はしない。意外と、ミラと結婚して生活するのも悪くないんじゃないかと思い始める。


 顔は文句なしの美少女だし、性格だって、主人公をやっていたくらいには良い。問題は、さっきから多少強引なところがあるっていうくらいだが…。


 そんな風に頭の中で打算的な考えを巡らせていると、母親が口を開いた。


「…そっか、ミラも魔物に襲われちゃったか。本当は、教えるつもりはなかったんだけど、またこういう事があったときにミラが自分で身を守れないと駄目だもんね……。」


 急に、母親が浮ついた話から、真剣な話に切り替える。何を教えるというのだろうか。


「勇者の剣。きっと、お父さんの子のミラなら引き抜けるはず。ミラに託すわ。」


 ……何を言ってるんだ、この人は。この家に来てから、驚きっぱなしである。


 勇者の剣。このゲームの裏ボスを倒した後に、始まりの村を訪れることで得られるチート装備。開発者が、悪ふざけで作ったんじゃないかと疑うような武器だ。


 それが、どうしてこんな序盤でミラが入手することになるんだ。心当たりは一つ。俺が、ミラを助けた事によって、目覚めなかったミラの才能を勇者の剣を引き抜くことで開花させようとしているのではないか。


 シナリオの修正力。そんな言葉が頭に浮かぶ。とにかく、その剣を引き抜くことだけは、阻止しないと。主人公が才能開花するだけじゃなく、チート装備まで入手してしまう。そうなると、俺でも、ミラに勝てるか怪しくなってくる。しかも、そこからレベルアップまでされたら、いよいよ勝ち目がなくなる。

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