第2話 お礼に村へ

 嘘だろ……。どうして、ミラがこんなところに。まだ、村から出るタイミングじゃないはずだ、と戸惑っていたが、一つの可能性に思い至った。


 そう言えば、このゲームの主人公ミラは、ゲームが始まる前に、森の中に入って、魔物に消えない傷を負わされるという設定があったはずだ。その傷を負った際に、隠された自分の才能が開花して物語が始まるとという流れではなかっただろうか……。


 だとすると、本当は今このタイミングで、消えない傷を負う予定で、それを俺が阻止したということになる。


 ……それは、むしろ都合が良いのではないだろうか。予定通りではないが、これでミラは才能が開花することもなく、主人公となることもない。そうなれば、当然俺の身の安全もひとまずは保証されたわけで、とりあえずの問題解決と言える。正直、俺は、自分の身を守るためとはいえ、人を殺すことにかなりの躊躇いがあった。というか、今も結構迷っている。わざわざ、殺さなくて良いならそれに越したことはない。


 よし、目的達成だ。後は、不穏分子に目を光らせつつ、悠々自適に貴族としてこの生活を楽しむぞと、俺が立ち去ろうとした時、再び声がかかる。


「待ってください!お名前を教えてください!後、お礼がしたいので、村に来てもらっても良いですか?」


 ミラだった。そのまま無視して帰ろうと思っていたが、意外としつこい。しかも、ちゃっかり名前だけじゃなくて、村に連れていく提案まで追加されてしまった。ここは、丁重にお断りをしようと思い、口を開きかけたのが……止まった。


 圧を感じる。まだ、才能が開花してないはずなのに、ものすごい圧を感じる。何となく辺りに、断りづらい雰囲気が漂っている。


 ……まあ、名前を教えて、簡単なお礼を受けるくらいなら、別に良いだろう。昨日の敵は今日の友ではないが、今や俺はミラに対して、敵対意識はない。


「…分かった。名前はゼロだ。」


「そうなんですね。私の名前は、ミラって言います。じゃあ、村まで案内しますね。」


 そう言って、ミラは俺の手をつかんで歩き出した。こういう何気ないスキンシップは、少し照れる。


 …こいつ、俺を倒す主人公っていう視点でみなければ、ただの美少女なんだよな、という考えが頭をよぎる。すでに、主人公としての役割を果たすことの出来なくなったミラに、簡単に惚れそうになってしまう。手をつながれただけで単純なと、呆れている自分もどこかにいる。そんな風な葛藤を抱えていると、すぐに始まりの村に到着した。

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