転生悪役貴族の生存戦略 ~真っ先にレベルアップ前の最強ヤンデレ女主人公を倒すつもりが、惚れられて行動を共にする事になりました~
憂木 秋平
第1話 主人公を救ってしまった…
はぁ…はぁ…はぁ…
俺は全速力で走っていた。
はぁ…はぁ…
走りながら、こんな状況になってしまった、先程の非現実的な出来事を思い起こす。
俺は、いつものように家の中で、ゲームをしていたはずだ。学園RPG『ファンタジー・ウォーゲーム』というアクションRPGを。それが、ロード画面に入ったと思った瞬間、画面の中に吸い込まれるような感覚を味わったのだ。
目が覚めたら、俺はゲームの中の裏ボスの立ち位置にいる悪役貴族のゼロというキャラに転生していた。最後には、主人公一行に殺されてしまう、悲しい運命を持つキャラだ。
そんなの冗談じゃない!
当たり前だが、俺は死にたくなかった。だったら、殺られる前に、殺れだ。俺はゲームをやるたびに疑問に思っていたのだ。どうして、悪役は、主人公が成長しきる前に潰しにいかないのか、と。各地で、ある程度活躍している冒険者がいるなら、不安要素として、全力で排除しに行けば良いのに、と。
俺は、転生したことによって、この世界のシナリオを知っているという利点がある。それを生かさない手はないだろう。主人公が、レベルアップする前に倒す。その目的のために、俺は全速力で走っていた。
はぁ…はぁ…
ようやく、主人公が最初にいるはずの始まりの村付近までやってきた。一旦、心を落ち着ける。
ここで、主人公に敵意を悟らせるわけにはいかない。気づかれることなく、迅速に排除、それが目標だ。
今、この時点だと主人公はこの村にいるというので、間違いはないと思うが、正確な位置までは分からない。家の中だろうか。そんな事を考えながら、村の周囲の森の中を慎重に進む。
とりあえず、この間に、このゲームのシナリオを思い出しておこう。もし、主人公を倒すことに成功しても、別の人に倒されてしまっては意味が無い。主人公がいなくなった代わりに、主人公のパーティーの誰かが、俺を倒しに来るとかだ。この世界の仕組みがどうなっているのかは分からないが、シナリオに対して修正力のようなものが働かないとは限らない。万全を期すに超したことはないだろう。
そんな風に、頭を悩ませながらも、足音を消して歩いていると、突然、俺の肩あたりに衝撃が来た。
…痛くはない。肩に誰かがぶつかったくらいの衝撃。考え事をしていたから、周りが見えていなかったのだろう、と思いながら、その衝撃の原因を確認する。
俺の肩に、大刀が乗っていた。おそらく、この刀で俺を切ろうとしたのだろう。しかし、ステータスの差で、切ることができなかった。そう考えるのが妥当だ。
しかし、どこのどいつだ、俺の事を切ろうとしてきたのは、と思いながら、その刀の持ち主を見ると、人とオオカミが組み合わさったような出で立ちをした魔物だった。その人狼のような魔物は、もう一度、俺を切るために刀を振り上げる。
正当防衛だ、と思いつつ、腕を上げ、その魔物に炎の魔法を放った。火球が魔物めがけて飛んでいき、刀を振り終える前に、全身を焼き尽くす。最後には、魔物らしく塵となって消滅した。
無駄なことをして、時間を食ってしまった。今は、一刻も早く、主人公を倒しに行かねばと思い、足を踏み出した瞬間、横から声がかかった。
「…あの、助けてもらってありがとうございます。お名前は何て言うんですか?」
その声の主を見る。その瞬間、比喩でもなんでもなく、心臓が止まった気がした。
綺麗な薄いピンクの髪に、整った顔立ち。見間違えるはずがない、俺が倒そうと探していた、主人公のミラだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます