第7話 さあ、復讐劇を始めよう
魔法等級昇格試験。
特待生でない生徒にとって等級昇格試験は、卒業後の進路に大きく影響を及ぼす。またこの国の行事として、昇格試験の一部始終を全国内に投影魔法で放送するらしい。
(辺境地でも投影魔法で見られるなんて……。きっと兄様と父様が黙っていたに違いないわ)
「参加資格者は期末テストの総合順位百位以内とされているから、私もシンシアも余裕ね。せっかくだから上位を目指しましょう」
「はい。……それにしても、今日は第十三区域じゃないんですね」
「ふふっ。今日は装備品を揃えるのと、髪飾りやアクセサリーの勉強のためにも宝石店に行くわよ! シンシアは可愛いからどれも似合うけれど!」
「(また可愛いって……照れる)ほ、宝石店ですか!」
今日は第十一区域の白銀の森に来ている。
幻獣の多くが生息し、精霊や妖精が多い。ガラス細工でできた森は美しいものの、常に魔力で自身の体を覆わなければならないのが難点だ。
「この森は神々の吐息で作られた神域に近いから、普通の人間では気を失ってしまうの。私たち魔法使いは、魔力で全身を覆って維持ができれば、普通の森と変わらないわ。それこそ第十三区域よりも魔物自体は少ないから安全よ」
「確かに、周囲から敵意はあまり感じないですね」
「……ここでも魔糸魔法で周囲を索敵できるなんて、驚きだわ」
「辺境地では瘴気が充満している森が結構多くて、子供の頃から身につけるように言われていたんです」
「ふーん。だからレックスもそれなりに強いって訳ね。腹が立つけれど」
「才能があって覚えも早かったです」
「それなら第一次戦は、問題なく上がってきそうで安心したわ」
第一次戦は時間内に学校内の第一から第五区画の森で、指定された素材を入手してスタート地点に戻ってくること。
素材リストにはそれぞれ得点があり、戻ってきた時間帯によってボーナス点が加算され、総合得点の高さで順位付けをする。そこから総合上位三十名のみが第二次試験に進めるというものだ。
復讐の舞台に選んだのは第二次試験の、チーム対抗戦である。ローレンス先輩が手を回して、私たちとレックスがぶつかるように手はずを整えてくれるという。
「ヴィンセント先輩は無事に婚約破棄できたのですか?」
「もちろん。教会に行って婚約破棄されているか、しっかり確認したわ。これで第一段階は終了。レックスのほうは自分で《
「……やっぱり《亜麻色の乙女》って、私のことなんですね」
「可愛い二つ名じゃない。私は好きだけれど」
「うっ……(ヴィンセント先輩って時々、さらっと私のことを褒めるし、好きだって言うから勘違いしそうになる)」
どこもかしこも同じように見えるが、小さな紋様が木々に彫られている目印を見つけて幻想的な白銀の森を進む。
(ヴィンセント先輩はいつも私の世界を広げてくれる。そんな先輩に私は何か返せているのだろうか)
「今日は私がシンシアに――」
「私は先輩からたくさんのものを貰ってばかりですけれど、先輩に私は何かお役に立てていますか? 私にできることがあったら何でも言ってくださいね!」
「――っ」
ヴィンセント先輩は途端に脱力して両手で顔を覆ってしまった。失言だったかと焦った瞬間、先輩の耳が赤くなっていることに気付く。
(あれ……?)
「何でも、なんてそう気軽に言うものじゃないわ。……まったく、こっちは先輩らしくあろうとなけなしの理性で堪えているって言うのに」
後半は独白だったのか殆ど聞こえなかった。気軽に言ったつもりはなかったのだが、タイミングが悪かっただろうか。
「その……ごめんなさい」
「謝る必要はないから。……孤独だと思っていた学院生活で、シンシアと出会えて一緒に素材集めができているだけで充分すぎるほど貰っているわ。一人でも生きていけるけれど、一緒に居るのが楽しくて、こんなに誰かと行動を共にしたのは初めてなのよ。これはもう運命ね! 出会いに感謝しなきゃ」
「先輩が?」
「意外かしら? ……そう言うシンシアにとって何でもないと思うことが、私にとっては得難いことだってあるのよ」
「例えば?」
ここぞとばかりに尋ねてみた。いつもならさらっと流されそうだが、勢いに任せてみる。
グッと顔を近づけると、ヴィンセント先輩は片手で顔を覆ったまま口を開いた。
「私の素を受け入れて普通に接するところ、私が甘いものが好きなことを馬鹿にしないところ、可愛いものが好きだって言っても引かないところ、一緒に狩りができること、お互いに本と魔法が好きなところ、狩りと素材をぞんざいに扱わないこと……他にもたくさんあるわ」
「そ、そんなこと言ったら、ヴィンセント先輩は私にいろんなことを教えてくれるじゃないですか。十三区域の森にある図書館やレストラン、本の探し方や、お洒落も、先輩がいたから知ったことばかりです! 私が自分に自信を取り戻せたのも、先輩がいてくれたからです。本当にたくさんのすごいことをしてくれています!」
「ああ〜もう。そんなことを言うのなら、今回の復讐が終わったら、改めてシンシアを口説くから覚悟しなさい!」
「くど…………え?」
今、先輩はなんと言ったのだろう。
くどく、と言ったのだが、誰を――?
私がぐるぐると考え込んでいる間に、ヴィンセント先輩は私の額にキスを落とす。
「なっ」
突然のキスに、顔が熱い。魔力操作が大きく揺らいでしまった。それをみてヴィンセント先輩は「今はこれで我慢してあげる」と言って背を向けて歩き出した。
不意打ちの告白。
あんな綺麗な人に向けられた好意が信じ切れなくて、頬を抓ったけれど痛いだけだった。
それから私とヴィンセント先輩は狩りと素材集めに勤しみ、研鑽を積んでいった。
着々と復讐の舞台を整え、自分を磨きに磨く。
先輩と一緒の時間はあっという間に過ぎて、私の中に芽生えた気持ちに名前が付くのにさほど時間は掛からなかった。
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