第20話

「匪賊め、後続がいたのかよ。ケビン、何とかできそうなら、何とかしてくれ。できるだけ早く応援を送る。以上だ」

 ビッグジョーめ、言うのは簡単だよ。

「ジェシカ! 匪賊はあとどのくらいだ」

「分かりません! 反撃は殆どありませんけど、ほんとうに片付いたのか、死んだふりしてるのかが分かりません」

「よし、そっちはグエンに任せろ。東から車両が接近中だ。気をつけろ」

「了解しました!」

「ケビン、イカサマだ。こっちはアンダーソンを東の掩体に動かす」

「イカサマ、ケビンだ。助かる」

 リベラにトランシーバーを渡し、雑嚢からさらにグレネードを取り出す。さっきの残り2発の横に並べて置く。

「リベラ、来るぞ、射撃用意だ」

 さすがに慎重に接近してくる。この間の装甲トラック程度なら40ミリの汎用グレネードでも何発か撃ち込めば何とかなると思うんだが。

 木立越しに、接近する車両が見えた。キャビンにまで装甲してあるぞ。やっかいだな。先頭の車の天板の上に載せてある長い筒は何だ? ロケットランチャーか? それにしては後ろの膨らみが変だな。筒の横には賊徒が一人とりついている。

 アンダーソンのM423が射撃を始めた。だが、あんまり効いてるようには見えねえ。

 装甲トラックは擱座して道を塞いでいるテクニカル2台に接触、周りからの射撃を浴びながら、押しのけようとしている。グレネードを撃ち込みたいが角度が悪い。くそ、もう少し手前でテクニカルを仕留めとくべきだったな。

 変に絡んでいるのか意外とテクニカルは動かない。後続の2台目、3台目のトラックが木立の両側にいる俺たちを撃ち始めた。思わず頭を下げる。腹に響く発砲音。腕くらいの太さの枝が折れて飛び散る。50口径か? 何発も喰らったら掩体の胸壁もヤバいが、まだこちらの居場所はバレてない。

 突然、先頭の装甲トラックが大きな音をたてて煙に包まれた。爆発したのかと思ったが、そうではなく、搭載した筒の前と後ろから盛大に煙を出している。リベラが短い悲鳴を上げ掩体の中にしゃがみ込んだ。

 村の方から黒煙が上がっている。あんなもの喰らったらいくら土嚢で耐弾化してたって木造の建物なんかひとたまりもない。

 リベラが落としたトランシーバーを拾う。

「ビッグジョー、ケビンだ。ヤバいぞ! 長砲身の無反動砲を積んだ装甲トラックがいる」

 なんであんな物騒なもん持ってやがんだ。

「ケビン! ビッグジョーだ。危うくお陀仏になるとこだったよ! 何とかできるか?」

「ああ、グレネードで何とかできるかやってみる」

「頼んだぞ」

 無反動砲を載せたトラックがゆっくりと後退をはじめた。そうか。防楯がないから再装填するために下がるのか。代わりの装甲トラックが重機関銃を撃ちながら前に出た。こいつもグレネードを撃つには角度が悪い。M11に持ち替える。

 50口径は脅威だが、射手はむき出しだ。くたばりやがれ。

「リベラ、ボサッとすんな! 機関銃手を撃て」

 長砲身の無反動砲といい、50口径の機関銃といい、あんな物騒なもん、一体どこから引っ張り出してきやがった。

 50口径を撃っていた賊徒は血まみれになって銃座から車内へ落ちた。装甲トラックは慌てて後退をはじめた。

 長砲身無反動砲には驚かされたが、随伴の賊徒もロクにいないのに林の中の道にゾロゾロ装甲トラックで乗り込んで来やがって。素人め。

「ジェシカ! ディアスを連れてこっちへ来い」

 雑嚢から出したグレネードを元に戻しながらジェシカを呼び、掩体から出て伏せた。M11とグレネードランチャー、グレネードの入った雑嚢。さすがにこの上トランシーバーは持てない。

「リベラ、ビッグジョーに伝えろ、ジャクソンの分隊に対戦車ロケットを持たせてこっちへ寄越してくれってな。俺はこれからグレネードでトラックを足止めしてくる」

 ジェシカとディアスが掩体に入った。

「ジェシカ、俺はこれからトラックを足止めしてくる。援護してくれ」

「ケビン、一緒に行きます。一人じゃ無理です」 

 エンジン音。別の装甲トラックか? 

「ダメだ、トラックが来る。こいつらの面倒を見てやってくれ。何を積んでるか分からん。くれぐれも気をつけてヤツらの注意を引いてくれ」

 うん、我ながら無茶言ってる。でも身の危険を顧みず囮になれ、なんてのは冒険者の仕事じゃない、死んで花実が咲くもんかいってことだ。

 俺は身をかがめ木々の間を縫って道路沿いに東へ向かう。なるべく道路から見えないように、近づきすぎないように気をつけながら先へ進む。ジェシカ達の方から銃声。装甲トラックの装甲に決まった規格なんてない。ものによって厚みも装甲の質もバラバラだ。上手くいけばM11でも脅威になる。撃たれている匪賊も気が気じゃないだろう。反撃の機関銃の銃声。よし、いま前に出てる装甲トラックは無反動砲を積んだヤツでも50口径でもない。

 木を盾に一休みだ。さすがに重い。息を整え道路の様子をうかがう。このあたりまで来ると枝を払ったりしてないから見通しは良くない。装甲トラックは何台いるんだろう。中でも問題はあの無反動砲だよな。あれだけは潰さねえと。

 曲射で上手く上から落とせればむき出しの無反動砲なんか一発でお釈迦にできるがこの林の中じゃ難しいな。となると側面の装甲を狙うか。それとも足回りを狙うか。さっき見た時は確かスカートはついてなかったよな。

 参ったな。木の葉で上の方がよく見えない。目の前のトラックがやっかいな無反動砲を積んだヤツかどうか、見分けがつかない。見えないからってあんまり近づくのも危ない。グレネードの爆発に巻き込まれちまう。

 だめだ、仕方ない。少し近づこう。下生えの中を這いずって進む。左右を見る。まだ路上のトラックを見通せない。

「モタモタすんな。弾込めに何分かかってやがる」

「雑魚は片付いたのか?」

 うえ、意外と近いところで声がした。思わずその場で固まる。俺は地面、俺は地面。

「片付いてねえよ。こいつで雑魚を吹っ飛ばしちまえ」

 勝手なこと言ってやがるな。

「ああ、手下どもを大分やられた。このまま引き下がっちゃあ立つ瀬がねえ。百姓どもに逆らったらどうなるかしっかり思い知らせてやる」

「それといっつも余計なところにしゃしゃり出て邪魔ばっかりしやがる冒険者どもにもな!」

 まあ、俺たちがいるのはバレないわけないわな。

「よし、道を開けろ!」

 左の方に停まって機銃を撃っていた装甲トラックがエンジンを吹かしてバックしながら路肩に寄る。無反動砲を積んだトラックもエンジン音を上げながらゆっくりと動き出した。

 この隙に後ろに下がる。無反動砲を積んだトラックはどれか分かった。グレネードの爆発に巻き込まれないように、最低限の距離はとりたい。俺は死んだ英雄なんかになりたくない。トラックがいい位置に来た。まだ安全距離まで下がれてない。太めの木の横でグレネードランチャーを構える。盾になってくれよ。軽い発射音とともにグレネードが飛んで行く。木の陰に入る。次弾装填。グレネードの爆発音、装甲トラックの側面に命中したと思うが効果は分からない。こちらの居場所がバレる前に何発打ち込めるか。木の陰からさっきと反対側に出る。やっぱりトラックはまだ動いている。もう一発グレネード発射。さすがに南側の木立から撃たれたと判ったか、装甲トラックとその周りの徒歩の賊徒からメチャクチャ撃たれている。殆どは闇雲に林の中に撃ち込んでるだけだが、さすがに恐ろしくて頭を上げられない。下手に撃ち返したらかえって居場所を特定されそうだ。

 銃声と弾の擦過音、生木に銃弾がめり込む音。音が聞こえてる間はまだ生きてる。でも、時間の問題だ。

 誰か助けてくれ!

 爆発音、そして俺の記憶はそこで途切れた。

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