第19話

 今ごろ、匪賊は慌ててるはずだ。チョロい村の筈がしっかり抵抗してるんだからな。建物にしこたま撃ち込んでも建物からの反撃は止まないし、建物のそばの掩体からも撃たれてるハズだ。しかもこんな村にある筈のない機関銃や対物ライフルまで撃ってくる。


 村の方から銃声を圧倒する爆発音。無反動砲か対戦車ロケットか? くそ、ここからじゃよく見えないな。

「ジェシカ! 何があった? 建物は無事か?」

「はい、建物は無事です。爆発は離れたところでありました。匪賊が無反動砲か対戦車ロケットを撃とうとしたのをギリギリで阻止したんじゃないでしょうか」

「判った。監視を続けろ」

「ケビン、ビッグジョーだ。テクニカルが後退しはじめた。2台だ。地雷を踏まない限り林に入るまで手を出すな」

 ビッグジョーのヤツ、もう前に出てきたのか? いつの間に役場から出てきたんだ? いや、今はそれどころじゃないな。

「ビッグジョー、ケビンだ。判った」

 なるほど、道を塞ぐ気か。もし、空き地に後続がいてもテクニカルの残骸が道を塞いでりゃ時間が稼げる。


 俺はM11を置いて、代わりにM791グレネードランチャーを持った。グレネードランチャーは単発の中折れ式で木の銃床がついている。マットに聞かされたウンチクだと大昔にチャーリーキラーなんて呼ばれたヤツをまねて作られたんだそうだ。なんで「チャーリー」なのかマットも知らないらしいがな。昔使われていたときに不評だったところまでまねなくて良いだろうと言うことで、昔はできなかった自動排莢ができるようになっている。

 グレネードランチャーのロックを解除して中折れ状態にする。雑嚢から汎用グレネードを4発取り出し、三発をそばに並べ残り一発を手に取る。装填。銃身を戻してロック。

 トランシーバーの通話ボタンを押す。

「イカサマ、ケビンだ。テクニカルが2台後退してくる。林に入ったら運転手と機銃手を制圧してくれ」

「判った」

「こっちはタイミングをみて、グレネードをぶっ放す」

「撃つときは言ってくれ、頭下げとく」

「判ったよ。ケビンから以上」

 トランシーバーを置いて隣の掩体にいるジェシカに声をかける。

「ジェシカ! テクニカルが2台後退してくる。林に入ったら運転手と機銃手を制圧しろ。反対側からイカサマも撃つから、気をつけろ」

「判りました」

「来るぞ!」

 言いながらリベラにアンテナを伸ばしたままのトランシーバーを放る。リベラが慌ててキャッチする。

 畑の中で転回した2台のテクニカルが路上をやって来る。荷台の上の機関銃は後ろに向かって断続的に射撃を続けている。テクニカルが林の中の道路に入る。ほぼ同時に道路の両側から銃弾が襲いかかる。木立越しに揺れる車の側面がたちまち穴だらけになる。

「リベラ! グレネードを撃つ。イカサマに伝えろ!」

 返事を待たず、グレネードランチャーを構える。気の抜けたような発砲音とともに40ミリグレネードが飛び、木の間を通り抜け約30メートル先のテクニカルに向かって一瞬で到達。キャビンのドアに命中。テクニカルは道を外れ木立に突っ込んで停まった。荷台にいた機関銃手も振り落とされて地面にたたきつけられ、バウンドした。血まみれだ。あれは死んだな。

 前を走るテクニカルが爆発し木立に突っ込んだのを見た2台目のテクニカルは慌ててブレーキを踏み、ハンドルを切って追突を回避しようとしたが間に合わなかった。そこへ銃弾が襲いかかり運転手も機関銃手もボロ布のようにくずおれた。

「リベラ、ビッグジョーにテクニカルを始末したと連絡してくれ」

 グレネードランチャーのロックを解除。中折れにするとグレネードの薬莢が自動排莢される。次弾を装填し、ロック。

 木に突っ込んだテクニカルとそれに追突したテクニカル。道はほぼ塞がっている。村の方からは今も盛んに銃声が聞こえる。あてにしていた後ろ盾のテクニカルがなくなって、匪賊の連中、逃げ出したくて仕方ないだろうな。まあ、逃がしはしないんだが。


「ビッグジョー、マットだ。西は片付いた」

「マット、トラックはいたか?」

「ああ、機銃積んでたからな、テクニカル代わりに駆り出されたんだろう。グレネードで片付けた」

「よし、まだ隠れてるヤツがいないか、少し先まで見てくれ」

「判った。マットから以上」

 西は東の連中と連絡とってなかったのか? 匪賊らしいずさんな計画だ。


「ビッグジョー、ジャクソンだ。匪賊のヤツら煙幕をはった。下がる気だろう」

「ああ、こっちからも見えてる。すんなり下がらせてやる必要はない、当てずっぽで言い、射撃は続けろ。…ブトコフスキー、上から見えるか?」

「ビッグジョー、ブトコフスキーだ。いや、よく見えないな。だけど、煙幕のエリアは大きくない」

「判った。匪賊が見えたら撃っていい」

「了解」

「ケビン、ビッグジョーだ。聞こえてたと思うが、匪賊が煙幕をはった。たぶん、そっちへ行く。地雷原に踏み込んだら撃て」

 リベラからトランシーバーを受け取り通話ボタンを押す。

「ビッグジョー、ケビンだ。判った。イカサマ。聞こえたな」

「ああ、任せとけ」

 さあ、俺たちはこれからが本番だ。

「ジェシカ! 匪賊がこっちへ来る。匪賊が地雷原に踏み込んだら撃っていい。グエンにも伝えろ」 

「分かりました!」

 もともとあんまり統制なんて取れてない匪賊の連中は逃げるとなったら我先だ。さあ、せっかく埋めた地雷だ。引っかかってくれよ。


 さっきの爆発よりはずっと近くで爆発。匪賊が地雷に引っかかったな。グエンのM423が射撃を開始した。賊徒め、あと何人くらい残ってるんだろう。

「リベラ、ビッグジョーに射撃開始を伝えろ」

「分かりました。…ビッグジョー、第3分隊リベラです」

 断続的に地雷の炸裂音がする。誰かが地雷に接触したら、地雷が跳び上がる。地雷の底についている紐が伸びきったら起爆。300個の鉄球をあたりにまき散らす。地雷に接触した賊徒だけでなくここから逃れようと走っている賊徒、伏せている賊徒、撃たれてのたうち回っている賊徒、すでに事切れている賊徒に平等に地雷がまき散らす鉄球が襲いかかる。後ろ盾のテクニカルを全て失い、村の背後を突くはずだった西からの攻撃もあっさり対処され、地雷原の中で身動きもできず這いつくばっている匪賊は全てを呪っているだろう。ふん、自業自得だ。恨むなら匪賊になった自分の選択を恨め。


 それにしても、空き地の方がどうも気になる。念のためだ、見に行くか。何もなけりゃないでそれいいんだし。

「リベラ、トランシーバー」

 リベラがトランシーバーを渡してくる。

「ビッグジョー、ケビンだ」

「ドンパチうるせえが聞こえるぞ。なんだ? 問題か?」

「いや、そうじゃねえ。どうにも東の空き地が気になってな。ここをイカサマに任せて見に行っていいか?」

「ケビン、ダメだ。そこをしっかり守れ」

「何か隠し球があるんじゃ…あれ? ちょっと待て」

 エンジン音だ。それも複数。

「言わんこっちゃない。ビッグジョー、東から複数のエンジン音だ。テクニカルよりデカいぞ」

 くそ、さっきからのイヤな感じはこれかよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る