第17話

 倉庫に集合した民兵に配置が告げられた。俺の分隊は今日は掩体で夜明かしだというと、民兵達が不満げな顔をした。まあ、そうだろう。なんで自分たちだけベッドで寝られないんだってなるよな。持ってくものも多くて重たいしな。


 三日分の携行食と水筒に軽機の弾薬箱を含む三日分の予備弾薬。夜露をしのぐためのポンチョと着替え。掩体の補修や生理現象のあと始末のための折りたたみシャベル。ここまでは全員共通で同じ詰め方で背嚢に入れたり括り付けたりしてある。これに加えてリベラとイカサマはトランシーバーと予備バッテリー。アンダーソンとグエンはM11よりも重いM423を担ぐことになる。分隊長の俺は対戦車ロケットとどちらにするか迷ったんだが、テクニカル相手だし、数撃てる方が良いだろうとM791グレネードランチャーを背嚢の一番上に括り付けた。斜めがけした雑嚢に30発入れた汎用グレネードは対人はもちろん、一応は対装甲能力もあるからな。まあ、対戦車ロケットとは比べものにならないが、テクニカル相手なら十分だ。装甲トラック相手だとちょっと頼りない。


「マーチン。なんで、俺たちだけ自分のベッドで寝られねえんだと思ってるよな。だがな、目的を忘れるなよ。匪賊を袋の鼠にして皆殺しにするのが目的だ。そのためには罠なんか仕掛けられてない、ちょっと脅せば言うこと聞くチョロい村だと匪賊に思わせておかねえとな」

 まだ「それはそうだけど、それと何の関係が?」って顔だな。

「俺たちが2日連続で村はずれの掩体まで歩いたら畑や草むらに踏みあとができちまう。ひょっとしたら俺たちが掩体に向かって荷物背負って歩いてるときにやってくるかも知れねえ。もちろん、匪賊なんてボンクラだから踏み跡あったって気付きゃしねえ、早起きな匪賊なんていねえから歩いてるときにやって来やしねえ、かも知れねえ。だけどな、相手がボンクラだとかマヌケだとか期待するな。たいてい、そういう期待をするヤツの方が痛い目を見る。相手は俺たちよりも賢いかもしれねえ、俺たちよりも強いかもしれねえ、俺たちよりもちゃんと準備をしているかもしれねえ。常にそう思って準備しておけば、ひどい目に遭うことは滅多にねえよ」

「だから、リスクを減らすために前もって掩体に潜んでおくってことですか?」

「そう言うことだ、マーチン。お前ら、手が止まってるぞ」


 荷物を詰め込んだ背嚢を背負い、それぞれの武器を持った俺たちはこの間と同じ路上パトロールの2列縦隊で東の掩体へ向かった。

 畑がおわり草むらになる10メートルほど手前で俺たちは道を外れた。

「イカサマ、そっちは頼んだ」

「ああ、任された」

 イカサマのA(アルファ)チームが道の北側の掩体に、ジェシカのB(ブラボー)チームが道の南側の掩体に陣取る。俺とリベラもトランシーバーの配分の都合で道の南側だ。

 セーフティーを解除していないので踏み込んでも問題ないが、他の休耕地や畑と比べてイレギュラーな足跡をつけたくないのもあって地雷原を迂回する。

「すこし散開しろ。変な踏み分け道ができないように気をつけろ。ここから先は静かにしろ」

 草むらをぬけ、木立に入る。ジャクソンの分隊が掘った掩体に後方から接近する。道を挟んで設置された掩体は同士討ちにならないよう射界をずらして掘ってある。

 先頭を行くジェシカがストップサインを出す。ジェシカが手信号でここへ来る前に決めたとおり地雷原に向かって一番射界が広く取れそうな位置に掘られた掩体にグエンとロペスを配置した。その隣にジェシカとディアスが入り俺とリベラはその隣だ。

 掩体は俺たちにはなじみのある冒険者訓練所推薦の二人用簡易掩体だ。全体の形としては真ん中がへこんだ長方形というか「凹」に近い形だ。両端の飛び出した部分に射座がある。掘ったときに出た土や石を積み上げて正面と側面に十分な強度を持った胸壁が作ってある。深さも幅も問題なし。匪賊が使っていることは滅多にないがそれでも念のため手榴弾溝もちゃんと掘っている。掘ったときに剥がした雑草の生えた土を掩体の胸壁に貼り付けて掩体が目立たないようにしてある。さすがはジャクソンの仕切りだ。良い仕事だ。


 俺は地雷のリモコンが二つ置いてある掩体の左側の射座に入った。赤いリボンが結んである方がリモコン起爆用だったな。もう片方の白いリボンが結んであるリモコンを取り上げる。地雷のセーフティはかかったままだ。これは袋の口を閉じるときに解除する。

「リベラ、小隊本部に配置についたと連絡しておけ」

「了解しました」

 さて。匪賊の連中、今日来るかな。


 途中、交代で食事を取り、さらにダレないように少しずつ不自然にならない程度に射界を塞ぐ藪を刈り取ったりしながら、その日は夕方まで警戒を続けた。だが結局、匪賊は現れなかった。律儀な匪賊だ。予告通りきちんと一週間後の明日、略奪に来るのか。


 今回の一件で助かるのは匪賊の夜襲を考えなくて良い点だ。匪賊の狙いが村人を脅しつけて小麦をかっさらう事なら明るい昼間に積み込みさせた方が村人を監視するにも楽だしな。なにしろ冒険者も匪賊も普通は夜戦装備なんて持ってないし、持っていてもせいぜい照明弾がいいところだ。いくらこの季節の夜が短いからって闇夜にやって来て小麦を略奪する間、ひっきりなしに照明弾を打ち上げるとか、車のエンジンかけたままライトで一晩中照らすとか、そんな勿体ないことをやるヤツはいないよ。

 三時間交代で一人が見張りをし、残りは掩体の中でポンチョをかぶって睡眠を取る。夜の林にいる動物はいつもと違う気配を感じて掩体の方には近寄ってこないが、そんな知恵のない虫やら蛇やらトカゲやらは掩体に入り込んでくることがあるのがやっかいだ。下手に忌避剤を撒くと匂いで匪賊に気付かれやしないかと気になるし、匂いの割に効果が薄いし、我慢するしかない。このあたりには毒蛇がいない筈なのが救いだ。

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