第15話

 今日もデブリーフィングを行う。パトロールで見た周辺の様子、射撃訓練の状況、陣地構築の進捗。どの分隊も特に問題はない。ジャクソンの分隊が行った掩体の構築はやっぱり、草の根木の根で大変だったらしい。さもありなん。それでも東西の道路脇の林の中に掩体を掘り終えてくれている。ありがたや、ありがたや。

 あとは地雷の埋設か。


 地雷をどこにどれくらいの密度で埋めるかって話になるとマットをはじめ重火器班の独壇場になる。優秀な戦闘指揮官であるビッグジョーも一家言あるが、マットやカウボーイにはかなわない。

「匪賊を逃がさないための地雷だが、林から出て畑に入るまでのあたりの草むらに敷設するのは必須として、70センチ間隔くらいか?」

「そうだね。目立たせたくないからトリップワイヤーは使えないし、それくらいかな。70センチ間隔でこの範囲に互い違い敷設だね」

 マットが地図に指でぐるっと楕円を描いた。

「なるほどな。このくらいの範囲ならジャクソンの分隊が掘った掩体からリモコンのケーブルも届くか」

「そうそう。で、俺としちゃ、それとは別に道路のすぐ脇にリモコン起爆用の地雷を埋めといた方がいいと思うんだ。まあ、ないとは思うんだけど誰も地雷に引っかからないなんてことがあってもリモコン起爆させればかなりカバーできるからね」

 そんな幸運の女神にえこ贔屓されてるようなヤツが匪賊にゾロゾロいるなんて思えねえけどなあ。念の入ったことだ。

「よし、東西ともそれでいこう。マット、狙撃班以外全部お前に預けるから明日一日で地雷の敷設を終わらせてくれ」

「すみません、ビッグジョー。村長がうるさくて」

 あれまあ、そういう事? ばあさん、こっちの専門分野に口出すなよ。

「ああ、仕方ねえ。依頼主だからな。大隊にクレーム上げられちゃたまらん」

 うげ、マジかよ。そこまでする気なの? あの人。


 翌朝、集まった民兵にブッカーから作業予定が告げられた。マットが後を引き継ぎ、狙撃班以外の全ての民兵を分隊ごとに別れて座らせ、これから地雷について説明すると告げた。民兵の顔には扱ったことのない「地雷」と言うものに対する漠然とした不安が浮かんでいた。


 マットが民兵の前に立った。ここは専門家であるビッグジョー分隊重火器班リーダーの出番だ。ヤツの足下にはM27対人地雷が30個入ったケースが置かれている。

「小隊軍曹から話があったとおり、今日はおまえ達にM27地雷を設置してもらう。今から俺が言うことをよく聞いておけば難しいことは特にない。まず、ケースから出す」

 マットはケースの蓋を開けて直径12センチくらいで高さが15センチくらいの円筒形の缶詰のような地雷を取り出した。

「これがM27地雷だ。信管が作動すると地面から1メートルくらい跳び上がって、そこで爆発し、300個の鉄の玉を周りにまき散らす。殺傷半径は約20メートル。つまりこの地雷を踏んだヤツだけでなくそいつの周りにいるヤツもまとめてぶっ飛ばすことができる優れもんだ」

 嬉しそうだなマット。民兵がひくぞ。

「この穴が開いている方が上だ。この穴に一緒にケースに入っているこの棒をカチッと音がするまで差し込む。この棒は多目的信管だ」

 太めの鉛筆の尻に針金のヒゲが生えたような金属の棒をケースから取り出して缶にはめ込んだ。

「多目的信管をはめ込んだら、信管のここの部分にチームリーダから渡されたケーブルを差し込んで留める。チームリーダが持っているテスターに緑のランプがつけば信管が正常でケーブルも正しく接続されている。ランプがつかない場合は信管が正しく差し込まれていないか、ケーブルが正しく接続されていないので再点検しろ。どうしても緑のランプがつかない場合は不良品なので使わない。不良品の扱いはチームリーダーの指示に従え。あとは地雷の多目的信管の先が地面から出るくらいの穴を掘って埋めるだけだ。多目的信管の先の針金のヒゲを踏んだり、設定以上の力で触れたりすると起爆するようになっている。なるべく元の土や草を使って自然な感じに埋めろ。ケーブルにも土をかけるか、雑草をかけてぱっと見て判らないようにしろ」

 マットはニヤリと口角を上げ話を続けた。

「マズいことやって暴発したらどうしようなんて心配はするな。この地雷はケーブルで繋がったリモコンでセーフティーを解除しない限り作動しない。セーフティーを解除したあとは危険だから、地雷を埋めたエリアには近づくな。匪賊に踏ませるための地雷におまえ達が引っかかるなんて間抜けなまねはしてくれるなよ。ここまでで何か質問はあるか?」

 すらりとした黒人の女性の民兵が手を上げた。確かジャクソンの分隊のマルティネスだっけか?

「軍曹、匪賊を撃退したあと、埋めた地雷はどうなりますか?」

「マルティネス、心配はもっともだ。村を守るために埋めた地雷に自分たちが引っかかっちゃ意味ねぇよな」

 マルティネスだけでなく、他の民兵もうなずいている。

「さっきも言ったが、この地雷はリモコンでセーフティーの操作ができる。作動しなかった地雷はリモコンでセーフティーを掛ければ、安全に掘り出して回収できるって寸法だ。判ったか?」

「はい、軍曹。ありがとうございます」

「よし。他に質問は? …それじゃあ、各分隊長の指示に従って作業にかかれ。以上だ」

 確かに地雷の設置自体は手順を守れば誰でもできる。専門家のスキルが要求されるのはどこにどれだけの密度で設置すれば効果的かという設置計画を立てるところだ。

特に道路脇に埋める地雷はリモコンで遠隔爆発させるためだから特に配置計画が重要なんだ。


 素人ばかりだったので15時頃までかかったが、予定通り東西の道路脇の地雷の設置を終えることができた。セーフティはかけたままだ。残った時間で東西の建物脇の掩体に麦わらをかぶせて麦わらの山みたいに偽装もしてみた。一応、これでビッグジョーが考えた防備は整ったことになる。代わりに今日はパトロールも射撃訓練もできなかったが。

 

 俺たちも含め、全員があちこちに土や藁くずや草の汁をつけて倉庫に戻った。

 ビッグジョーがいつものようにブッカーとデマレスト伍長を従えて現れた。今日からは軍隊式こけおどしはやらないはずだ。さて、どんなふうにするのかな。

「ご苦労! おまえ達が頑張ってくれたおかげで村の防備は整った。匪賊が予告した一週間後まであと二日だ。奴らが一週間前と同じ調子でのこのこやって来やがったら、返り討ちにしてやれ!」

 ビッグジョーが右腕を振り上げた。ここは乗っておかないとな。俺も拳を握った右腕を振り上げながら声をはった。

「返り討ちだ!」

 当然、ビッグジョー分隊は同じように拳を振り上げ声をはる。デマレスト伍長もだ。

「返り討ちだ!」

 民兵も加わって拳を突き上げ、声をはる。原始的だがこういった一体感ってのは案外バカにできないもんだ。

「俺たち冒険者とおまえ達民兵はすでに優秀なチームだ。寄せ集めの屑どもばかりの匪賊なんぞ叩き潰せ!」

 民兵が「おう!」と応える。うん、いいノリだ。

「よし、解散!」

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