第14話
昼飯のサンドイッチと大麦コーヒーを摂りながら軽い打ち合わせだ。なんだよ、いまだに大麦コーヒーなんて飲んでるのかって? いいだろ、高いんだよ、本物のコーヒーも紅茶も。この国じゃ栽培されてなくて輸入品の高級品だぜ。いいんだよ。生まれてこの方、ずっとコーヒーと言えばこれだった。これで十分だ。
「軽機の射手なんだが、アルファはアンダーソン、ブラボーはグエン。弾薬手はロドリゲス、ロペスを考えてる。おまえ達から見てどうだ?」
飲んでいた大麦コーヒーのカップを置いてイカサマが応えた。
「アルファは問題ないんじゃないと思う」
食べていたサンドイッチを飲み込んでジェシカもうなずいた。
「ブラボーも問題ないと思います」
「よし、今日の午後はまず、射撃掩体をもう一つ掘っておいてくれ。それが済んだらさっき言った4人に軽機の撃ち方、銃身交換のやり方を教えて実際に撃たせてやれ。残りの連中は俺の方で面倒見る」
「了解」
「判りました」
「面倒だが、撃たせるときにはシートを広げて弾薬ベルトと脱落した薬莢を回収しろ。畑だからな」
二人がうなずく。俺は声を潜めて続ける。
「覚えていると思うが、最悪はおまえ達が軽機を扱うことになる。その時は弾薬手を誰にする?」
「ケビン、おまえの目から見てロドリゲス、ロペスが良さそうだと思ったんだろ? じゃあ、この二人でいいよ。どうせどいつも実戦経験はないし、パニックを起こすかどうかなんて実際に撃たれてみなけりゃ判らん」
ジェシカもイカサマのセリフにうなずいている。
「判った。じゃあ、それでいこう」
午後、俺たちは軽機を扱う6人と引き続きアサルトライフルの射撃を行う4人に分かれた。標的紙は、よりリアルな絵の描いてあるものに貼りかえた。今のところ誰も拒否反応は示していない。
単射から3点バーストに切り替え、訓練を続ける。ここまでは今のところ危なげなくこなしている。本当にこれで本番でパニックを起こしたり、人を撃てないとか言うヤツさえ出てこなければ安心なんだが。
その横で射撃掩体を掘り終えた軽機組が射撃を始めるようだ。マーチン達の射撃を止めて、軽機の射撃を見学させた。
まずはイカサマとジェシカが手本を示している。ジェシカが射手、イカサマが弾薬手か。軽機は発射速度が速い。短時間に大量の弾を撃ち、制圧、圧倒するための銃だ。それだけに扱いが難しい部分もある。一番の問題は弾薬の消費量が多いことだ。50連の弾帯なんて数秒で撃ってしまう相当の金食い虫だ。それに伴い発生する銃身の過熱だ。過熱前提だから予備銃身は常に必要で交換はワンタッチでできるようになっている。
今くらいの射撃ならまだ全然、交換しなくても大丈夫だがイカサマとジェシカは銃身交換も実演していた。
できるだけ過熱を避けるために普通は1秒とか2秒しかトリガーを引かない。もちろん銃身が過熱でだめになるのを覚悟でフルオート射撃を行い敵を圧倒しなければならないこともないわけじゃないけどね。だが、普通は1秒か2秒、これでも毎秒10発の弾が発射される。
アンダーソンとロドリゲス、グエンとロペスがそれぞれ位置についた。最初は弾帯を装填せず、空打ちだ。1秒、1秒、1秒。トリガーを引き、そして戻す。50発弾帯を装填する。
「アンダーソン、はじめろ」
アンダーソンがトリガーを引く。連射音が響く。慌ててトリガーを戻すが弾帯は三分の二くらい呑み込まれていた。
「もう一度」
再びアンダーソンがトリガーを引く。今度はさっきよりは短い時間でトリガーを戻せたが、弾帯はもう、ほとんど残っていない。
「そのまま待機」
続いてジェシカがグエンに指示を出す。
「グエン、はじめろ」
アンダーソンを見ていたグエンは一つ深呼吸するとトリガーに指を掛けた。連射音。指を戻す。弾帯は三分の一くらい呑み込まれている。
「もう一度」
「もう一度」
三分の一ずつくらい弾帯が呑み込まれていった。
「グエン、そのまま待機」
「ロドリゲス、弾帯を連結しろ」
「ロペス、弾帯を連結しろ」
軽機の横に置いた弾薬箱から新しい弾帯を取り出し、使用中の弾帯に連結する。
「アンダーソン、意識しろ。1秒だ。いいな。」
「はい、伍長」
「よし、再開しろ」
二人とも50発弾帯5本を打ち尽くす頃には何とか、それらしくなってきていた。こればっかりは慣れもいるから仕方ないがな。
射撃訓練を終えた俺たちは車座になって小休止していた。板から外してきた標的紙を見ると、やはり大体は中心部に当たっていた。
「マーチン、どうだ? M11を撃ってみた感じは」
「はい、最初こそ違和感ありましたけど慣れれば問題ありません。照準もM11の方が合わせやすいですね」
「そいつはよかった。聞いてるとは思うが今回の騒ぎが終わってもこの銃を使うことになるからな」
「はい、デマレスト伍長から聞いてます」
「軽機関銃を担当する4人もアサルトライフルの腕は磨けよ。鹿やイノシシ相手には機関銃は向いてないぞ」
「はい、軍曹」
アンダーソンがちょっとがっかりした感じで応えた。まさかあんなもの抱えて害獣駆除に行くつもりだったのか? まあ、一度でもあれ持って走り回ったら意見変わると思うけどな。
「で、M423を撃ってみてどうだ? 問題なく扱えそうか?」
グエンが頷きながら応えた。
「はい、軍曹。問題ありません。使っている弾がM11と同じとは思えないくらい給弾方法も発射速度も全然違うので少し戸惑いましたが感覚は掴めたと思います」
「よし、頼もしいな。M423は分隊の火力のカナメだ。M423の射手がボンクラだと出さなくていい犠牲が出てしまうことになる。アンダーソン、グエンだけじゃない。おまえ達全員、今日習ったことをしっかり覚えて、村を守るためにしっかりと役目を果たせ」
俺は一旦、言葉を切って分隊のメンバーを見渡した。
「俺たちは冒険者、おまえ達は民兵で農民だ。こんな事でもなければ一生、接点はなかったかも知れねえ。だが、なんの因果かこうして肩を並べて戦うことになった。こうなった以上、俺たちはチームだ。撃たれりゃ死ぬ同じ人間だ。なんの違いもねえ」
そう、撃たれりゃ死ぬんだ。おまえ達意識してたか? それとも敢えて考えないようにしていたのか?
「だが、俺たちはおまえ達より少しばかりこういう事に詳しくて場数を踏んでる。だから俺たちは、いま、おまえ達に死なないための基本的なコツを教えている。教えたことをしっかり覚えてその通りにやれば全員で生き延びる可能性が上がるってワケだ」
不安そうな顔しているヤツもいるな。
「自分はちゃんとやれるかとか、撃たれたらどうしようとか、今からクヨクヨ考えるな。今回に限って言えば、俺たちはしっかり準備している。新しい銃も用意した。機関銃も、対物ライフルもある。俺たちの言うことを聞いてその通りに動けば大丈夫だ、安心しろ」
まあ、冒険者だって本当に図太いヤツ、勇敢なヤツなんてそうはいない。同時にどうしようもない臆病者もいないもんだ。
「それでも、撃たれたら逃げ出したくなるかも知れねえ。そんなときは、自分の隣に誰がいるかを思い出せ。自分が逃げたら隣にいるヤツはどうなる? 撃たれたら冷静に狙って撃ち返せ。撃ち返して自分を狙ったヤツを倒せ。隣のヤツだって逃げ出したいのを我慢して踏ん張ってんだ。いいな、俺たちはチームだ。チームで戦って、チームで生き延びるんだぞ」
「返事はどうした!」
イカサマのヤツ、いいタイミングだ。
「はい、軍曹」
「聞こえねえぞ!」
「はい! 軍曹!」
「よし、倉庫に戻るぞ」
「はい! 軍曹!」
あーあ、柄にもなく一席ぶってしまった。小っ恥ずかしい。イカサマめ、横目で笑ってやがる。覚えてろ。
倉庫に全ての分隊と狙撃班が整列した。ビッグジョーが今日もブッカーとデマレスト伍長を従えてその前に立った。今日も軍隊式こけおどしを行って解散となった。ビッグジョーの言うとおりなら、明日からはもう少し砕けた感じになるはずだ。
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