第13話

 民兵を解散させたあと、今日もデブリーフィングを行う。パトロールで見た周辺の様子、射撃訓練の状況、陣地構築の進捗。どの分隊も特に問題はない。今日はジャクソンの分隊が畑の北側の林の中をパトロールしたがやはり北側の林も車両が抜けられるような隙間はないようだ。明日はジャクソンの第1分隊が東西の道路脇の林の中に掩体掘ることになっている。

 狙撃班は耐弾化の済んだ見張り台から東西の検問所、キルゾーンとして考えているエリア、野原から畑への入り口のあたりなどのポイントへの距離を測ったり、風向風速を知るための小さな旗(というかスカーフのような布)を端の家の屋根に立てたりしていくそうだ。


「ビッグジョー」

「何だ? ブッカー」

「軍隊式こけおどしはいつまでやるんだい?」

 ビッグジョーは少し考えて応えた。

「そうさな、明日はまだ続けとこう。それでローテーションが一巡するから、そこで軍隊式こけおどしは終わりだ」

「わかった。みんなもそれでいいな? 明日もう一日、ボロ出すなよ」


 三日目、今日は俺の分隊は射撃訓練だ。やっとだぜ。心配はしてなかったけどやっぱり何もなくて良かったとは思うね。新しい銃での射撃経験もないままドンパチなんてあり得ねえもん。

 俺たちは南の休耕地へ向かった。休耕地の南の端から林までは20メートルか30メートルくらい雑草だらけの野原になっている。シートを広げ、弾薬箱と軽機など運んできたものを置く。ありがたいことに昨日までにここで射撃訓練したマットの分隊やジャクソンの分隊がいろいろやってくれている。標的紙を留められるように林の木に板を打ち付けてくれているし、軽機の射撃用掩体も一つ掘ってくれている。ウチの分隊ももう一つ軽機の射撃用掩体を掘っておくか。


 分隊のメンバーが雑草をかき分けて木立に釘止めされた板にダブルクリップを使って標的紙を留めた。まずはオーソドックスな黒い同心円の書かれた標的紙だ。

 全員が戻り整列した。

「伍長、全員に実弾を配れ」

「了解。よし、お前ら。一昨日おとついもやったな。アルファベット順にホウからマガジンを受け取り、装填してセーフティーを掛けろ」

 全員が受け取ったマガジンを装着し、初弾を装填してセーフティーを掛けたのを確認する。問題なし。

「今日はここで射撃訓練をするわけだが、言うまでも無く今回の騒ぎが終わったらここはまた畑として利用される。だから薬莢はなるべく落とすな。薬莢がちょっとくらい落ちてたってトラクターが故障するとは思わんが、土に火薬かすや金属が混じると麦や野菜に良いことないってことだからな。まあ、本当に戦闘になったら気にしてられねえが、できる時は気にした方が良い。そこでこれだ」

 カートキャッチャーを取り出して見せた。訓練所で経費を浮かすために薬莢を回収するために使ってるヤツだ。

「これはカートキャッチャーと言う。M11の排莢口につけておけば、薬莢がこの中に溜まり、畑の土を汚さなくて済むという便利グッズだ。取り付け方は各チームリーダーの指示に従え」

 イカサマとジェシカがチームメンバーの間を回ってカートキャッチャーを取り付けていく。二人とも体が覚えている。全員が装着を終えるまで10分もかからなかった。


「よし、準備もできたところで、そろそろはじめよう。おまえ達はこの銃では射撃経験はないがこれまで使っていたライフルでの射撃経験はあるな?」

 答えは求めていない。話を続ける。

「ド素人相手みたいに射撃姿勢をいちいち指導しはしないが、これだけは言っておく。今さらだが、おまえ達がこれまで使っていたライフルと違って、M11のグリップはピストルグリップでストックから銃口まではほぼ一直線だ。だから反動を上手く肩に逃がすことができるはずだ。だが、全長が少し短く、弾速が早い分、銃口が跳ね上がりやすい。慣れないうちは特に注意しろ。最初は違和感があるかもしれないがマガジン一つくらい撃てばなんとなく感覚の違いに慣れるだろう。まずはアルファチーム。左から1メートル間隔で射撃位置に立て」

 イカサマが左端のアルファチーム用の射撃位置を示す標柱の横に立つ。そこを起点にアンダーソン、マーチン、ロドリゲスの順に立つ。

「ブラボーチームは三歩下がって楽な姿勢で見学しろ」

 ブラボーチームが最低限の安全距離に離れる。

「まずは単射だ。バリクザー伍長が手本を示す。よく見ておけ」

 さすがにベテランは射撃姿勢が決まっている。力みもなく自然な姿勢で肩付けする。銃口もぶれたりしない。セーフティーが解除され、セレクターがセミオートにセットされ、ごく自然にトリガーが引かれる。

 100メートル先の標的紙を留めた板を貫通して木の幹に弾が当たる音がした。多分、かなり中心に近いところに当たっているだろう。まあイカサマの腕なら当然だがな。


「最初から伍長のように上手く当てようなどと思わなくていい。まずは感覚の違いに慣れろ。伍長、はじめてくれ」

「了解」

 イカサマが列から離れアンダーソンの後ろに移動した。

「よし、アンダーソン。一発撃て」

 アンダーソンはライフルを肩付けした。ライフルグリップとのグリップの感覚の違いを確かめるように何度か握り直し、ようやく人差し指をトリガーにかけた。呼吸に合わせ、ゆっくりとトリガーを引いた。木の幹に銃弾が当たる音がした。うん、思った通りこいつら射撃の基本はできてそうだな。

 イカサマがマーチン、ロドリゲスにも撃たせる。どちらも問題はなさそうだ。この分ならブラボーチームも問題ないだろう、多分。

 あっと、いけねぇ。俺はリベラを手招きした。

「はい、軍曹」

「射撃訓練に関してはブラボーチームと一緒に動け。いいな?」

「了解しました」


 イカサマがアルファチームに自由に射撃をさせはじめた。ブラボーチームもそろそろはじめさせるか。

「ブラボーチーム、射撃位置に移動」

 ブラボーチーム用の射撃位置を示す標柱の脇にジェシカが立つ。さすがに言われなくてもブラボーチームはディアス、グエン、ロペスの順に1メートル間隔で射撃位置に立つ。リベラが一番右端に立った。

「ホウ、はじめてくれ」

「はい、軍曹」

 ジェシカが標柱脇を離れ、的前に立つチームメンバーの後ろに回った。

「ディアスから順に私の指示でまずは一発ずつ撃て。それではディアス」

「はい、リーダー」

 うん、こっちも任せておいて大丈夫そうだな。


 俺は弾薬箱と軽機を置いたシートのところに戻って射撃訓練を観察しながら考えた。軽機の射手と弾薬手を誰にするかだ。今回は贅沢にも各チームに軽機が1丁割り当てられている。軽機もなあ、軽く10キロあるからな。今回は持って走り回ったりはしなくて良いとは思うが、陣地転換の時にはやっぱり持って移動しなきゃならないし、射手は筋力のありそうな男にやらせるのが無難だよな。となるとアルファはアンダーソン、ブラボーはグエンあたりか。

 弾薬手は弾薬箱を運んだり給弾ベルトの給弾補助だけでなくスポッターと同様、視野の狭まりがちな射手に目標指示や周囲警戒もしなきゃならない。その上、もし射手が殺られたら代わって射手をやらなきゃならない。なるべく冷静なヤツがいいな。ロドリゲス、ロペスか?

 昼飯時にでもイカサマとジェシカに確認するとして、午前中はこのままライフル射撃を続けよう。


 新しいマガジンを取りに来たイカサマとジェシカに次に全員が弾切れとなったら一旦、射撃を休止し、標的紙をマンターゲットに換えるよう指示した。人型だが、単なる黒塗りの人型だから抵抗はほとんど感じないだろう。生身の人間を撃ったことのない奴らばっかりだかなら。ジャクソンも危惧していたことだが、いざという時にビビってトリガーが引けなければ、そいつだけでなく周りも危険にさらされる。ほんとに、最悪、匪賊のいる方に向かって撃ってくれるだけでもしてくれないとな。

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