第11話

 村に戻ったのは16時になろうとする頃だった。ゲートが開いたままの検問所を過ぎ、端の民家のそばに近づくとマットの分隊と手空きの村の住民が掩体掘りに励んでいるのが見えた。これなら掩体作りはそこそこ早く済みそうだ。

 南の端の休耕地からはジャクソンの分隊が戻ってきている。昨日の打ち合わせ通り木立に向かって射撃訓練をしていたんだな。

 倉庫に戻るとマーチン達民兵から実弾を全て回収する。彼らを信用していないわけじゃない。射撃訓練が済むまでは念のためと言うことだ。

「よし、そのまま聞け。おまえ達に戦闘のイロハを一から手取り足取り教えている日程的な余裕は残念ながらない。たとえば、おまえ達には今日。路上パトロールのやり方のさわりを教えたが、明日パトロールにでる分隊は林の中をパトロールする方法を習うだろう。互いに欠けている部分を教え合え。一回やっただけで身につくほど簡単ではないが人に教えるために整理すれば理解が深まる。そうやって生き残る可能性を上げろ。以上だ」


 そんな話をしていると今日の分の防御陣地構築を終え、汗だくになったマットの分隊と射撃訓練をしていたジャクソンの分隊が倉庫に入ってきた。それに俺の分隊が加わり昨日のように整列する。ビッグジョーとブッカー、デマレスト伍長がその前に立つ。今日も軍隊式こけおどしを行って民兵を解散させた。


 昨日も使った役場の部屋に集まった元々のビッグジョー分隊とデマレスト伍長は今日のデブリーフィングを行った。民兵の連中も俺が言ったみたいに互いに知識の共有をやってれば良いんだがな。


 民兵の射撃の腕は悪くない、とジャクソン。ブトコフスキーも頷いている。狩猟用ライフルとアサルトライフルの違いにさえ慣れれば結構いけるとのこと。だが、とジャクソンが話を続けた。

「民兵は今まで害獣は撃って駆除してきた。だが、だからと言ってだ。デマレスト伍長、村の民兵は匪賊を、生身の人間を撃てると思うか?」

 それだよ、やっぱり。4つ足じゃなく2本足を撃てるかってとこだよな。デマレスト伍長は言葉に詰まった。冒険者でもそういう「撃てない」ヤツはたまにいるが場数さえ踏めば大抵は撃てるようになる、か、でなけりゃくたばっちまう。

「ビッグジョー、どうする? 民兵がもし冗談抜きで人は撃てないとか言い出したり、撃ってもわざと狙いを外されたりしたらどうにもなんねえぞ」

 今の俺たちには民兵に場数を踏ませるような時間の余裕も機会もないからな。

「まあ待てジャクソン。まだ初日だ。各分隊が一通り射撃訓練を済ませてからでも遅くねえ。明後日、ケビンの分隊が射撃訓練やった段階で決める」

「だめだったらどうすんだ?」

「そんときゃな、ジャクソン。バーバラとベンを民兵と組ませて軽機の射手をやらせりゃいい。でもっておまえが残りの民兵5人の面倒みるんだ」

 確かに軽機は各分隊の火力のカナメだ。軽機を俺たちで押さえておけば民兵のライフルは最悪、にぎやかしでもなんとかなるってか? 冗談じゃねえぞ。けどまあ、最悪、そうなっちまうかねえ。今後のこともあるから民兵にはちゃんとやってもらいたいんだがな。


 次にマットが陣地構築の報告をはじめた。掩体作りや土嚢作りは畑を掘り返して荒らすことになるが、意外と村民の反発もなくむしろ協力的だということだ。今日は二人用の掩体を西に2個、東に4個掘り終えている。掩体を掘って出た土砂は全て掩体の胸壁に使ったとのことだ。

 東西の端の建物の補強、耐弾化は少なくともテクニカルが積んでる機関銃で撃たれても貫通しないように土嚢を積み上げることになった。見た目を変えるわけにはいかないので東西に面した部屋の内側の壁沿いに土嚢を積み上げ、2階の部屋は床にも土嚢を敷いておく。そうしないとタマを守るためにヘルメットに座る羽目になる。

 で、問題はその土嚢に入れる土砂をどこから取るかということだ。いろいろ意見は出たが、匪賊に遮蔽物として使われないような場所で麦を干していない畑や休耕地を掘るのがいいだろうということになった。デマレスト伍長によれば、村民はこの騒ぎが終わったら土嚢に入れた土砂を使って埋め戻していいのならと畑を掘り返すことを了解しているそうだ。まあ、普段より深いところまで土おこしするくらいの感覚なのかな。そのあたりの感覚はよくわからんが。


 俺の番。パトロールで見つけた匪賊の痕跡だ。テクニカルが4台とトラックが3台。少なくともこの間この村を脅しに来たときの匪賊の勢力と合致している。それと、俺の目から見た東側の植生や村の近くでは車両が道路から外れて木立の中を進むことは難しそうだという印象を受けたことを伝えた。俺には村の周り全部がそうかは分からないがデマレスト伍長によれば最近の鹿狩りやイノシシ狩りの時にも車両が通れそうな木立の隙間はなかったと思うとのことなので、まあ、大丈夫じゃないかな。

 袋を閉じるための掩体の場所の候補地もこのあたり、と印を付けた。実際に掩体を掘る前にチェックは要るがな。


 最後に狙撃班。対物ライフルの説明と長距離射撃の座学で一日が終わったらしい。距離が必要な射撃訓練の場所をどうするかはいま、考え中らしい。

 どの分隊も今のところ民兵からの反発もなく上手くコミュニケーションできているようだ。明日はジャクソンの分隊がパトロール、マットの分隊が射撃訓練。俺の分隊と狙撃班は土嚢作りか。

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