第10話
12時45分に俺たちが検問所の前で待っていると民兵が集まってきた。今日は検問所はゲートを開け放して無人で放置されている。デマレスト伍長によると昨日は俺たちが来ると判っていたから人を置いていただけで、普段は無人なんだそうだ。昨日も良いのかと思ったが、デマレスト伍長に言わせると検問所は業者のトラックの確認用らしい。ついでに言うとそれと同じ理屈で役場の屋根の上に建てられている見張り台も業者が来るとき以外は無人だそうだ。要は体裁をつけてるってことだな。冒険者にはよく判らん理屈だ。
「よし、さすがに丸腰でパトロールに出るわけには行かないからな。これから実弾を配る。アルファベット順にホウからM11のマガジンを受け取れ。受け取ったら装填してセーフティーをかけろ。ここまでは昨日やったな」
イカサマと俺が見守る中、アンダーソンから順にフルロードのマガジン一個を支給する。その場でマガジンを装着し、装填の上、セーフティーをかけさせる。今日は予備マガジンは支給しない。全員がこの動作を終えたのを確認する。
「命令なしにセーフティーを解除するな。勝手なことしたヤツは俺が撃ち殺す。一人のお調子者のせいで分隊が全滅するのはごめんだからな」
俺はマーチン達を睨めつけた。反感を買ったとしてもここは譲れない。
「おまえたちはまだこの銃で射撃訓練をしていない。だから撃つときも俺がいいと言うまでは単発射撃だけだ。単発でも一々ボルト操作が要らない分、おまえ達が使っていたライフルより速射ができる」
まだこの銃で射撃訓練を一回もやってないこいつらの射撃が命中するなんて期待はしてないが、他の銃での射撃経験はあるんだし、少なくともあさっての方向に撃つことはないだろう。ないよな? ないと良いな…。
「弾を大事にしろ。弾の切れ目が命の切れ目になる。伍長、全員のセーフティーを再確認しろ」
「了解、軍曹」
カードの席でイカサマを絶対に見逃さない鋭い目でイカサマが全員のM11を点検する。
「軍曹、問題なし」
「よし、今日は道路を辿るから単純な2列縦隊フォーメーションで行く。A(アルファ)チーム。リーダー、バリクザー伍長。右列、アンダーソン、バリクザー伍長。マーチン、ロドリゲスの順だ。B(ブラボー)チーム。リーダー、ホウ。左列、ディアス、ホウ、グエン、ロペス。俺とリベラは列の間に入る」
イカサマとホウが民兵を並べた。
「よし、それじゃあ、行くか」
ぞろぞろと歩き始めた民兵にイカサマが大声で注意する。まったく、狩りの時でもそんなにくっついて歩きゃしないだろ?
「お前ら、ピクニックじゃねぇぞ! 前を歩くものとは3メートル以上、間隔をあけろ。辺りに目を配って警戒しろ」
「リベラ」
「はい、軍曹」
「デマレスト伍長にパトロールに出ることを伝えろ」
「はい」
リベラが歩きながらトランシーバーのアンテナを伸ばし、通話ボタンを押した。
「デマレスト伍長、聞こえますか? リベラです。デマレスト伍長?」
ボタンを放し、応答を待つ。
「デマレストだ。聞こえるぞ、リベラ」
「デマレスト伍長、コロシモ軍曹の第3分隊、東検問所からパトロールに出ます」
「了解した。気をつけていけ。以上」
東検問所から延びる道路を辿る。道の両側はやがて畑が終わり雑草の生えた野原になる。畑と野原の境目には害獣対策の柵があるが、道路ががら空きだし。意味あるんだろうか? 野原から林の中に道路が入っていく。雑草に覆われかけているがまだはっきりとした轍がある。穀物の生産地としてあちこちの町や村とそこそこの往き来があるからだろう。道路から離れるとその奥は木立だ。様々なサイズの広葉樹が生えた林がある。誰も間伐とかもしてないのかな。少なくともこの方角から木の間を縫ってテクニカルで抜けるのは無理そうだな。
歩きながら民兵の動きをチェックする。一応、辺りに目をやっているが、こいつら何を探せばいいか、判ってんだろうか?
1時間ほど歩くとディアスが言っていた開けた場所が見えてきた。なるほど。ここなら確かにトラック3台くらいは停めておけそうだ。木立がスクリーンになって、ジョーンズ村からは完全に遮蔽されている。樹高も結構あるので多分、村の見張り台から見てもここに車が止まっているかは判らないだろう。
「伍長、アルファは300メートル前進して警戒」
「了解」
「ホウ、ブラボーは空き地の樹木線沿いに3メートル間隔で木立を警戒」
「判りました」
空き地を横切ろうとしたヤツはジェシカが停めている。よしよし、分隊のメンバーは誰も空き地に足を踏み入れてない。この季節だから草の勢いが良くてトラックが踏んだものも枯れてはいないようだが、よく見ると踏まれたあとは残っているな。道路からこの空き地へ乗り入れたのはやはり3台か。
徒歩の賊徒を降ろしている間、テクニカルはこの辺で停車して待ってたんだな。微妙に違うところに停めたみたいでしっかり台数分のタイヤの跡が残っている。ひのふのみのよ、とテクニカルは4台いたのか。
「ホウ、そっちに木立に踏み入ったような跡はあるか?」
木を盾にひざ撃ちの姿勢で警戒していたジェシカが振り返って手を振った。
「見当たりませんね。木にもこすったような跡はありません」
「よし、伍長に伝令を出せ。引き揚げる」
「グエン、伍長に伝令。撤収する、分隊に復帰せよ」
「はい、リーダー」
アルファチームに一番近いところにいたグエンがイカサマのいる方へ駆け足で向かう。空き地の樹木線にそって警戒していた他のメンバーも警戒を解いて動き出した。ロペスはジェシカを見習って木を盾にしてひざ撃ちの姿勢で警戒していたがディアスは立って木に寄りかかっていた。ああ、ジェシカも気がついていたか。注意しているな。藪や下生えの密度にもよるがなるべく姿勢は低い方がいい。目立ちにくいし下手に木に寄りかかると痕跡を残してしまうこともある。なにより銃口ってのは上を向きがちだから低い姿勢の方が撃たれにくいんだ。
村に戻りながらイカサマとジェシカが列を前後に動きながらそれぞれのチームメンバーに往路での民兵の動作や姿勢に欠けていたことを指導している。なにをどう探すのか、どちらの方向を見るのか、知っているのと知らないのとでは大違いだからな。
俺は往路には気づけなかった匪賊の痕跡が残ってないか周辺を観察した。賊徒やテクニカルが雑草を踏み潰して野原に分け入った跡が無いかは特に重要だ。実は木立の中に他のテクニカルや徒歩の賊徒がもっと潜んでましたなんてことになったら大変だからだ。俺の目が節穴でなけりゃ痕跡は残っていないようだし、まあ大丈夫だろう。
村に近づくと広葉樹の木立は次第に疎らになっていき雑草が茂っている野原だ。視界を広げるために耕作地の近くの木をやのび放題の雑草を刈り取ったりしたい気もするが、やり過ぎるて匪賊に感づかれてもイヤだし。袋の口を閉じる分隊がいることを気取られてもイヤだし、触らない方がいいか。
とすると…林のあの辺か? 道路から10メートルも下がれば、気づかれずに隠れていられそうだから、あの辺に掩体を掘れば良さそうだ。
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