第6話
翌早朝、俺たちはジョーンズ村へ向かった。トラックの荷台に武器弾薬と防御陣地を構築するための資材が積まれシートがかけられている。俺たちの分隊が使っているトラックに銃座はないから道中は交代で安全帯を使い体を固定して立って見張りをすることになる。見張り以外は荷物の隙間を見つけて少しでも楽に座れるように工夫して過ごす。町からジョーンズ村への道は草に埋もれかけてはいるが振り落とされずに乗っていられるくらいには平坦だ。
初夏の日差しは眩しく、汗がにじむ。蒸し暑いが風があるのが救いだ。道の両側には昔の混乱で耕作放棄された畑や襲撃されて焼け落ちた家や店、街や村の跡が点在していたりするが、それらは草木に覆われ、もうほとんど自然に帰ろうとしている。
遠くに見える山並みや木立も緑に覆われている。ここからは見えないはずだから、あれは違うが戦争で破壊された都市の瓦礫も緑に覆われ遠目には小高い丘の連なりみたいに見えるって話だ。見た目だけならのどかな風景らしい。
3時間近くかけてトラックはジョーンズ村の近くに到着した。村は地図で見ていたとおり緩やかにカーブした道路に沿って民家と店、倉庫が建ち並びその周りに250エーカーの畑が拡がっている。建物の屋根には風力発電用の垂直タービンが立っている。町中と違って中央の何軒か以外は建物の間は広いな。ざっと四分の三の畑は刈り取りが済んでいる。あの青々と草が生えているのは休耕地に植えてあるクローバーかな。休耕地が少ない気がするが、ああ、そうか。大麦も収穫時期変わらないもんな。大麦も刈り入れてあるのか。ひょっとしたら自家製ビールとか、ひょっとしたらムーンシャインとか飲めるのかな。
さらに近づくと草いきれに加えて微かに堆肥と家畜のにおいが漂う。農村のにおいだ。畑の中の道を行くが、さすがに刈り取りも済んだ初夏の昼前だからか、ほとんど人影はないな。村の中心部に通じる道路には遮断機の下りた検問所があり簡単な見張り小屋の前で民兵が立哨していた。一応、俺たちと同じようにフリッツタイプのヘルメットを被り、緑色の野戦服を着て、ボルトアクションライフルも持っているがいかにも不慣れな感じだった。こいつらと一緒に戦うのか。ぞっとしないな。
「オーエンズの大隊から村長の依頼で来た。ビッグジョー分隊だ」
ビッグジョーが検問所の民兵に大隊本部発行のIDを見せる。民兵はIDを見ると検問所のゲートを開けた。
「村長は村の中央にある役場です。穀物倉庫の隣なのですぐわかりますよ」
「あんがとよ」
俺たちを乗せたトラックは村に入っていった。よろず屋に酒場、一応、宿もあるのか。なるほど、村の中心部には何棟も大きな倉庫がある。となると役場はその隣か。ざっと見た感じ道の北側に役所、倉庫、店があり、南側に民家といった感じか。家の中からチラチラと視線を感じるな。見慣れないトラックが来たら気にもなるか。
バーバラがトラックを倉庫の前につけた。
ビッグジョーが助手席から降りる。背嚢以外を身につけ、アサルトライフルを肩にかける。
「伍長、村長に挨拶してくる。後は頼んだぞ」
そう言い置いて役場に入っていった。
「よし、おまえらシャキッとしろ。装備を整えて降車、降車」
伍長が俺たちをどやしつける。これは依頼主に対する一種のデモンストレーションだ。しっかりと体に馴染んだ野戦服とタクティカルベスト。ヘルメット。編み上げのブーツ。フル装備のマガジンと手榴弾。2列横隊で並び、立て銃の姿勢を決める。もちろんアサルトライフルからマガジンを外したりはしない。こんなことは滅多にやらないが民兵との練度の差を見せるには良い手段だ。
まあ、初夏の直射日光と埃っぽい地面の照り返しに曝されて長時間これを続けるのは率直に言って苦痛以外の何物でもないがな。
幸いなことに5分ほどでビッグジョーが苛立たしげな雰囲気の初老の婦人とがっしりとしたいかにも農民といった感じの中年男性とともに役場から出てきた。少なくとも中年男性の方は俺たちの姿にある程度の感銘は受けたようだ。だが、婦人の方は胡散臭げに見ている。…どうか村長は中年男性の方でありますように。
「村長、我が分隊をご紹介します」
ビッグジョーが呼びかけたのはご婦人の方だった。やれやれ。てことは中年の男性の方が民兵の指揮官ってことかな。
「ありがとう、ローレンツさん。彼らが頼りになると良いんだけど」
おっと、厳しいな。このくらいの歳の人なら過去に匪賊の襲撃でひどい目に合っていてもおかしくないと思うんだがなあ。気に入らないなら、こっちは別に引き揚げてもいいんだぜ。
「15年以上前になるかしら、あの頃は何度も匪賊に襲撃されて小麦や家畜、なけなしの燃料を奪われたわ。その時も当時の村長が冒険者を頼んだはずだけどみんな期待外れで、略奪を許してしまった。貴方たちは大丈夫なんでしょうね? 高い費用を払うのよ」
いやいや、成功報酬で相場の倍出すって大隊長に泣きついたのはあんたでしょうが。
「大隊長から計画は聞いておられるハズですが?」
「ええ。あの計画で本当に大丈夫なんでしょうね?」
「村長からいただいた情報が確かで、自分らに協力していただけるなら」
あ、ビッグジョーもちょっとイラついてるな。
「良いでしょう。…デマレストさん。あとは任せます。ローレンツさんに協力してこの村を匪賊から守りなさい」
そう言うと村長は役場に戻っていった。改めてやれやれだ。デマレスト氏は頭をかきながらビッグジョーを見た。
「ローレンツさん、済みません」
「まあ、よくある事です」
本当は「よく」は無いんだけどね。こんな対応をされたのも久しぶりだ。ビッグジョーが伍長に目配せする。
「分隊、各自の荷物を降ろせ」
ビッグジョーはがらりといつもの口調に変えた。
「とりあえず、俺たちはどこに腰を落ち着ければ良いか、教えてくんねえか?」
デマレスト氏は面食らったようだが役場の隣の倉庫を指した。
「トラックと持ち込まれた武器弾薬はこの倉庫に入れてください。宿舎は酒場の隣のホテルになります。あとで案内します」
「OK。倉庫を開けてくれ。ウィラード! トラックをバックで入れろ」
トラックを倉庫に入れ、マットの指示で積んできた武器弾薬を降ろす。2丁ずつアサルトライフルが入ったライフルケース。ごつい対物ライフル用ライフルケース、軽機関銃と交換用銃身、弾薬ケース。手榴弾のケースに地雷のケース。メンテナンスキットにタクティカルベストなど。これらが種類ごとにきれいに仕分けされて並べられる。
「ベン、バーバラ。道路側で歩哨に立て。ジャクソン、ジェシカ。畑側だ」
歩哨は立てとかなきゃな。村への引き渡しは終わってない。もし今の段階でパクられたら大損だ。
「残りはホテルに移動だ」
もちろん歩哨に立つ4人の荷物は手分けして運んでおく。
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