第5話
大隊長室を出た俺たちは大隊本部の会議室を借りた。ハンデル中尉から渡されたジョーンズ村の資料を見ながらビッグジョーが渋い顔で口を開いた。
「資料を見てみたんだが、今回の件は匪賊がハッタリかましてる可能性はあっても村長が話を盛っているってのはないな。大隊本部の持ってる資料じゃジョーンズ村の民兵は25人で、練度と装備はCマイナスだ。これじゃあ、村長が大隊本部に泣きつくのも無理はない」
ひどいな。Cマイナスって「いないよりマシ」ってレベルだぞ。鹿狩りがやっとか?
「装備に関しては今回、こちらで持ち込んで更新させよう。互換性のない弾薬を使われたらかなわん。伍長、民兵用に俺たちの同じM11を予備も含めて1個小隊分、弾薬は俺たちのと別に二週間分用意しておいてくれ」
「大隊本部の在庫からでいいね?」
「請求はジョーンズ村へ回せよ」
「あいよ」
「ビッグジョー、いいか?」
「なんだ、ブトコフスキー」
「民兵の使っている銃はなんだ? 鹿撃ち用のボルトアクションか?」
資料を見ながらビッグジョーが応えた。
「そうみたいだな。…ああ、言いたいことはわかった。狙撃銃としては使えそうだな。民兵の中でも腕のいいやつを2、3人選抜するか」
「それがいいと思う」
「よし、準備を頼む。向こうに行ったらおまえがそいつらの面倒を見ろ」
「へいへい、仕方ないな」
「ビッグジョー、地雷もいるよね?」
「もちろんだ、マット。大隊本部が抱えてるバウンシング・ベティ(跳躍地雷)の在庫は全部持ち出せ」
「全部持ち出したら、他の分隊から文句でないか?」
「なんか言ってきたら大隊長に文句言えって言っとけ」
「OK、そりゃそうだな」
ビッグジョーが俺たちを見回しながら言った。
「他に何かあるか?」
「重迫撃砲とか用意するかい?」
おいおいカウボーイ。さすがにそいつはやり過ぎだろ。いったい、何と戦う気だ?
「そこまでは要らねえ。対戦車ロケットはいつもの数持っていくが、他に狙撃班用に対物ライフルを何丁かと軽機とグレネードランチャーを多めに持って行こう」
うん、それくらいだよな。
「ああ、軽機で思い出した。バーバラ、ジェシカと二人で大隊本部の土嚢袋をかき集めてくれ。向こうで陣地構築に使う」
「はい、判りました」
「よし、他になければ作業にかかれ」
分隊のメンバーが動き出す。重火器班以外のメンバーは基本、伍長の手伝い、力仕事だ。
「ケビン、おまえは残れ」
「え? 荷物運びはいいのか?」
おいおい、なにをやらせる気だ。ブトコフスキーやイカサマが気の毒そうな目でチラ見して出て行った。最後に伍長のブッカーがほっとした顔でドアを閉めて行きやがった。
「ケビン、おまえも元は分隊長だ。おまえの意見を聞きたい」
そういう事か。面倒だな。ビッグジョーはジョーンズ村を含む地図をテーブルに広げた。
「さっき、おまえは匪賊が村を監視しはしないだろうと言ったな」
「ああ」
「俺もそうは思うが、根拠もなしに勘を当てにするわけにもいかん」
「そりゃそうだな」
ビッグジョーは地図に目を落とした。
「匪賊は一週間後に来ると言ってたそうだが、その間、奴らはなにをする? ケビン、まさかぼけっと待ってるとか抜かすのか」
「ジョー、匪賊なんて連中はもともとそんなに勤勉じゃない。車を動かせば燃料も要る。アジトでダラダラしてるんじゃないか?」
「だが、アジトでダラダラしてたって食いもんは減る。ジョーンズ村から小麦を奪ったところでそれだけじゃ足りん。肉やら酒やらもいるだろう」
「まあ、そうなんだが…。肉は野生の鹿やら鳥やら撃てば手に入らなくもないよな。酒だって材料さえあれば作れる。リスクのある襲撃なんてやらずに済むならやらないだろうよ」
まあ、こないだ俺たちが待ち伏せした連中はなにをとち狂ったかこの町を襲撃しようとしてたがな。あ、いつもは伍長がこの問答に付き合わされてるのか、だからほっとした顔で出て行ったんだな。
「そんなに気になるなら民兵の訓練や塹壕掘りなんか止めてをやめてアジトを探し出して叩くプランに変えるかい?」
ビッグジョーは頭を振った。
「いや、そのプランは空振ったらリスクがでかい。気に入らねえが予定通り民兵をなんとかしよう」
まあ、リスク考えりゃそうなるな。
「まあ、そうだな」
「で、そっちの話だが、村の倉庫と民家を中心に守るとしてもある程度は民兵が使えねえとどうにも手が足りん」
「練度がCマイナスだろ。人を撃った事なんてなさそうだし、一週間で使い物になるかねぇ」
「弾は多めに持って行くんだ、とにかく射撃訓練でマンターゲットを相手に数撃たせて、人の形をしたものを撃つことに慣れさせねえとな」
「撃たないと自分が死ぬ羽目になって家族も守れねえってことをたたき込む必要があるな」
「まあ、それでも撃てないヤツは撃てないだろうが、少なくとも匪賊の方に向かって撃ってくれりゃあ頭を下げさせるこたあできるだろうよ」
そんなとこかな。そんなヤツは少数派でありますように。
「ビッグジョー、俺たちも民兵や村の連中と一蓮托生だってことを分隊の連中にも徹底した方が良い。医者は向こうに頼るんだ、村と信頼関係を作れないとな。」
俺も含めて冒険者は全員が大隊本部から支給されたファーストエイドキットを携行し、使い方の研修も受けている。ある程度の場数を踏んだまともな冒険者なら仲間が戦闘時に負傷しても応急処置できるだけの知識と技能を持っている。だが、所詮、応急処置だ。負傷の程度によってはできるだけ早く本職の医者の適切な処置を受ける必要がある。まあ、農村の医者が銃創や爆傷の適切な対応ができるかという不安はあるが。
「分隊の連中には俺から言っとこう。後はと、そうだな。射撃訓練だけじゃなく、俺たちと混成で周辺のパトロールもやるか。毎日違う時間帯、違うコースでだ」
「おう、いいね。周辺の地形把握もできるし、良いんじゃないか?」
「ケビン、さっきから他人事みたいに言ってるんじゃねぇぞ。向こうじゃおまえにも臨時分隊の面倒を見てもらうからな」
「マジか」
「当たり前だ。俺一人で30人も40人も面倒見れるかよ。今回は民兵を加えて臨時小隊を編成する。俺が小隊長役。ブッカーには小隊軍曹役をやってもらう。ジャクソン、マットとおまえにそれぞれ臨時の分隊長をやってもらうからな。できるはずだぞ」
「ブトコフスキーは?」
「忘れたか? 奴には選抜した民兵をまとめてつくる狙撃班の面倒を見させる。…グダグダ言うな、ケビン」
「わかったよ」
はぁ、参ったな、こりゃ。
「時にケビン、おまえが小隊長なら村をどう守る?」
俺は改めて、地図に目を落とした。一個小隊でこの村をどう守るか。村に繋がる道は東西の2本。村の周りの畑の先は野原でさらに林になっている。匪賊のアジトは判っていない。匪賊が来るルートが判っていれば村のずっと手前で待ち伏せしてやるのが一番だ。だが、今回は待ち伏せは無理だろう。
「手持ちの情報だと古典的な陣地防御しかないんじゃないか? 民兵の練度がCマイナスだ。一週間でどこまで底上げできるか判らんだろ。もし匪賊の足取りが掴めて待ち伏せできても我慢できずに先走って待ち伏せを台無しにされる気しかしない。あんたもそう思ったから土嚢だの長射程の対物ライフルだの用意するんだろ?」
「ああ。現地を見てみないとなんともだが、連中は西か東かどちらかの道から進入してくるだろう。テクニカルを押し出して村の連中に圧をかけて小麦をかっさらえば良いと思っているだろうからな」
「で、こっちは先手をとって対物ライフルでテクニカルを潰して、歩きの連中を皆殺しと」
「逃げ散ると面倒だから地雷で動きを封じてな」
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