第2話

 藪の陰、ちょっとした起伏、擱座したトラックの陰で抵抗を続ける賊徒に容赦なく銃弾を撃ち込む。負傷していても動いていれば抵抗の意思ありと見なす。関係ない。つぎの賊徒に向かって銃口を向け引鉄を引く。くそ、弾が出ない! 残弾は意識していたはずだが、なんてこった。目の前の賊徒の肝臓のあたりを狙って銃剣を突き立てる。顔が恐怖と苦痛に歪むが見てない、俺はそんなもの見てない。

 身をかがめ、盾になりそうもない細い立木を盾に慌てて弾倉を交換しコッキングレバーを引く。


 動き出そうとしたら、いつの間にかあたりに響いていた銃声がやんでいた。どうやら片づいたようだ。


「伍長」

「なんだい、ビッグジョー」

「残りの地雷にセーフティーをかけておいてくれ」

「了解」

 伝統的に「伍長」と呼ばれるサブリーダーのブッカーが瓦礫の裏に戻る。俺たちが使う地雷は有線リモコンで安全装置の操作ができるようになっている。このおかげで起爆しなかった地雷を安全に回収できる。地雷も高いし、放置して関係ない一般の人が地雷に引っかかったら俺たちが匪賊扱いされてしまうしな。


 ビッグジョーがあたりを見回しながら指示を飛ばす。

「よし、ジャクソン! イカサマ、バーバラを連れてボディカウントだ。マットとカウボーイはトラックから使えるものを探せ。お前ら、ネコババは無しだぞ!」

「分かってるよ、ビッグジョー」

 匪賊の死体やトラックをあらため、使える装備や弾薬はいただく。俺たちで使えるものは整備して使うが、そうでなければ町で売り飛ばす。装甲トラックのATMランチャーが本物なら金になるかな。まあ、あんな高いもの匪賊が持ってるとは思えないしダミーだろうけど。


「ビッグジョー。地雷はOKだ」

 良かった。リモコンのケーブルが切れてたりすると面倒な事になるところだった。

「よし、片付いたらマットに回収させよう」

「わかった」 

「伍長、念のためブトコフスキーに後続が来ないか監視させろ」

「了解、ビッグジョー」

「ベン! あと始末が終わったらウィラードと一緒にマットを手伝え」

「はいよ」

 ベンのような軽機関銃の射手と給弾手が戦闘後に行う「あと始末」ってのは給弾ベルトや給弾リンクをできるだけ回収することだ。戦闘中は気にしていられないが、給弾ベルトや給弾リンクも金属製でタダじゃない。ベンが使っている軽機関銃M423の給弾ベルトは非分離式だからまだマシだが給弾リンクを使った分離式だと下に何か敷いておくとかしないと大量の給弾リンクが地面に散らばってしまう。やってみれば判るが雑草や石ころの間に散らばった給弾リンクの回収はウンザリするぞ。


 みんなに作業を割り振っているところを見ると幸いなことに弾を喰らったやつはいないようだ。匪賊はまだ呻いているのもいるがそいつらはジャクソンが始末するだろう。


「ケビン、ジェシカと一緒にトラックを取ってこい」

 ビッグジョーが俺に指示する。新入りのジェシカとかい。またお守りか。片手を挙げて了解のサインを送る。かつて分隊を全滅させて一人生き残った俺に拒否権はない。ジェシカが小走りにやってくる。戦闘の興奮で顔が上気してただでさえ童顔なのに一層ガキに見える。実際、体型もメンタルもガキだし。早速、小走りに動き始めたので後ろから襟首を掴んで止める。

「慌てんな。血の匂いにひかれて野犬がでるかもしれない。マガジンの残弾は? 使いかけなら新しいものに換えろ」

 青々と茂って見通しの悪い藪の向こうに隠したトラックの方に歩きながらジェシカに指示を出す。慌ててマガジンポーチからマガジン取り出して交換する。戦闘中ではないので外したマガジンは捨てずに空いたマガジンポーチに突っ込む。


 金属製のものはできるだけ回収する。せちがらいが、それだけでいくらか節約になるからだ。戦闘中に捨てたマガジンもボディカウントのついでにできるだけ回収するハズだ。しかしいくら金属製でも戦闘後に散乱している薬莢を回収する事はさすがにどの分隊でもやっていない。冒険者が使う弾薬の薬莢は軟鋼製なので磁石を使えば集められるんだが、手間と節約できる金額が釣り合わないからだ。


 緑に飲み込まれかけた建物の残骸を回り込み慎重にトラックに近づく。よかった、流れ弾を喰らったりはしていないようだ。本当なら二人くらい見張りをおいておきたいが、そんな余裕はない。あおり(荷台を囲っている可倒式の板)を倒して幌用の支柱も外してある平ボディのトラックだから荷台には人も動物も隠れることはできない。


 キャビンのドアに手をかける。ドアのガラスはとっくに失われているから動物が入り込んでいる可能性がある。

 ドアを開ける。人も動物もいない。だがまだ安心はできない。落ちていた棒きれでくたびれたシートを叩き、足下をひっかき回す。反応なし。ふう、どうやら蛇が入り込んだりもしてないようだ。


「ジェシカ、運転しろ」

「はい」

 こっちはあおりを立てて荷台に上り安全帯をつける。こうしておかないと揺れる中、立っていられないし、不整地だと振り落とされてしまう。

 せき込みながらエンジンが始動する。

「出します」

 緊張した声だ。途端にトラックがつんのめる。エンストだ。

「すみません」

 恥ずかしそうな声。エンジン再始動。今度はエンストせずに動き出した。ローギアのまま藪を踏み潰し不整地をバウンドしながらビッグジョーのところに戻る。

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