冒険者たち 準備万端、いつでも行ける

小田 慎也

第1話

「ビッグジョー、ブトコフスキーだ。聞こえるか?」

 道路から少し離れた斜面に掘ったタコツボ(1人用掩体)に擬装用の網をかぶって潜んでいるブトコフスキーから無線が入る。

 ビッグジョーが応答する。

「ブトコフスキー、ビッグジョーだ。聞こえるぞ」

「匪賊発見。装甲トラック3、随伴の賊徒約40。情報どおりの勢力で接近中。連中、ろくに車間もとってないな」

「連中の装備は?」

「んー、だいたい、情報の通りだよ。トラックは銃座に機銃と後部の天板の上にATM(対戦車ミサイル)ランチャーらしいものがある。賊徒は何人かアサルトライフルらしいものを持っているが、他はサブマシンガンだな」

「よし、こっちが仕掛けるまで隠れてろ」

「あいよ」


 異常気象。食糧危機。エネルギー危機。人口爆発。遅れてきた帝国主義。民族対立。宗教対立。それとも魔王でも現れたか。

 一体、何が原因だったのか。今となってはどうでも良い。少なくとも俺のような冒険者にとっては。とにかく、今から100年以上前に世界中を巻き込む大きな戦争があった。この国だけじゃなく、世界中の大きな都市は軒並み破壊され、それまでの社会は崩壊した。人口は激減し、そのあとの混乱もあって技術レベルも大きく後退したんだ。子供の頃、学校の先生がそう言っていた。

 他の国のことはよく知らないが、少なくともこの国では残った人間は身を寄せ合って食料を生産し、数少ない工業生産設備を守ってなんとか文明を維持している状態だ。


 エンジン音が近づいてくる。

「いいか、お前ら。打ち合わせどおり、トラックが地雷を踏んだら攻撃開始だ。マットとカウボーイはまずロケットで生き残りのトラックを攻撃。ほかは賊徒を始末だ」

 ビッグジョーが蔓草に覆われた瓦礫の後ろに隠れている俺たちに声をかけ、地雷の安全装置を解除した。


 まじめに食料生産や工業生産を行う地道な生活からはみ出したアウトローたち。徒党を組んで食料、燃料、工業製品を略奪する輩。それが匪賊だ。地道に生きている人間に対するこういった脅威に対抗するために俺たち「冒険者」がいる。まあ、「地道に生きている人間」からしてみれば、俺たちもはみ出し者、必要悪みたいなもんだが。


 鼓動が早くなる。落ち着け。銃剣は装着した。セレクターは3点バースト。予備マガジンは6本。手榴弾は3個。白燐手榴弾1個。大丈夫、きちんとある。いつものことながら、この緊張がつらい。撃ち始めたら楽になるんだが。


「まだよ、まだよ、頭出すなよ」

 この緊張に耐えかねて、リーダーの指示を待たずに撃ちはじめて待ち伏せを台無しにするバカがたまにいるんだ。そういうバカは自分だけ死ぬならまだしも、まわりまで巻き込んで死んでくれるからいい迷惑だ。


 見えた。瓦礫と雑草の藪と背の低い雑木が点在する中にのびる轍をトラックが3輌。運転席の後ろに引き回された排気管から黒い排気ガスを吐いている。伸びた雑草を踏み潰し、随伴の賊徒とともにゆっくり接近。

「まだだぞ、まだ撃つなよ。…バーバラ! もっと銃を下げろ。銃剣が目立つ」

 トラックの銃座にいる機銃手も賊徒も周りを警戒しているようだが、町までまだ少しあるからかどこか弛緩している。もうすぐだ。もうすぐキルゾーンに入る。

「もうちょい、もうちょい」

 先頭の装甲トラックが対戦車地雷を踏んだ。轟音とともに弾片と爆風が車内に吹き上がる。一瞬、車体が浮き上がり擱座する。破片が周囲にも飛び散り随伴の賊徒を巻き込む。運転手と銃座についていた機銃手は九分九厘死んだな。

「撃て!」

 ビッグジョーが吠える。瓦礫の陰に身を潜めていた俺たちは一斉に身を乗り出して攻撃を開始する。

 マットとカウボーイが対戦車ロケットを放つ。地雷を踏んだ先頭のトラックの爆発でブレーキを踏んだ後続の装甲トラックに着弾。弾頭の成形炸薬が炸裂し高熱でトラックの装甲に穴を穿つ。溶けた装甲がメタルジェットとなってトラックの車内に飛び散る。


 地雷と対戦車ロケットの爆発で賊徒が弾かれたように地面にダイブ。ベンの軽機(軽機関銃)がトラックの銃座を制圧する。パニックになって竿立ちになっているバカは真っ先に狙われ、着弾のショックで吹っ飛ぶ。伏せた賊徒は地面のわずかな起伏を求め這いずり、サブマシンガンの弾をばらまく。焦って引き金を引き続ければサブマシンガンの30連弾倉など5秒と保たない。俺は弾倉の交換を行っているヤツを狙って引き金を引く。3点射された6.8ミリ弾が匪賊に突き刺さる。

 アサルトライフルを持っているのは少しは冷静なヤツなのかフルオートではなく点射を繰り返している。擱座した装甲トラックを盾にした何人かもしつこく抵抗している。

「手榴弾!」

 ビッグジョーの合図で半数が抵抗を続ける奴めがけて手榴弾を投擲する。金属片が襲いかかる。

「突撃! 続け!」

 まだ残弾は少しあるが立ち上がりながら新しい弾倉に交換。ベンが援護のため軽機のフルオート射撃で制圧を行う。俺たちは着剣したアサルトライフルを構え、発砲しながら瓦礫を乗り越え前へ出る。発砲することで匪賊の頭を下げさせてはいるが危険な瞬間だ。匪賊も死に物狂いだからだ。冒険者も匪賊も相手に情けなんかかけない。殺るか殺られるかだ。

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