第四章:導かれて

4-1:エラメラに向かって


「それではエリエネシス様、行ってまいります」


「うん、気を付けて。君たちに精霊の加護を」



 ラーミラスたちはエルフの村を後にする。

 今回、南のエルフの村の件やエルフ族の処遇についてはエリエネシスがドリガー王国国王に盟友の約束をかかげ直々に対処してくれると言う。

 そして孤児たちの処遇についてもその非道の内容を国に伝え、保護してもらう事となったが、その大半は南のエルフの村で里子として引き取る事となっていた。



「ラーミラス、改めて礼を言うよ。ありがとう。君には恩義が出来た。私たちに出来る事があれば出来る限り協力をすることを約束しよう」


「だったらロランさんを南の村に返してもらいたいわね……」



 ラーミラスはそう言ってロランを見る。

 しかしロランは口元をㇺの字にしてラーミラスに言う。


「何を言うラーミラス。君には返しきれない程の恩がある。力及ばずかも知れないが、私も君について行くぞ」


 そう言うロランの意思は強そうで、何度断ってもついて行くとの一点張りだ。

 南の村がまだ大変な時期なのだから大人しく村に戻ってそちらを安定した方が好いと言っても、息子のケリオスがいるから大丈夫だと言い張っている。


 正直、ロランについて来てもらうメリットは何も無い。


 現在のラーミラスの力はかなり強力になりつつある。

 結界の中でも魔法が使えたり、身体の力もますます強力になっている。


 手刀で魔物を切り裂けるほどになっている事を何の不思議にも思っていないが、手練れの冒険者でも魔物を一刀両断に出来る者はほとんどいない。


 それほどまでにラーミラスの力は強くなってきていたのだ。



「君のその角は以前より大きくなっている。そのままでは目立つだろう。だからこう言う事なら手伝える」


 ロランはそう言ってエルフ語で何か呪文を唱える。

 するとラーミラスの頭のあたりに風が感じられ、その角が消えた。



「お姉ちゃん! 角がなくなったよ!!」


「え? そんなはずは……あれ、角には触れるけど、なにこれ、触った手も消えた!?」


「それは精霊魔法で、風の精霊による姿隠しだよ。空気の流れを変えて、対象物の後ろ側を映し出す魔法。対象物は見えなくなるんだ」

 

 アルスに言われ慌てて触ると、確かに角の感触はある。

 しかしロランの説明通り、透明になったかのように見た目にはその角が完全に消えたように見える。

 

「これは確かに便利だわね。ターバンで隠すにもかなり大きくなってきたから、隠すのが厳しくなっていたし」


 現在ラーミラスの角は牛くらいの大きさになっていた。

 既にターバンで隠すには少々厳しく成り始め、勿論フードなどで隠すのも難しい。


 元々ラーミラスはウルグスアイ王国へは通常の街道で無いルートを進もうと思っていた。

 それはラーミラスの目立つ角のせいだった。

 街道から離れた場所からウルグスアイ王国に入り、街を避けてエラメラの村に行こうとした。

 もし魔物や魔獣が現れても今のラーミラスの敵ではない。

 それに、隠密で行動をするには可能な限り人数は少ない方がいい。

 アルス一人くらいなら何か有れば背負って動けそうだし、彼一人なら面倒は見られる。


 だが、ロランはそれでもかたくなにラーミラスにくっ付いてくると言う。



「ラーミラス、ロランを連れて行ってやってくれ。彼はこう見えてもあの大戦を生き残った歴戦の勇士。傷が完全に回復してなくても実力は確かだからね。きっと君の役に立ってくれると思うよ」


「そんな事言ったって……」

 

 駄目押しにエリエネシスにもそう言われる。

 ラーミラスは大きくため息を吐いてから仕方なくそれを承諾するのだった。



 * * * * *



「それで、元来た道を戻るには私を知っている人間に会う可能性もあるし、女神神殿ではすでに私の事が知れ渡っている頃だしなぁ……」



 エルフの村を出て、レントの街に向かい始めてラーミラスは唸っている。

 現在はレントの街はロランたちの通報で騒ぎになっている頃だろう。

 加えて、あそこにも女神神殿はあったはずだから、もしかしてラーミラスを指名手配にしているかもしれない。


 となると、レントの街にはいかずにそのままウルグスアイ王国を目指す方がいいだろう。



「だったら北の街道を行くしかないな。少し遠回りになるがローラルド王国経由でウルグスアイ王国へ入るしかないだろう。ちょうど北のエルフの村にも立ち寄れる。ラーミラスの相手にふさわしい者がいるかどうかも聞いていこう」


「あ、いや、もうエルフはいいです。何と言うか、人数も少ないし、私と一緒に成っても私だけが先におばあちゃんになっちゃの考えると……」


 ラーミラスは苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 するとアルスがラーミラスを見上げて言う。


「だ、大丈夫だよ! お姉ちゃんに良い人が見つからなかったら僕が!!」


「はいはい、アルス君は優しいよね~。でも私を口説くなら大人になってからね。そうしたら考えてあげる」


 こんな小さな子に気を使わせてしまったとラーミラスは思うも、アルスはその言葉を聞きぱぁっと表情を明るくする。

 そして小さな声でぶつぶつと言っている。



「僕が大人成ったらお姉ちゃんが僕を認めてくれる。お姉やんが僕のお嫁さんになってくれる!!」



 残念ながらその声は小さくラーミラスたちには聞こえなかったのだった。



 * * * * *



「ここが北のエルフの村だよ」



 レントの街を回避して、北のエルフの村に北上したラーミラスたちは、北のエルフの村についていた。

 ロランは村の入り口に立っている警備に声をかける。


「よう、みんな元気でやっていたか?」


「ロランさん!? ロランさんじゃないですか!!」


「南の村、どうなったんですか!? みんな大丈夫なんですか!?」


 警備に立っていた二人のハーフエルフはロランの姿を見ると、すぐに駆け寄って来た。

 そして口早にロランに質問をする。



「まぁまぁ、落ちつけ。その話はゆっくりと話す。それよりナザはいるか?」


 ロランにそう言われ、二人の警備は顔を見合わせ片方がすぐに村の中に案内をしてくれる。


「村長は今、家にいるはずです。付いて来てください」


 その言葉にロランは頷き、ラーミラスを見てから村に入ってゆくのだった。



 *



「ロラン! 無事だったか!!」


「久しいな、ナザ。元気そうだな」


 

 北のエルフの村の村長と言うナザはロランと会うや否や、彼に抱き着き抱擁をする。

 美形のエルフの男性二人が抱き合っているのを見てラーミラスはにまぁ~ッとするが、すぐに首をぶんぶん振って真顔に戻る。



「……お姉ちゃん?」


「な、なにアルス君?」


「……何でもない」



 アルスにそう言われ視線が泳ぐラーミラス。

 イケメン好きは相変わらずのようだ。



「おおよその話はエリエネシス様の風のメッセージで聞いている。しかしレントの街で貴族がそんな盟約違反を起こすとは……」


「しかしもう領主にも話が行っているし、エリエネシス様がエリグラの国王に直談判をなさっている。この件はもう大丈夫だろう。それよりな……」


 ロランは要点をかいつまんで話す。

 するとナザは大いに驚き、そしてラーミラスを見る。



「そんな、魔王復活と新たな魔王だと……」



「遅くなった、紹介するよ。我ら南のエルフの村を救ってくれた恩人であり、エルフの里を守ってくれた恩人でもあるラーミラスだ。それとラーミラスの……弟分かな、アルス君だ」


 ここへきてロランはラーミラスたちをナザに紹介する。

 それを聞いてナザは慌ててラーミラスに向かい直り、正式な挨拶をする。



「私は北のエルフの村の村長、ナザと言います。我らエルフを助けていただき心より感謝いたします」


 そうナザは頭を下げながらラーミラスに挨拶をする。


「あ、頭をあげてください。私はラーミラス、ラーミラス=ハインドと言います。こっちはアルス。よろしく」


 そう言ってラーミラスは手を差し出す。

 それをナザもしっかりと握り返す。



「いま、ハインドと言いましたか?」


「はい、私の家名がハインドです」


「もしや、十数年前くらいにあなたの家族が行商か何かしていませんでしたか?」


「ええ、父と母が隣国に錬金術で作った品を販売に……」



 小さな頃、父と母は錬金術で作った品物を隣国へ売りに言っていた。

 そして道中に盗賊に襲われ、命を落とした。


 この世界ではよくある話だ。


 しかし幼い頃のラーミラスには納得のいく話では無かった。

 だが今、目の前にいる北のエルフの村長であるナザは家名を口にした。



「やはり……彼らのご家族でしたか。残念な事をしました。彼らはここから更に北のローラルド王国をを目指す道中に……」


「父と母を知っているのですか!?」


「彼らは娘が一人いると言っていました。そして娘を祖母に預けているとも」



 それを聞いてラーミラスは驚きを隠せなかった。

 父と母が盗賊に襲われて亡くなった知らせは着ていた。

 しかし当時幼いラーミラスには理解できず、どう言った経由で伝えられたかも教えられていなかった。


 ラーミラスはずいっとナザの前に出て聞く。



「すみません、その話詳しく教えてください! 父と母は最後どうになったかを!!」





 ラーミラスは真剣なまなざしでナザを見るのだった。


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