4-2:ローラルド王国
「お願いです、そのお話し詳しく教えてください!!」
ラーミラスはナザにそう叫ぶように言う。
「お、落ちついてください。彼らはこの北のエルフの村にポーションなど売りに来てくれていたんです。そして北回り、つまりローラルド王国を経てウルグスアイ王国へ帰って行きました」
詰め寄られるラーミラスに少し驚いた様子でナザはそう言う。
そしてラーミラスたちに椅子を進めてその事について話を始めるのだった。
* * *
「当時、この北のエルフの村も徐々に人も増え、安定期に入り始めていました」
そう話し始めたナザはラーミラスたちにお茶を入れ、それを進めながらぽつりぽつりと語り始める。
「エルフである私も、この数十年はあまりにも目まぐるしく変わる情勢にてんてこまいでした。ですからこの村でけが人や病人が出た時にはハインドさんたちが持ってくるポーションは大変助かっていたものです」
懐かしそうにそう過去を振り返りながらザナは話を続ける。
「そう、あの時もいつも通りに行商でポーションをこの村におろしていてくれていました。ハインドさんたちは他よりも安くポーションを我々のエルフの村に売ってくれていたので、本当に助かっていました。ああ、その代わりこの村で取れる絹は勉強させてもらいましたけどね。そんな彼らは数カ月に一度ここへ立ち寄っては絹を仕入れ、ローラルド王国へ向かっていました。ローラルド王国の貴族たちは絹の製品をたいそう重宝していたとかで。そしてあの日、いつも通りにこの村で絹を仕入れてハインドさんたちは馬車でローラルド王国を目指しました。当時、あの辺の街道は魔物が出ていましたが、ハインドさんたちは魔物よけのお香なるものを焚いていたので道中は問題が無かったそうですね」
そこまで言ってナザは一旦お茶を飲んでからラーミラスを見る。
「確かに、お父さんたちは小さな頃私にもサラサラの服をくれてた。あれって絹だったんだ……」
ラーミラスはそっと手を胸に当てる。
今は勿論着られなくなったあの服だが、夏場はさらさらして涼しい印象があった。
「そんな高価なものを着させてくれてたんだ……」
小さな頃の記憶であるがしっかりと覚えている。
ラーミラスはナザを見て話しの続きを聞こうとする。
ナザは小さく頷いてからまた話を始める。
「そしてハインドさんたちが盗賊に襲われてしまったと言う話は、国境警備隊から聞きました。ここから北に向かう街道で、魔物がそこそこ出る所なので最初は魔物にやられたと思われたんです。しかし、その体に合った傷は鋭い刃物のようなもので傷つけられていて、荷台の品物も無くなっていた。なので盗賊に襲われたと言う風に結論付けられました」
「そ、それでその犯人の盗賊たちは!?」
話の途中だが、ラーミラスは思わず口を挟んでしまった。
それにナザは気にする事もなく、答えるように話を続ける。
「それなんですが、その後国境警備隊も街道に盗賊が出ると交易に支障が出るので討伐隊を編成して周辺の盗賊狩りを行ったのですが、出てくるのは魔物ばかり。結局それらしい盗賊は捕まらずじまいでした」
ナザのその言葉にラーミラスは肩を落とす。
そんなラーミラスを見て、ナザは申し訳なさそうに言う。
「ラーミラスさん、あなたがハインドさんたちの娘と言うのも何かの縁。実はハインドさんたちのお墓はこの村にあるのです」
それを聞いたラーミラスはばっと顔をあげる。
「お、父さんたちのお墓がここに!?」
「はい、あの後遺体の確認で私どもも立ち合いに呼ばれ、被害者が行商人であったことを確認しました。ウルグスアイ王国の住人である事は知っていましたが、どこに住んでいるかまでは。なので、知り合いと言う事でこの村でとむらっていたのです」
ナザはそう言ってラーミラスを見る。
ラーミラスのその赤と黒の入り混じった瞳には既に涙がにじんでいた。
「これも何かの縁、どうぞ彼等のお墓参りをしてやってください」
「はい、はいっ!!」
ラーミラスは涙をぬぐってナザに案内されて両親のお墓に向かうのだった。
* * *
それは村の墓地の一角にあった。
奇麗に整備されたその一角に、シンプルではあるが、「ハインド夫妻ここに眠る」と刻まれた石墓があった。
「お父さん、お母さん……」
ラーミラスは墓前で膝をつき、涙ながらそう言う。
そんなラーミラスにアルスはそっと近くで取って来た花を手渡す。
「お姉ちゃん、これ……」
「アルス君? ありがとう」
ラーミラスはそう言って、その花束を受け取り墓前に添える。
そして手を合わせ、お祈りをあげながら言う。
「お父さん、お母さん、おばあちゃんはもう亡くなってしまって私一人になっちゃったけど、私は錬金術師として何とか一人でやっていけてるよ…… 今はステキな旦那様を探しながら魔王復活の阻止とかもしなきゃでちょっと忙しいけどね」
そう言いながら顔をあげてその墓石を見る。
目には涙があふれ、それでもラーミラスは笑顔で言う。
「大丈夫、私は元気にやっていける。だから安心して安らかに眠ってね、お父さんお母さん……」
しかし最後にはこらえられず、大粒の涙を流しながらその墓石に抱き着く。
そんなラーミラスをアルスもロランも、そして連れて来たナザも黙って見守っているのだった。
* * *
「すみません、見苦しい所を見せました」
「いえいえ、しかしこんな形ではありましたがハインドさんたちに会えてよかった……今後もこのお墓は私たちがちゃんと管理しますから、近くに立ち寄った時はまた来てくださいね」
「ええ、お願いします」
ラーミラスが泣き止むのを皆待って、そして立ち直ったラーミラスに向かてナザはそう言う。
少し恥ずかしそうにそれでもラーミラスはお願いをしてから、皆に言う。
「今はローラルド王国を経由して早い所ウルグスアイ王国のエラメラの村に向かわなきゃだものね。泣いてなんていられないわ」
それを聞いたロランはラーミラスを見てからナザに向き直って言う。
「ラーミラス…… ナザ、ありがとう」
「いや、私たちもハインド夫妻には感謝している。おかげで村の住人も命拾いした者もいたからね」
こうして意外な所で両親の最期を聞き、そしてお墓参りが出来たラーミラスたちは翌日にはローラルド王国を目指して出発するのだった。
* * * * *
ローラルド王国。
ウルグスアイ王国とドリガー王国の北側にある国。
古い国で、建国二千年と言われている。
誇り高い貴族たちが多く、魔術や騎士団の練度も高い。
先の大戦では魔王軍の侵攻を食い止め、大きな影響を与えた国でもある。
「とか言う割には街道の整備がいい加減ね」
「まぁ、戦後こちらにまで資金が回っていなかった時代が長いらしいからな。こんな辺境の街道維持するのも大変なんだろう」
既にローラルド王国には入っているのだろう。
先ほどのドリガー王国領域より道がずっと悪くなっている。
関所跡らしきものもあったが、廃墟と化していて素通りできた。
なので間違いなくローラルド王国には入ってはいるのだろうが。
「下がって!」
いきなりラーミラスはそう言って手をかざす。
そして有無を言わさず魔光弾を発射すると、茂みが大爆発する。
それと同時に魔物が宙に打ち上げられる。
「うわっ!」
「おっと!」
飛んでくる小石を、ロランが受け止め、アルスに当たるのを防ぐ。
「ラーミラス、君が魔物を倒してくれるのは嬉しいが少々派手過ぎないか?」
「うーん、なるべく出力は押さえているのだけど、これでもかなり絞っているのよ?」
そう言うラーミラスは何故か嬉しそうだ。
最近ラーミラスは魔物を吹き飛ばすのが楽しいらしい。
意識して魔光弾も小さめなのを放っているが先ほどのように大爆発を起こしている。
「お姉ちゃん、最近尻尾も出しっぱなしだね……」
「あ、うん、その、下着に収まらなくなってきちゃって////////」
お尻から生えている尻尾も最近は服の中に納まらない程太く大きくなってしまっていた。
流石に目立つので、腰に巻いているが先ほどのように動き回ると尻尾が波打って出てきてしまう。
「もしかして魔王化が進んでいるのか?」
「うっ、そ、それは分からないけど……」
ロランはそう言いながら姿隠しの魔法を解除すると、ラーミラスの頭の角が更に大きくなっていた。
「お姉ちゃん! 角が!!」
「これは…… 確かに角が大きくなっているな……」
「へぁ、うわぁっ! 何時の間にこんなに大きく!!」
ラーミラスの頭の角は牛の大きさ所かねじれ、水牛のような角に成りかけていた。
「これは……急がないといけないかもしれないな。ラーミラス、あの山を越えればウルグスアイ王国らしいぞ」
ロランはナザにもらった地図を見ながらそう言う。
ラーミラスもその山を見て、そう言えばナッパスの街からも見えていた山の形によく似ているのを思い出す。
「そっか、あの山を越えれば……」
「こんな所に魔族がいるとはな」
しかしラーミラスがその山を見ているといきなり男の声がかかって来るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます