閑話その3:エマ―ジェリアの衝撃
エマ―ジェリアはレントの街に着いていた。
「ここがレントの街ですの? ナッパスの街よりにぎやかですわね……」
着いたそこはレントの街。
交易が盛んな街で、ウルグスアイ王国と東のドリガー王国、そして北方に位置するロラン王国や旧エアグル王国も近い事もあり大変栄えている。
ウルグスアイ王国の首都ナッパスよりも賑やかなその通りをエマ―ジェリアは馬車の窓から眺めていた。
「エマ―ジェリア様、もうじき女神神殿につきます」
「分かりましたわ」
馭者にそう言われ、エマ―ジェリアは窓の外を見るのをやめて襟元を正すのだった。
* * * * *
「よくぞ参られた、エマ―ジェリア殿」
「お初にお目にかかります、大司祭様。ナッパスの女神神殿より参りましたエマ―ジェリアと申しますわ」
神殿に着いたエマ―ジェリアは、ナッパスの神殿から親書を携えこのレントの街の女神神殿の大司祭に挨拶をしている。
既に伝書鳩などで事前にエマ―ジェリアが来る事は伝えられていたので、大司祭が直々に対応をしていた。
そして、大司祭としてはエマ―ジェリアが来た事に対する事の重大さを認識していた。
「既にお話は聞いております、新たな三義となられたと。そしてこのナッパスに魔王に成りかけている娘が来ている可能性についても」
「はい、道中盗賊が討伐されていたり街道が荒らされていたりとその痕跡らしきものも確認できましたわ。多分、間違いなく彼女はこのレントの街に来ていると思われますわ」
ずいっと前にのめり出てエマ―ジェリアはそう言う。
すると、大司祭は頷き、そして大きなため息を吐く。
「まさか先代の魔王がまだ存命と聞き及んでいるのに、新たな魔王候補が生まれ出るとは…… それに三義であるあなたまで出現するとは、これは新たな勇者様も現れる予兆と取って良いのでしょうな……」
「はい、私もその重要な使命を達成する為にもこうして魔王候補の彼女を追いつつ、勇者様や残りの三義を見つけるために各地を回っておりますわ」
そう言いながら、親書を大司祭に手渡す。
大司祭はお礼を言いながら、それを受け取り「失礼」と言ってから、早速その封を切って中を確認する。
そこには元三義であったナッパスの大司祭であるユーリィからの情報が書かれていた。
当然ある程度の事は既に伝書鳩で伝えられていたが、一番の問題は魔王軍の元四天王が暗躍しているという情報だった。
「なんと! 元四天王が暗躍していると言うのですか!?」
「はい、事が公になりますと世間に騒動が起こりますわ。ナッパスの女神神殿に強襲をかけた『防壁のエベル』と名乗る魔族は倒しましたが、ユーリィ大司祭の話では当時逃げおおせた四天王は全て健在だったと。とな、りますと残り三人の元四天王が今もどこかで暗躍をしている事になりますわ」
エマ―ジェリアのその言葉に大司祭は頬に一筋の汗をかく。
レントの神殿のこの大司祭も、先の大戦は経験している。
あれから何十年も経ち、やっと人の営みも正常に戻りつつあるのに、また魔王軍による侵攻があれば阿鼻叫喚の世界が戻って来る。
「しかし、現魔王はその力を失い新たな魔王は完全に覚醒はしていないのではないでは?」
「はい、そこで問題となるのが元四天王が言っていた魔王復活との言葉ですわ」
それを聞いてこの大司祭は親書を手元から落してしまった。
「魔王が復活すると言うのですか!?」
「まだその確証は取れていませんわ。しかしナッパスの神殿を襲った魔族は元三義であるユーリィ大司祭様を亡き者にし、魔王城の結界を崩そうとしていますわ。そして何かしらの方法で魔王が復活してしまえば、勇者亡き現在、私たち人類に魔王の力に抗える者はいなくなってしまいますわ……」
エマ―ジェリアはそう悲痛そうに言う。
自分は確かに先の大戦を経験しいない。
しかし、エマ―ジェリアのような孤児を未だ生み出す原因は、まだ完全に人の世界があの大戦から立ち直り切っていない証拠でもある。
だからエマ―ジェリアはもう二度と自分のような存在を生み出す事が無いようにしたい。
「わ、分かりました。早急に領主にも相談をしてこのレントの街にて魔王に成りかけている娘を探しましょう。そして残りの三義も。出来れば勇者様が新たに現れていただければ、そちらも」
「ご協力、感謝いたしますわ」
エマ―ジェリアはそう言って深々と頭を下げるのだった。
* * *
「ふう、お勤めとは言え流石に他の神殿の大司祭様との直接のお話は緊張をしますわ~」
ぼふっと、与えられた部屋のベッドにエマ―ジェリアは枕に頭から突っ伏す。
長旅は勿論、事の重大さ、自分が新たな三義になった事といろいろな事が一度にあったので疲れが出た。
「とは言え、まだまだこれからですわね…… ラーミラスさんを何とか保護して、そして三義の仲間を見つけ出し、それから勇者様も……」
そんな事をぼやきながらエマ―ジェリアはだんだんと瞳を閉じて行く。
気が付けばいつの間にかすやすやと寝息を立てているのだった。
◇ ◇ ◇
―― エマ―ジェリアよ、エマ―ジェリアよ…… ――
エマ―ジェリアを誰かが呼んでいる。
その声はとても暖かく、そして優しい。
エマ―ジェリアはその声に瞳を開き、起き上がるとまばゆい光を放つとても美しい女性がエマ―ジェリアの前に浮いていた。
「あ、あなたは?」
―― 私は女神、あなたに神託を授けに来ました ――
その女性は優しく微笑み、そう言う。
それを聞いたエマ―ジェリアは慌てて飛び起き、そして女神と称する女性を見上げる。
そして両の手を合わせ、女神を拝む。
「何と言う事でしょうですわ!! 私が女神様にお会いできるとはですわぁっ!!」
―― 信仰深き者よ、よく聞くのです。あなたの探している勇者は魔王に成りかけているラーミラスのあらわる所に出現するでしょう。あなたは一刻も早くラーミラスを捕らえ、彼女の近くに現れる勇者の力になるのです。あ、妊娠したらちゃんと祝福しますのでご安心を ――
女神はさらっと最後にとんでもない事を言い放つ。
それに思わず顔を真っ赤にして、頭から湯気を出しながらエマ―ジェリアは言う。
「めめめめめめ、女神様///////! 確かに私たち三義はもう一つのお役目がありますわ、でも子供まで授かる事は///////」
―― 大丈夫、私は全ての者に愛を。祝福を。最初に出来ちゃったら正妻の座ゲットですよ? 頑張ってくださいね!! それでは、頑張るのですよエマージェリア――
「あ、いや、女神様! いくらなんでもそんなのですわっ///////! わ、私、そのような事考えてもいないのですわぁっ///////!!」
慌てふためくエマージェリアだったが、女神は「おほほほほほほ」とか笑いながら天へと消えて行く。
それを方手を上げて見守っていたエマージェリアだったが、不意に目が覚めた。
「はっ!? い、今のはですわ///////!?」
がばっと起き上がると、先ほどのベッドに寝ていた。
慌てて周りを見渡すも、何も無い。
思わず天井も見るも、女神の姿は見当たらない。
エマ―ジェリアは赤い顔のまま大きなため息を吐いてから手を合わせ、女神様にお祈りをする。
「め、女神様の神託、確かに受けましたわ…… で、でも勇者様との子供までなんてですわっ////////!!」
神託の内容よりも、むしろその後ろの勇者との関係について真剣に考え始めるエマ―ジェリアだったのだ。
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