3-6:お隣の国
ラーミラスたちはエルフの村に戻っていた。
「まさか『至高の杖』が奪われてしまうとは……」
村に戻って治療を受けながらエリエネシス長老はそうぼやく。
しかし今回はラーミラスのお陰で村が壊滅すると言う最悪な事態だけは免れた。
「とは言え、ラーミラスの正体が魔族たちにも伝わってしまった。それに現魔王の復活をさせてしまえば、勇者がいない今、また世界が動乱に巻き込まれてしまう……」
ロランはそう悔しそうに言う。
あの大戦を経験している者は、魔王軍の侵攻により大きな痛手を受けた事を覚えている。
戦後生まれのラーミラスも、祖母からその当時の悲惨さは聞いていたので思わず唇をかみしめる。
「しかし、二つまで魔族が三種の神器を手に入れていたとはね。私の持っていた『至高の杖』、『賢者の石』そして『万物の書』がそろえば魔王が処女に戻りその力を復活させてしまう。そうなると又魔族は人類に対して侵略を始めるのは目に見えている…… ラーミラス、勇者亡き今君に期待をせざるを得ないよ」
エリエネシスはそう言ってラーミラスを見る。
正直なんとも都合のいい話だ。
さんざん自分を敵視して、場合によっては殺してしまおうとしていたくせに、今はラーミラスに期待を寄せているとは。
「確かに魔王の復活は嫌よ。でもだからと言って魔王を倒してしまえば今度は私がすぐにでも魔王に成っちゃうんでしょ? 私はそんなのごめんだわ!」
ラーミラスはエリエネシスに真正面から向かってそう言う。
当然と言えば当然だが、エリエネシスは苦笑をしながら言う。
「しかし、このまま魔王を放置しておけば復活される。世界の平和を脅かす魔王復活を君はただ見ているだけかい?」
「そ、それは……」
ラーミラスにもその事の重要性は理解できている。
勇者は死んだ。
そしてかろうじて三義が魔王を押さえている。
その間にラーミラスはステキな旦那様を探し出し、処女を散らせば魔王に成る事は無い。
後は魔王が寿命で自滅さえしてくれれば全てが丸く収まる。
しかし、その魔王が復活する恐れが出て来た。
それが三種の神器を使っての魔王の復活。
魔王が処女に戻れば以前の勇者の力も通用しなくなる。
いや、三義の結界すら破られるだろう。
完全復活した魔王はまた世界を争いの渦に巻き込む。
「方法は一つ、最後の『万物の書』をラーミラスが手に入れ、魔族の手に渡らない様にして処女を散らす。そうすれば後は魔王が自滅するのを待つだけだよ」
「でもそんな簡単に…… たしか、まだ元四天王ってのはこのあいだのダストンとか言うのともう一人残っているんでしょ?」
エリエネシスの言葉にラーミラスはそう言いかけてふと気づく。
「今の魔王は結界のせいで動けないし、その力も失っている。となれば脅威って残りの元四天王二人だけ?」
「そう言う事さ。幸い君は魔王に近い力を持っている。それはあの結界内でも君だけが魔法を使えたのが証拠だ。だから君にお願いをする。『万物の書』を手に入れ、あわよくば元四天王の二人も倒し、魔王の復活を阻止してもらいたい」
そう言ってエリエネシスはラーミラスに頭を下げる。
それは誇り高いエルフにとってありえない行動だった。
隣で見ていたロランや、治療をしていたエルフですらそのエリエネシスの行動に驚く。
「そんな事言われても…… そもそも残りの『万物の書』って何処にあるのよ?」
「それは君のいた国、ウルグスアイ王国にあるはずだよ」
エリエネシスは頭をあげてラーミラスの顔を見ながらそう言う。
言われたラーミラスは思わず、うっとなり嫌そうな顔をする。
「ウルグスアイ王国って、一体あの国の何処にあるって言うのよ?」
「西のメキカシ王国に近い『エラメラの村』にあるはずだ。そこの古代寺院の秘密の地下宝物庫に保管されているはずだよ。私があの『至高の杖』を女神様にいただいた時に、当時の女神信教の司祭の元へあの『万物の書』が渡されたはずだからね。もう一万年以上前の話だが」
エリエネシスのその言葉にロランが驚く。
「エリエネシス様、それは正しく神話の一説! 女神様の地上への祝福の話ではないですか!! まさか、『万物の書』がそんな所へ隠されていたとは!!」
「『賢者の石』は数世代前の魔王討伐に使っちゃって霧散したけど、その根源となる製法は高濃度の魔力。つまり人の魂を糧に作り上げられると言うのは『万物の書』で暴かれたからね。『万物の書』の知識を使って、膨大な魔力を秘める『賢者の石』を使い、複雑な術式さえ容易に完成させる『至高の杖』があれば魔王を処女に戻し、その力を復活させることが出来るわけだ。まったく、それが人類にだけでなく魔族にも使えるってのは女神様もやらかしてくれるよ」
エリエネシスはそう言ってため息を吐く。
そしてラーミラスに改めて向き合って言う。
「どうか魔王の復活を止めてもらえないだろうか? 我々エルフは先の大戦でそのほとんどの戦士を失った。君に協力したいのはやまやまだが、今は力及ばずだ。勿論各国の国王たちにも協力を要請するが、君は魔王に成りかけている。君自体への支援をするよりも各国は君の討伐か君の初めてを無理矢理奪おうとする連中が出始めるかもしれない。だから何としても先に君に『万物の書』を手に入れてもらいたい。あれにはもしかしたら君が魔王に成らずに済む方法も載っているかもしれないしね」
それを聞いたラーミラスは一瞬ポカーンとする。
が、次の瞬間大慌てでエリエネシスに聞く。
「それ本当なの!? じゃぁ、もしかして私にすぐにステキな旦那様見つからなくても何とかなるって事!?」
「そこまで保証は出来ないけど、可能性はある。それが『万物の書』と言う神器なんだよ」
ここへきてラーミラスは目を輝かす。
正直エルフの旦那様を探すのは一連のエリエネシスたちのお陰で少し考え直していた所だ。
それに、もし一緒に成れても老後は自分だけ老いて旦那が何時までも若いままと言うのも冷静に考えれば悲惨な状態だ。
なのでもう少し色々と視野を広げようかと思っていた矢先だった。
「……やる。その『万物の書』を手に入れる!!」
「お姉ちゃん?」
ラーミラスは立ち上がり、こぶしを握ってそう言う。
それを今まで黙って見ていたアルスはラーミラスを見上げる。
「私としては魔王復活は勿論、私が魔王に成るなんてさらさらごめんよ。ステキな旦那様を見つける以外にも方法があるって言うなら、試してみる価値はあるわ!!」
こうしてラーミラスは再び元居たウルグスアイ王国に行く決心をするのだった。
* * *
「お、お姉ちゃん僕も一緒にお風呂入る必要はなかったんじゃ////////」
「何言ってるのよ、明日にはここを出発してエラメラの村に向かわなきゃならないんだもの、お風呂なんてこの後なかなか入れないわよ?」
ラーミラスたちはエルフの村で用意してもらった湯あみをしている。
エルフ族は村の中にある泉で男女関係なく混浴しているが、流石にラーミラスはそのつもりはない。
なのでお湯を沸かしてもらい、大きな桶にそれを張ってアルスと二人で入っている。
アルスは勿論遠慮しようとしたが、せっかくのお湯が冷めてしまうからと言う理由で強引にラーミラスに服を脱がされ、一緒にお風呂に入っている。
と、もじもじしながらアルスはラーミラスを見てあることに気付く。
「お姉ちゃん、大きくなってる……」
「あ、気付いた? もうアルス君のエッチ。確かに最近おっぱいが大きくなってきたのよね~」
「ち、違うよ///////! 角! 角が大きくなっているって話だよ!!」
真っ赤になりながらアルスは叫ぶようにそう言う。
そしてチラチラとラーミラスの胸を見る。
確かに大きい。
そんなアルスにラーミラスはいきなり抱き着く。
「うわっっ! お、お姉ちゃん///////!!」
「ごめん、アルス君しばらくこうさせて…… 私、正直に言って最近変なのよ…… 戦うのが楽しくて、何かを破壊する事が気持ちよく感じている…… アルス君に言われた通り角も大きくなってきてる…… これってやっぱり私が魔王に成って行ってるんだよね……」
「お姉ちゃん?」
アルスはラーミラスに抱き着かれたまま彼女を見上げる。
豊満な胸に顔をうずめられ、少し苦しいけどラーミラスの表情はよく見えない。
と、ラーミラスはアルスを突然離す。
そしてにっこりと笑って言う。
「でも、もしかしたら『万物の書』に魔王化するのが止められる方法があるかもしれない! そしたらゆっくりとステキな旦那様も見つけられるよね?」
「……お、お姉ちゃんに時間があるなら、僕が大きくなるまで待ってもらえないかな///////?」
アルスが消え入りそうな声でそう言うとラーミラスは首をかしげる。
そしてアルスに向かって言う。
「時間は出来るけど、あんまり時間がかかると私がお婆ちゃんになっちゃうじゃない? だからやっぱりステキな旦那様も見つけながらね!」
「あ、その、うん……」
ラーミラスにそう言われて、アルスは肩を落とすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます