3-5:妖術のダストン


『この機会、逃しはせん!!』


 

 そう言って森の奥から一人の魔族が現れた。


 見た感じはやせ細った姿だが、まとっているオーラは邪悪なものだった。

 長い白い髪をぼさぼさにして、その髪の毛の間から鋭い瞳が覗いている。

 頭からは不規則にねじれた二本の角があり、ぼろぼろのローブをまとっていた。

 

 彼は曲がりくねった杖を持ち、周りに更に魔物たちを従えていた。



「妖術のダストンか…… 少々厄介なのが出て来たね」


 エリエネシスはそう言って油断なく杖を構えるが、既に周りには魔獣たちが囲んでいる。

 ラーミラスたちも同じく囲まれているが、先ほどのラーミラスの力を見て魔獣たちは警戒をしている。



『あきらめろエリエネシス。その杖さえこちらによこせば貴様らにこれ以上手出しはせん』


「どうだかね。魔族の言葉を信じられると思うかい?」


『しかし貴様の精霊魔法は封じた。そしてこの結界内では他の魔法ですら発動を阻害できるのだ!』



 それを聞いたエリエネシスは苦虫をかみつぶしたような表情になる。


 実際精霊魔法は封じられた。

 しかし手元には「至高の杖」が残っている。

 この杖を使えば人族の魔法が使えると踏んでいたのだが、その期待はダストンの言葉によりついえた。


 魔物たちはダストンに操られ、にじりにじりとエリエネシスに迫る。




「でも私は大丈夫みたいね?」



 どぼごがぁああああああぁぁぁぁんッ!!

  



『なにっ!? この結界内で魔法だと!?』


「うん、やっぱり使えるじゃない?」


 見ればラーミラスが手の平から魔光弾を放っていた。

 それは一瞬で魔物たち数匹を塵と化すほど強力なモノ。

 ダストンはそれを目を見開いて驚きの表情になる。



『その力、魔王様に瓜二つ…… まさか貴様は!!』


「冗談じゃないわ、私はまだちゃんとした人族です!!」


 そう言ってラーミラスは手刀で次々と魔物たちを葬り去る。

 魔物たちも慌ててラーミラスに襲いかかるも、俊敏な動きでそれらを蹴散らすラーミラス。


 そんなラーミラスの頭に巻きつけてあったターバンがほどけ、銀色の長い髪と一緒に立派な二本の角が露出する。




『その角は間違いなく魔族! と言う事は、あなた様は次なる魔王様か!!!?」




「だーかーらー、私はまだ人族だって言ってるでしょう!!」



 どっかーんっ!!



 ラーミラスの叫びと同時に更に魔物たちが吹き飛ぶ。

 既に森自体にも被害が出て、この場所が開けて来ていた。



『あ、ありえん……今生の魔王様がおられるのに、新たな魔王様が生まれ出るとは…… はっ!? まさか勇者も!? 三義を始末に行ったエベルと連絡が取れなくなっていたのは!?』


 動揺するダストンにラーミラスは苦笑しながら迫る。

 そして叫びながらその拳をダストンにたたきつける。



「そいつは私が倒したわ!!」



 ラーミラスの拳がダストンの顔を捕らえた。


 と見えた瞬間、ラーミラスは前のめりに転んでしまった。

 それもそのはず、届いたはずの拳は手ごたえが全く無く、ダストンをすり抜けてしまった。




「ぐあっ!!」


 

 何が起こったか分からなかったが、ラーミラスは素早く起き上がり、悲鳴のあったエリエネシスを見ると、一匹のオオカミがエリエネシスの腕にかみついていた。

 そしてエリエネシスの手から「至高の杖」が離れると、すぐさま別のオオカミがその杖を咥え森の中に消えて行く。



「しまった、エリエネシス長老!!」


「くっ! こいつっ!!」


 ラーミラスもロランも慌ててエリエネシスの元へ行くが、すぐにオオカミはエリエネシスを放し、森へと逃げ込んで行く。

 エリエネシスは腕を押さえていたが、オオカミに噛まれた腕が変な方向へ向いていた。

 ラーミラスは慌てて腰のポーチからポーションを取り出し、その腕にかける。

 ぼわっっと煙が立ち上り、表面の傷口がふさがるも、折れた骨はそのままだった。

 急いで近くの枝を腕に当てて、自分の服腕の部分の布を引き裂き、エリエネシスのそれに巻きつける。



『ははははははっ! ついに手に入れたぞ【至高の杖】を! これで残るは万物の書のみ! 魔王様の復活は近いぞ!! 娘よ、魔王様復活となれば貴殿は魔王に成らず、元の人に戻るだろう。願わくば我ら魔族の邪魔立てをしないで欲しい。でなければ貴殿が次なる魔王様として我らが魔族の主君となってもらう! ゆめゆめ忘れるな、貴殿は大人しく今生の魔王様の復活を待つがいい!!』



 ダストンその声は四方八方から聞こえてきて、その居場所が特定できない。

 気付けば魔物たちも引いていて、森には静けさが戻っていた。


 ラーミラスはぎりっと奥歯を噛む。





「くっ! だからって大人しく魔王の復活をさせる訳にはいかないじゃないの!!」




 だんッ!!



 ラーミラスは悔しそうに拳を地面にたたきつける。


「ラーミラス……」



 

 そんなラーミラスにロランはかける言葉もなく、ただただ彼女を見る事しか出来なかったのだった。    


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