3-4:対決
「ロラン、それとラーミラス。君たちが私をつけて来ている事は分かっている。出て来なさい」
ラーミラスとロランはそう言われ、仕方なくエリエネシスの前に姿を現す。
するとエリエネシスはため息をついて話始める。
「ロラン、ラーミラスが村に残って何をしているかは知らないが、エルフの未来の為にはラーミラスには村を出て行ってもらいたい。勿論ロランの義理堅い気持ちは理解できるが、今は私たちエルフの未来を重んじてもらいたいんだ」
「しかしエリエネシス様、先ほどの事と言いラーミラスの事と言いもう少し説明をしていただけなければ納得も行きません。ミリーたち村の者だって心配しているのですよ!?」
エリエネシスのその言葉にそれでもロランは喰ってかかる。
その様子は真剣だった。
エリエネシスはそれを見て暫し黙っていたが、軽くため息を吐いて言い始める。
「説明不足は今いるエルフたちに余計な心配をさせない為だった。やっと純潔に近いエルフが増え始めたのだ、頑張って子作りしてもらわないといけないからね」
そうしれっというエリエネシスに流石のラーミラスも顔を赤くする。
こうもはっきりと子作りなどと言われれば、年頃になるラーミラスには少々刺激が強い。
思わず、本などで見たそう言った行為を思い返してしまう。
「長老、エルフの数を増やそうと言う気持ちはわかりますが、であればなおさら外の村で純潔に近い者を増やしこの村に送り込んだ方がいいのではないのですか?」
「しかし完全なエルフにならない場合があるんだよ。サリーを覚えているかい? 彼女とつがいになった北の村から来たルスカとの間に先日子供が生まれた。しかしその子供はハーフエルフだった。いくら両親がエルフでも隔世遺伝でハーフエルフがまだまだ生まれる。だから村を閉ざし、しばらく純粋なエルフを増やす必要があるんだ。我々の母なる『世界樹』の為にもね」
エリエネシスのその話を聞いたロランは言葉を失った。
確かに、ロランの村でもエルフどうしからハーフエルフが生まれた事例はあった。
隔世遺伝とは、なんの拍子に出て来るか分からない。
そして、ハーフエルフに生まれ出た者は、親のエルフより寿命が短くなってしまう。
親より先に子供が寿命で死んでしまうのだ。
それは自然の摂理にもない苦渋となる。
「だから私は可能な限り純潔のエルフを増やす必要があると思ったんだ。私を含め今は村に十九名いる。私はもう歳だからつがいになる気はないが。他の九組が手を取り合い子作りにいそしんでくれればやがてエルフの村も数が増える。そして母なる『世界樹』の守り手としてまたその役目を全うできるというモノなんだよ」
エリエネシスはそう言って「至高の杖」をかかげる。
そしてラーミラスに向かって言う。
「この『至高の杖』が私の手元にある限り、現魔王の復活はないよ。彼女が元の力を取り戻すには、『賢者の石』と『至高の杖』、そして『万物の書』を手に入れ究極魔法で処女に戻る必要がある。つまり、元の力を取りもどす必要があるんだ」
「しょ、処女に戻る!?」
それはラーミラスにとっても驚きであった。
現魔王が処女に戻ると力を取り戻す。
その為にそれら三種の神器が必要となると言う事だ。
「では、なぜラーミラスを追い出すような事をするのですか?」
「ラーミラスは現魔王が死ぬと次の魔王となる。それを回避する為にはラーミラスを愛する男性と交わるしかない。我々エルフの村には残念ながらもうその相手がいないからね。死んでもらうか村を出て行ってもらって早い所相手を見つけてもらう方がいいと思ってね」
そう、エリエネシスは言ってまたため息を吐く。
「言い方が悪かったのだろう、それは謝る。しかし今このエルフの村も魔族に支配された魔物たちの襲撃を受けているのでね。私も村を守る事で手いっぱいだったんだよ」
それを聞いてロランは顔をゆがめる。
「先ほどの魔物はやはり……」
「先の大戦で生き残った者は君も含め深手を負った。その傷がまだまだ完全には癒えていないのだろう? だったらこの精霊の森のエルフの村は私が守るしかないだろう。あの大戦に『世界樹』を守るために唯一何もできず、子供たちが死にゆくさまを見守るしか出来なかった私のね」
そうエリエネシスは言って悲しそうな顔をする。
しかし、そんな長老にロランは言う。
「それは違います! あの戦いは我らが『精霊の森』を、『世界樹』を守るためのものです。先兵となる私たちが戦い、あなたが『世界樹』を守るのは当然! あの時魔族たちはこの森にまで侵攻してきたのですから!!」
「そう、そして私は子供たちを見殺しにしてしまった…… だから今度こそは私が矢面に出て、皆を守る。エルフの未来を守るんだよ」
『だがそれも今日までだ』
ロランがエリエネシスとそう言い合っていると、その声は突然聞こえてきた。
慌てて周りを見渡すも、声の主は見えない。
しかし代わりに先程のマンティコアが数匹茂みから出て来る。
『至高の杖、もらい受けるぞ!』
「やはりまだまだ魔物を配備していたか! 風よ!!」
その声にエリエネシスは手をかかげて精霊たちを呼ぶ。
が、精霊たちの反応がない。
「これは……」
『精霊たちを封じた。この妖術使いダストンが来たからには今までどうりにはいかない。さあ、その杖を渡せ。そうすれば村を襲う事無く引き下がろう』
その声はマンティコアの一体から聞こえてきた。
どうやら魔物を介してこちらに話しかけているようだ。
「精霊力を押さえただと? バカな、土の精霊よ!」
ロランがそう言って地面に手をつき、大地の精霊を呼び出そうとするも全く反応がない。
こうなってしまえば、精霊使いは武器も持たぬ丸腰同然となってしまう。
「……妖術使いのダストン。元魔王軍四天王が一人か。まさか、森全体を精霊封じの結界で縛るとはな」
『ふふふふふ、貴様が魔物と戯れたおかげで準備が出来た。流石に【世界樹】の守る村の中までは影響が及ぼせぬが、こうして貴様が村から出てくればな』
元魔王軍が四天王の一人、妖術使いのダストンは心底楽しそうにそう言う。
そしてマンティコアたちがエリエネシスたちを取り囲む。
「うーん、事情はどうだかわからないけど流石に魔王が復活はまずいわね」
どごーんっ!
『なにっ!?』
ラーミラスはそう言いながら素手でマンティコアの一匹を殴り飛ばした。
他のマンティコアは慌ててラーミラスに向かう。
が、同じくラーミラスに素手で殴り飛ばされ動かなくなる。
どが、ばこ、どごーんっ!
「ラーミラス!」
「とりあえずこれで村までは下がれるでしょ?」
「……この私まで借りを作るとはね。しかし今は感謝しよう。ロラン戻るよ!!」
ロランがラーミラスの名を叫ぶと、ラーミラスは退路を確保したので村に戻れと言う。
それを聞いたエリエネシスは複雑な顔をするも、得意の精霊魔法を封じられたままでは仕方がない。
結界のある村まで戻ろうとしたその時だった。
「きえぇーっ!」
「ふごふご」
「ふしゅーふしゅー!」
既に周りには他の魔物たちが集まっていた。
空には両の手が羽になった女性の魔物、ハーピーが飛び交い、草むらを分けて出てきたのは豚の頭をしたオークたち。
そしてその後ろには大きな鶏だが、尻尾トカゲのようになっているバジリスクまでいた。
『この絶好の好機、逃がさん!!』
そしてそのさらに後ろから杖を構えた魔族が現れるのだった。
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