3-2:影


 ラーミラスたちは、ミリーと呼ばれる女性の家にいた。



「改めて、私はミリー。ロランとは幼馴染だったのよ」


「ラーミラス=ハインドです。こっちの子はアルス、一応今は私が保護者です」


 お茶を出され、ちゃんと挨拶をされてラーミラスは少し驚く。

 長老であるエリエネシスの塩対応に対して、ロランの幼馴染と言うミリーは常識的だった。

 ロランの幼馴染と言う事は、生き残りのハイエルフと言う事になる。



「それで、わざわざ君の家まで呼んでくれるとは一体どう言う事なんだい?」



「その前に、ラーミラスさん、あなた魔族なの?」



 いきなりずばりとそう聞かれ、ラーミラスは一瞬ためらうも話を始める。

 自分がもしかすると次の魔王に成るかもしれないと。

 そして自分がこの村に来た目的も。


 それを聞いたミリーは大いに驚くと同時に、いきなりラーミラスの手を取り元気づける。



「まだあきらめちゃダメ! あきらめなければきっといい旦那さんが見つかるわ! 私だって三千年過ぎてももらい手がいないってさんざん言われたけど、あきらめなければステキな旦那様に巡り合えたんだから!!」



 そう、真剣なまなざしでいうミリーの目には涙がにじんでいた。

 同情と言うより、今まで自分の苦労を思い出している様だった。



「そう言えば、ミリーも最近結婚したって聞いたが?」


「ええ、村に新しく来た子が私の旦那様になってくれたのよ! もう、彼ったら私よりずっと年下のくせに、すっごく優しくて!」


 興奮気味のミリーであるが、手を握られているラーミラスに気付き、咳払いをして話を続ける。


「ごほん、ごめんなさい。つい興奮してしまったわ。でも残念ながら今この村にはあなたのつがいに成れそうな男の人はいないの。ラスウェルが独身の最後の男の人だったの。でもついぞ先日私と一緒になってしまってね」


「は、はぁ、それはおめでとうございます……」


 もともとエリエネシスに村を出て行けと言われて、ここでの相手探しをあきらめてはいたが、最後の男性が目の前のミリーと一緒になったって言うのは流石に来るものがある。

 正直うらやましいとラーミラスは思ってしまう。



「すまんがミリー、私たちを呼んだ理由を聞いてもいいかい?」


「あ、ごめんごめん。つい嬉しくて話がそれてしまったわね。ラーミラスさんの事は理解したわ。でも、確かに早く旦那様を見つけ出さないとね」


 ミリーはそう言って頷いてから話を続ける。



「実はエリエネシス様についての話なのよ。最近長老がおかしいとみんなが言っているの。あの大戦で私たちの数が減ってしまい、この『精霊の森』にある母なる『世界樹』を守る事が難しくなり、一族を増やす為に新たなエルフを迎え入れていたんだけど、最近それをやめようと言い出しているの」


「なに? それは初耳だ。いくら数人のエルフたちが村に新たに来たからと言って、早急に数が増えることはないぞ? 今までどうり純潔に近い者をこの村に送り続けなければ人数などそうそう簡単に増えることなどないだろうに?」


「ええ、私もそう思うわ。私だってラスウェルとの子供は欲しいけど、私たちエルフはなかなか子供が授からない体質だからね…… それに長老はそれだけでなく、更に結界を強固にして外部から一切の侵入者を入れないつもりだって言い始めているの」


 それを聞いたロランは大いに驚く。

 そして椅子から立ち上がり、ミリーに確認するように聞く。



「それは本当なのかい?」



「ええ、先日の村の会合で長老はそのつもりだって言い始めてたから……」


 ロランはミリーの話を聞いて、すとんと椅子に座った。


「どう言う事だ? 長老は何を考えているんだ??」


「分からないわよ。それと、最近長老が村の外に一人で出ているって噂もあるのよ……」



「あの長老が一人でか!?」



 ロランは更に信じられないという感じで目を見開く。

 事情を知らないラーミラスとアルスはポカーンとして二人の会話を聞いているが、首を傾げロランに聞く。


「あの、エルフの内情はどうだかわからないけど、私たちをここへ呼んだ理由ってなんです?」


「ああ、すまん。あまりにも驚くことが多くてな。それでミリー、私たちを呼んだ理由は何だい?」



「外の世界で何が起こっているの? ラーミラスさんが魔王に成りかけているってことは、先代の魔王が死んだの?」



 ミリーはロランに向かって真剣な顔でそう聞く。

 するとロランは、ラーミラスをちらりと見てから事情を説明する。


「勇者が死んだ。そして君も知っての通り魔王城に幽閉されている先代の魔王は、まだ健在だ。だが三義がまだ生きているから結界は崩れていない。ラーミラスの話では現在、元魔王軍の四天王が暗躍しているらしいが、魔王が完全に復活するには三種の神器は必要だ。だからこそ長老が一人で村の外に出るとは……」


 ロランのその話を聞いて、ミリーは大いに驚く。



「勇者が死んだの?」



 ロランはミリーのその様子に違和感を感じた。

 いくら外界と閉ざされたこの村でも、重要な情報は伝達されていたからだ。

 しかし、ミリーは勇者が死んだことを知らない。

 

 だとすると、今この村に入ってくる情報は全て長老であるエリエネシスの所で止まっているという事になる。

 重要な情報は長老のもとに、風の精霊が運んでくることになているからだ。



「外の世界ではそんな事になっていただなんて……」


「長老は何も話していないのかい?」


「ええ、こんな重要な話、前回の会合では一切言ってなかった。今この村には新たに着たエルフを含めても十九人しかいないのに……」


 ミリーはそう言ってうつむき考えこむ。

 実際、外の情報は長老であるエリエネシスが全て牛耳っている。

 当然自分たちの種族の事を大切に思っているエリエネシスだ、何か考えあるのだろう。

 しかし、外との情報まで隠蔽する様な事は初めてだった。



「一体この村では何が起こっているんだ?」


 ロランがそう聞くとミリーは首を横に振ってこたえる。


「分からないわよ。だからみんなもだんだん不安になっている。外から新たに来たエルフたちだって、元の家族との連絡が出来なくなっているから余計に心配しているし……」


「……分かった、ラーミラス悪いがもうしばらくここに滞在しよう。私が以前使っていた家がまだあるはずだ。私としても長老には話をする必要があると思う。でなければ南のエルフの村だけでなく、他の外界のエルフの村だって問題になってしまうからな」


「他にもエルフの村ってあるの?」


「ああ、南と北に二か所ある。外へ出たエルフたちはこの二つの村で他種族のつがいを見つけ、交配を繰り返してきたんだ」


「それって……もしかして北のエルフの村にはまだ未婚の男性がいるってこと!?」


「確かまだつがいになっていない者もいたはずだが……」


「分かった、協力もするからその北の村の未婚の男性を紹介して!」


 フンスと鼻息荒くなるラーミラス。

 この村と長老の事が気になるロランは苦笑しながらラーミラスに答える。


「ああ、北の村のナザにも協力して紹介してもらうようにしよう」


 


 こうしてラーミラス一行はもうしばらくこの「精霊の森」のエルフの村に滞在する事になるのだった。 


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