第三章:うわさ

3-1:エルフはお堅い


「ロランか?」



 その声の主は美しい若いエルフの、男性だか女性だかよくわからない二十歳くらいの人物だった。

 彼だか彼女だか、そのエルフの着るそれはまるで賢者のようないでたちで、長い袖に地面を引きずるような長い裾、そして曲がりくねった杖を持っていた。



「エリエネシス長老、ただいま戻りました」


 ロランはそう言ってそのエルフに一礼する。


「元気そうで何よりだ。お前が送って来た者は皆、元気にしているよ」


 そう言ってにこりと笑う。

 その笑顔は思わず見とれてしまいそうな程で、思わずラーミラスは顔を緩まして見入ってしまった。

 


「それでロラン、今日は何用だい?」


「エリエネシス様、実は……」


 ロランはそう言ってちらりとラーミラスを見てから話を始めるのだった。



 * * * * *



「そうか、彼女が次期魔王に成るやもしれないのか、では」



 エリエネシスはこの世界樹の根元で座りながらロランの話を聞いていたが、無表情のまま立ち上がり、ラーミラスに向かって杖をかかげた。

 そして感情の無い声でこう言う。



「君には悪いが死んでもらおう」



 エリエネシスがそう言った瞬間杖の先に光が集まる。


「長老!」


 ロランが慌てて立ち上がり、ラーミラスとエリエネシスの間に割り込もうとしたが、その光の弾はラーミラスに向かって撃ち出されていた。


 が、その光の弾はラーミラスにあっさりと捕まれ、握りつぶされてしまった。



 がしっ!

 バシュッ!!



「ちょっと、いきなり殺しになんか来ないでよ! 私に敵対するつもりはないんだから!!」


 ラーミラスはエリエネシスにそう抗議するも、エリエネシスは何事もなかったようにため息を吐いてからまた世界樹の根元に座り込む。


「やはり魔王は一筋縄ではいかないね。一応、私の使える精霊魔法で最上級のものだったんだがね。片手で握りつぶされるとは、先代の魔王以上じゃないかな?」


「え”?」


 つまらなさそうな表情でそう言うエリエネシスにロランは頬に一筋の汗を流しながら聞く。


「我ら南のエルフの村の恩人ですぞ? どう言うおつもりですかエリエネシス長老?」


「なに、ゆくゆくは彼女が魔王に成るのなら、今のうちに消しておくのが常套手段。先代の魔王はこのエルフの村にある「至高の杖」が無ければ復活は出来ないからね」


 そう言って手に持つ杖をかかげる。


「女神様が我ら人類に与えし三種の神器の一つ、『至高の杖』だよ」


 その曲がりくねった、ただの杖にしか見えないものが「至高の杖」だという。



「ですが長老、彼女は!」



「ロラン、分かっていると思うけど我らエルフ族は先の大戦でその数を大きく減らした。我々は苦渋の選択で他種族とつがいになり、数を増やし、そして純度の高いエルフをまたここへ戻しその数を増やそうとしている。そんな中、新たな魔王に成る可能性のある女性に我らの同胞を差し出せというのかい?」


 エリエネシスはそう冷たい瞳でいう。

 そして、その視線はラーミラスを見ている。

 

「南のエルフの村を救ってくれたことは感謝するよ。でも魔王と我々エルフは相いれない。悪いが敵対心が無いのならこの村から出て行ってもらえないか?」


「……分かったわよ」


 ラーミラスはそう言って立ち上がり、アルスを伴って踵を返す。


「ラーミラス! 長老、いくら何でもこれではあまりにも!!」


「ロラン、君は我らエルフ族の未来が大切なのかい? それとも一刻の感情で彼女の味方をするのかい?」


 エリエネシスにそう言われロランは言葉を失う。

 そして慌ててラーミラスを追うのだった。



 * * *



「はぁ~、せっかくイケメン男旦那様紹介してもらえるかと思ったのに」


「すまん、ラーミラス。まさか長老があそこまで頑固だったとは思わなかった」



 ラーミラスとアルス、そしてロランは歩きながら村の出口へ向かう。

 結局エルフの長であるエリエネシスがラーミラスを快く思わず、この村から追い出す形となった。

 ラーミラスとしても不満は残るものの、これ以上ごねても何もならない。

 なのでとっととここを出て他の所で理想の男性を見つけることにした。

 そんなラーミラスを見て、一人アルスだけは上機嫌ではあるが。



「しかし、長老があそこまでだとは思わなかった。ラーミラスには南の村のみんなを助けてもらった恩義があるというのに……」


「いいわよもう。エルフにはエルフの考えがあるんでしょ? それにここで私が無理言っても旦那さんになるつもりがない人ばかりだったら意味ないもんね。はぁ~、どこかにイケメンの良い男の人いないかなぁ~」


 そう言ってみたモノの、確かに気分がいいわけではない。

 憂さ晴らしの一つでもしたい気分だが、今はこのエルフの村から出ることにする。


 と、ラーミラスたちを遠巻きに見ていた中から一人の女性がやって来た。



「ロラン!」


「ん? ミリーか? 久しぶりだな、元気だったか??」


 エルフ特有の透き通るような金色の長い髪、深い緑色の瞳でもの凄い美人。

 ラーミラスは彼女を見て更に不機嫌になる。

 どうしてもその美貌は人族の羨望の眼差しになるからだ。



「あの、ロランこちらの方たちは?」


「ああ、南のエルフの村を助けてくれたラーミラスだ」


 軽く会釈をするラーミラスに、ミリーも会釈しながらミリーは表情を変えて、ロランの腕を引っ張る。

 そして小声で聞いてくる。


「あの頭の角って、魔族なんじゃないの? 何で魔族が私たちエルフを助けるのよ?」


「ああ、これには深い事情があるんだが、長老ともめてね。この村を出て行くように言われたんだよ」


「……ちょっといい? 彼女たちも一緒に来てもらえるかしら」




 ミリーと呼ばれた女性はロランとラーミラスたちを見ながらそう言うのだった。

      

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