2-2:エルフ救出


「アルス君、その孤児院って何処?」


 

 ラーミラスは孤児院に捕まっているエルフの男性たちを助け出す事にした。


「あ、あのお姉ちゃん?」


「非道を行うそんな孤児院はこの私が潰してあげる! もう、徹底的に潰して再起出来ないようにしてその秘密も世間にばらしてあげるわ!!」


 ぐっとこぶしを握り爛々と瞳を赤く輝かせてラーミラスはそう言う。

 頭の中では救い出したエルフの男性たちに感謝され、そして求婚されるというサクセスストーリーが何故か出来上がっていた。

 

 いつものラーミラスならそんな短絡的な考えは起こらないはずだったが、何故か気分が高揚している。

 そして当人は気付いていないだろうが、頭の角がググっと少し伸びた。



「えっと、お姉ちゃんて強いの?」


「ん? そりゃぁナッパスの街からここへ来るまでに何度も魔物や盗賊を一人で退治できたからね。孤児院にいる連中位なら何とかなるでしょう」


 どこから沸いたか分からないような自信がたっぷりと溢れていた。

 アルスは少し引きながらも、ラーミラスに言う。


「あの、場所を教えるのは良いけど僕は……」


「うん、アルス君は場所までの案内でいいからね。後は私一人で何とかするから。それに、しばらくは約束通り面倒は見てあげるから。さて、そうと決まれば孤児院の場所を教えてもらわなきゃだけど……」


 言いながらラーミラスは鼻をヒクヒクさせる。



「その前にに一緒にお風呂入ろうか? 流石にちょっと匂うわよ、アルス君?」


「へ?」



 驚くアルスににっこりとほほ笑むラーミラスだった。



 * * *



「あ、あのぉ……」


「ほら、早く服脱ぐ」



 ラーミラスにそう言われ、部屋に準備された大きな桶にお湯を張って湯あみの準備がされる。

 ラーミラスはアルスに服を脱ぐように言いながら、自分も服を脱いでゆく。


 いくらアルスが子供とは言え、流石にラーミラスのような美人が目の前で服を脱ぎ始めれば顔を赤くする。


 が、ここでアルスは初めて気がつく。


 ターバンのように頭に巻きつけた布を取ると角があった。

 下着を脱ぐと、その腰辺りから黒い尻尾が出てきた。

 自分と違うそれに、アルスは思わず見入ってしまった。



「ん? どうしたの?」


「あ、あの、お姉ちゃんて人族じゃなかったんだ……」


 アルスにそう言われラーミラスは初めて自分が裸になった事で、魔族化していたことを思い出す。 


「あっ」


「そうかぁ、だからお姉ちゃんは強いんだ。お姉ちゃんてどんな種族なの?」


 純真な瞳を向けられてラーミラスは回答に困った。


「えっと、そうだ。お姉ちゃんはちょっと呪いがかけられていて今はこんな姿なの。これはアルス君と私だけの秘密だよ? だから誰にも言っちゃだめだよ?」


「え、そうなの? うん、分かった。誰にも言わない」


「いい子ね、さぁ一緒に湯あみして体を洗いましょうね~」


 アルスの返事に、ラーミラスはにっこりと笑って彼の服をはぎ取る。

 少し恥ずかしそうにラーミラスに服をはぎ取られていくアルスだったが、最後に下着に手をかけられたときには少し困った顔をする。


「ん? どうしたの??」


「いや、その、ちょっと恥ずかしいって言うか……」


 ラーミラスは子供のくせに何を恥ずかしがっているのか首をかしげながら彼の下着を降ろして固まる。



 なんか大きい。



 いや、その昔、近所子供たちで川遊びしたりして男の子のそれを見た事はある。

 しかしみんなウィンナーよりちっちゃいイメージしか無かった。



「あ、あの、やっぱり変だよね? 孤児院にいた頃から他のみんなより大きいからってバカにされて……」


「あ、うん、いや、その、大人になればみんな大きく成るから///////」


 少し、しどろもどろしながらラーミラスはそう言って桶の中に一緒に入って行く。

 そして頭からお湯をかぶり、汚れをふやかしてゆく。



「えへへぇ~、実は私石鹸を持っているのよ、これで体を洗うと良い匂いがついてきれいに洗えるのよ?」


「せっけん? なにそれ?」



 錬金術師であるラーミラスは自作で石鹸も作れる。

 油が原料で作れるそれは、まさしく錬金術師なら容易に作れる物だった。

 香油よりずっと汚れも落ちて、良い匂いも付けられるラーミラス御自慢の石鹸。

 それを少しお湯に浸してアルスの頭を洗い始める。



「泡が目に入ると痛いから、洗っている間は目をつぶっていてね」


「うん…… あっ」


 言われて目をつぶり、頭からお湯を掛けられ何かで擦られると泡が立って来た。

 そして頭をごしごしと洗われるのだが、背中に何か柔らかいモノが二つ当たっている。

 いくらアルスが子供でも、何が当たっているかは容易に想像できる。

 大きな二つの丸っぽい物はとても柔らかく、アルスの背中を刺激する。



「どこか痒いところはない?」


「え、えっと、頭の横///////」



 ラーミラスに聞かれてアルスはそう答えると、更に背中に当たる丸いものが強く押し付けられる。


「んっと、ここかな?」


 シャカシャカとアルスの頭を洗うラーミラスはそう言いながらアルスの頭を洗い終える。

 そしてお湯を頭から掛けて奇麗に洗い流す。



「さてと、今度は体を洗ってあげるから、こっち向いて」



 言いながら石鹸を擦りあてて、アルスの体を洗い始める。

 が、ある部分で一旦手が止まる。


 ちょっとアルスの顔を見ると赤い顔をしている。

 他の子より大きいと言われるそれをラーミラスはごくりと唾を飲んで、努めて冷静に洗ってあげる。


 頭の中では「これも経験、旦那様が出来たらこんなモノじゃ済まなんだから、これも経験」とか念仏のように唱えながらアルス少年を洗い終えるのだった。




 * * *



「ふう~、さっぱりしたぁ」


「凄いね、石鹸って。こんなに奇麗になるんだ」



 なんやかんやあって体を洗い終わり、新しい下着を着けてさっぱりとした。

 アルスには自分の予備の服を取りあえず着させている。

 だぶだぶだが、後で彼に合った服を買い与えようと思っている。


「なんかお風呂に入っていたら時間が経っちゃったね、今日はもう遅いから、先に食事にしましょう。教会については食事をしながら教えてね」


「う、うん」


 だぼだぼのラーミラスの服を着たアルスは頷く。

 その感じがなんか可愛らしくてラーミラスは自分に弟がいたらこんな感じなのかなとか思い始める。



「さてと、下に行って食事を……と思ったけど、それじゃぁ歩きずらいよね? 宿の人に言ってご飯もらってくるね」


「うん」


 ラーミラスはそう言ってアルスを部屋に残して宿屋の一階が酒場になっているので、そこで食事をもらいに行く。

 アルスはそんなラーミラスの後姿を見ながら だぶだぶの服をぎゅっと抱きしめる。



「お姉ちゃんの良い匂いがする……」



 アルスにとって、それは初めて感じる安らぎの香りだったのだ。



 * * * * *



 翌日、ラーミラスのだぼだぼの服に布で腰ひもを作り、宿屋で手に入れたいらなくなった靴を少し修理してアルスに履かせる。


「うん、とりあえずはこれでも大丈夫そうね?」


「あの、いいのこの服もらちゃって?」


「いいわよ、最近その服の胸のあたりがきつくなってきたから、売っちゃおうと思ってたし。腰の所を押さえればアルス君でも大丈夫そうだしね」


 上着を腰の所で縛った簡単なモノだが、スカートのようにも見える。

 それは、見ようによっては女の子にも見える。

 元が可愛い少年なので、黙っていれば女の子にも間違えられそうだ。

 だが、これから孤児院の場所を案内してもらうにはいいかもしれない。



「それじゃ、その孤児院の場所まで案内してもらえる?」


「うん、こっちだよ」


 ラーミラスはアルスに案内されて孤児院へと向かうのだった。



 * * * * *



 そこは街から少し外れた場所だった。


    

 少し小高い丘の上の郊外。

 周りは何も無い荒れた土地だった。


 孤児院と言うそこは古い建物だった。

 外観は何処にでもある宿舎風。

 質素なそれは周りを塀で囲まれていた。

 そして、時折子供たちが庭先の畑で作物を作る手伝いをしているのが見える。



「あそこがアルス君のいた孤児院ね?」


「う、うん……」


 緊張に彼は体をこわばらせ、ラーミラスの後ろに隠れる。

 ラーミラスはそんな彼に振り返ってしゃがんで言う。

 

「ありがとう、後は私だけで何とかするわ。アルス君は宿に戻っていてね」


「あ、あの、お姉ちゃん。出来れば他の子たちは殺さないであげて…… 逃げ出した僕が言うのもなんだけど、みんな院長が怖くて言う事を聞いてるだけだなんだ……」


 アルスにそう言われ、ラーミラスは頷く。


「分かってるって、エルフの人たちも助け出せばこの孤児院がやっていた悪い事は知れ渡るわ。後は街の衛兵たちに突き出せば、ここの領主様が何とかしてくれるでしょう。友好関係にあるエルフに対しても酷い事しているんだから、動かない訳には行かないでしょうからね」





 そう言ってアルスの肩に手を置いてから、ラーミラスは孤児院へと向かうのだった。


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