1-6:ラーミラス危機一髪
「いやぁあああああぁぁぁぁっ!!!!」
ラーミラスの悲鳴が上がる。
そんな彼女に群がるゴブリンたち。
ゴブリンたちはラーミラスを押さえつけ、自分たちの玩具に出来る事に
武器でラーミラスを攻撃することなく、その体を押さえつける。
そして下卑た笑いすらしている。
「いやぁ、ゴブリンなんかに犯されるのは絶対に嫌ぁっ!!」
押し倒され、バタバタと動かしていた手足も押さえつけられ、とうとうラーミラスは涙目になって叫ぶことしか出来なくなってしまった。
ゴブリンたちは更に楽しそうにラーミラスの服に手をかける。
そしてその服を引き破る。
びりびりびりっ!
「いっやぁああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
カッ!
ラーミラスが心の底から嫌がって悲鳴を上げたその瞬間だった。
ラーミラスを中心に光が爆発的に
『げへっ?』
それはゴブリンたちも飲み込んで、全てを真っ白に変えて行く。
光はゴブリンの影を消して行き、その場に大きな爆発が起こった。
どっがぁああああああああぁぁぁぁぁんッ!!!!
遠目からでもわかるそれは大きなキノコ雲を発生させ、ラーミラスを中心にこの一帯に大きなクレーターを作った。
「ぐすん、ぐすん、いやだよぉ~、初めてがゴブリンなんかぁ~ ……って、あ、あれ?」
ぐすんぐすんと涙ぐんでいたラーミラスだが、服を破られた後に何も起こらないので恐る恐る目を開けると、ゴブリンたちの姿が消えていた。
それどころか、今までいた街道ではなく、緩やかな
「ぐすん、助かった? ゴブリンは??」
起き上がり、きょろきょろと周りを見るも、ラーミラス以外には誰もいない。
破られた胸元をスカーフで隠してから、ラーミラスは
そしてその光景を見て
「な、なにこれ? 大爆発でも起こったの!?」
周りは地面が焼けこげ、近くにあった林は木々がなぎ倒されている。
まさしくここを中心に大爆発が起こったようであった。
「こ、これってもしかして私がしたの?」
きょろきょろと周りを見ても他に誰もいない。
ラーミラスは周りとその
* * * * *
「はぁ~、やっと着いた」
ラーミラスはドリガー王国領、レントの街についていた。
もともといたウルグスアイ王国から歩いて約二週間ほどの道のりだった。
道中、何度か魔物に襲われたり盗賊に出くわしたが体が勝手に動いてそれらを撃退してきた。
そして頭の上の
「最近どうにすれば呪文詠唱が無く魔法みたいのが使えるか分かって来たけど、これって間違いなく魔王化が進んでいるのよね…… まずいわ、早くエルフのイケメン旦那様を見つけなければ!!」
ラーミラスはそう言って頭の
*
ドリガー王国領、レントの街。
ここはドリガー王国の最西端にある貿易の街だった。
西にあるウルグスアイ王国、と北側にあるロラン王国との交わる場所、故に古くから冒険者や商人たちが集まる活気のある場所だった。
「ここがトランの街かぁ。初めて来たけど、ナッパスの街より活気があるわね」
街並みを見ながらラーミラスは大通りを歩いている。
大通りの路肩には出店が並んでいて、いろいろな品々が売られていた。
「盗賊を返り討ちにして、
ゴブリンに破られた胸元をスカーフで隠してはいるが、その下には程よい大きさの双丘がある。
下着も破られたので、このスカーフが無くなってしまえば胸が露出してしまう。
うら若き乙女としてはそんな恥ずかしい目には合いたくなかった。
「となると、まずは服を探してっと……」
そんな事を言いながら歩いていると、目の前で一人の少年が殴られ大通りに弾き飛ばされて来た。
ばきっ!
どさっ
「使えねぇなっ!! もうてめぇなんか面倒見れねぇ、とっととどこかに行っちまいな!!」
見た感じ十歳にもなっていない少年は、ガリガリに瘦せている。
そんな少年はゆっくりとその殴り飛ばした相手を見る。
その眼は死んだ魚の様だった。
「けっ!」
その男は見るからにチンピラ風だった。
唾を吐き、その男はどこかへ行ってしまった。
誰もその少年を助けず、
ラーミラスは考える前にその少年に
「君、大丈夫?」
「……」
その少年はガリガリの割りに結構可愛いい顔をしていた。
後十年もしたら、ラーミラス好みの青年になっていたかもしれない。
「///////えっと君、ご家族とかは?」
ちょっと変な事を妄想したラーミラスだったが、少年は首を振ってゆっくりと立ち上がる。
そんな少年に周りの人々は全く反応をしない。
まるで空気のように無視をしている。
ここに至ってラーミラスも何となく理解をした。
流石に魔王軍との戦争は終わって何十年も経っているので、戦争孤児とかはもういない。
しかし、どんな時代でもこう言った少年はいる。
運よく孤児院に拾われていればまだしも、生きる為にチンピラの下につき、いいように
が、ここレントの街はナッパスの街より栄えているくせに、こう言った存在に対してかなり厳しいようだ。
ぼろぼろの服を着たその少年は正しく乞食のようだった。
少年はよろよろとラーミラスに背を向け歩き出す。
しかし、数歩行った所でいきなり倒れた。
「ちょちょっと君!」
ラーミラスは倒れた少年に駆け寄るのだった。
* * * * *
「うっ……」
少年は気がついた。
そして長らく忘れていた温かく、そして柔らかい感覚に包まれていた。
「あ、気がついた?」
その声はすぐ隣から聞こえて来た。
見ればあの時の女性がいた。
少年は状況が理解できず、瞳だけを動かして周りをっゆっくりと見る。
そこはどこかの宿屋の一室のようだった。
そして自分は本当に久しぶりにベッドに横になっていた。
「……お姉ちゃんは誰?」
「あ、私はラーミラス、ラーミラス=ハインドって言うの。えっと、君は?」
「……アルス」
少年はそう言ってゆっくりと起き上がる。
そして気付く。
チンピラに殴られたところに手当てをされていた事に。
「……お姉ちゃんがやってくれたの?」
「あ、うん。流石に放っておけなくてね……」
何となく照れ隠しに目線を泳がせて
そんなラーミラスをアルス少年は見上げて言う。
「……ありがとう、でも僕お金ないよ?
「あ、いいの、いいの。私が勝手に君を助けたんだから。そうだ、お腹減ってない?」
そう言ってラーミラスはパンとシチューの載ったお盆を持ってくる。
それをアルスに差し出しながら言う。
「取りあえず、食べられるなら食べて」
「……いいの?」
そう弱々しく聞くアルスにラーミラスはにっこりと笑って頷く。
するとアルスはすぐにそのシチューとパンをバクバクと食べ始める。
「やっぱり…… ちゃんと食べさせてもらってないのね……」
こう言った少年たちはチンピラの機嫌によって食事を与えられない場合が多い。
だから彼ら少年は幼くても盗みなどを働く。
そしてそのうわまえをはねられ、わずかな食事を与えられる。
街の人々もそんな厄介者を相手にしたくないので、たとえこんな幼い少年であっても無視をする。
場合によってはこの少年によって被害を受けた者もいるかもしれない。
そんな少年をラーミラスは何故か助けてしまった。
しかし後悔はしていない。
何故ならその少年は涙をぼろぼろ流しながらラーミラスが与えた食事にかぶりついていたからだ。
そしてお皿を舐めるかのようにして全てを食べ終わる。
「……ごちそうさま。 ……お姉ちゃんありがとう」
「うん、いいのよ。それより、君この後どうするの?」
分かってはいるけどラーミラスはアルスにそう聞く。
するとアルスは首を振って細々と言う。
「……分かんない」
「やっぱりね…… しばらくは私が面倒見てあげるけど、何処かの孤児院にでも行こうか?」
ラーミラスがそう言うと、アルスはびくっとなる。
そして死んだ魚の目のようにしていた瞳に
「こ、孤児院だけは嫌だ…… みんな、みんな死んじゃう……」
そう言ってアルスはガタガタと震え出すのだった。
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