第22話 行き詰まった海斗くん

攻略開始から山の中の時間で1ヶ月後


 焔さんたちは開始から着々とレベルを上げ続け、現在はそれぞれソロでエンペラー級のダンジョンを攻略しようと決め、皆さん着々と攻略を進めています。

 ちなみにエンペラー級のザコ敵はエクストラ級のボスに匹敵する強さなのですが、それが嘘であるかのように、皆さん敵を瞬殺していくようになりました。成長を感じますね。


 ですが1人、エンペラー級のソロ攻略が難航している人がいます。


 「...はぁ、今回もダメだった...」


 ミラージュダンジョン用の休憩部屋のふかふかベッドの上で、海斗さんが片手で顔を抑えながら吐き出すように呟きました。


 現在、海斗さんはエンペラー級ボス、【テラシャドウナイト】の攻略に行き詰っており、ボス部屋までは何の問題もなくサクッと行けるのですが、なぜかボスだけは何度挑戦しても倒すことが出来ずにいました。

 同じレベルの焔さんはちゃんとクリアできたのでレベルの問題ではなく、おそらく戦闘スタイルが相性最悪なせいだろうと考えました。


 テラシャドウナイトは全身に鋼鉄の防具をつけており、その装備はダンジョンの魔力を吸収し、物理攻撃に対して絶大な耐性がついています。

 その上、大剣だと言われても納得するほど巨大な剣を片手で軽々と扱うため、近接戦闘で戦うのは無謀な行為です。


 ですので、近づかずに遠距離からチクチク攻めていくのが定石なのですが、海斗さんの戦闘スタイルは超近接特化。遠距離攻撃の手段もあるにはありますが、近接攻撃と遠距離攻撃とでは攻撃の威力が天と地ほどの差がありました。


 「今回で9回目か…どうやったら勝てるんだろうか…でも遠距離で勝つのは俺じゃないしな…」


 自身の考えと悩みを声に出していると


 「おぉ、お疲れ。順調かい?」


 ダンジョンのゲート前で軽く準備運動をしている守花さんにはちあわせます。

 心月さんたち師匠軍団は、現在ゴッド級を攻略しており、もう7割までは攻略したそうです。


 「お疲れさまです。今日はソロですか?」

 「あぁ、ちょっくらソロでディザスター級に行ってこようかと思ってね」

 「普通にやばいこと言ってる自覚あります?」

 「んなっ、師匠に向かって失礼じゃないか!…まあ良いさ、レベルが上がればあんたたちもやるようになるさね。」


 ちなみにレベル的に言うと海斗さんのほうが10レベルくらい高いです。分かってはいましたが素が強すぎますね。


 「んで、あんたなに悩んでるのさ。話してごらん?」

 「えっ?どうして分かって...」

 「あのねぇ、これでもあんたを指南した師匠だよ?弟子が悩んでることくらいはすぐに気づくさね」


 ため息をつきながら、ただどこか笑みを浮かべながら、守花さんが答えました。


 「で、どうしたんだい?」

 「…実は、少し行き詰まっていて。エンペラー級のボスがいつまで経っても倒せなくて悩んでるんです。近接攻撃は全く聞かないタイプのボスなので遠距離からやるのが一番良いのは分かっているんですが…」

 「近接攻撃で倒したいと、まあ分かるよ。私もそうだしね。」


 俯きながら話す海斗さんの言葉に被せて自身の共感を示す守花さん。やはり弟子のことは手に取るように分かるようですね。


 「先生はそういう相手と戦うとき、どうやって戦うんですか?」


 海斗さんが疑問を投げかけます。確かに守花さんも戦闘スタイルは超近接型、どう戦うのか気になりますね。


 「え?敵が動かなくなるまでひたすら殴るけど」


 あっけらかんとした感じで守花さんが答えます。とんでもないほどの脳筋でした。これは重症ですね。


 「…聞く相手間違ったな」

 「だから師匠に対して失礼だっての!...ったく、まあ、そんだけちゃんと言うようになったのは自立の兆しさね。ただそうだね...」


 守花さんが海斗さんに詰め寄ると、海斗さんの額を中指で弾きます。ペシッ!と大きく音が響き、デコピンされた海斗さんは目を丸くします。


 「鬼化は海斗が思っているよりもっと強い。もっと深く、全てを解き放つようにしてやってみな。」

 「…分かりました、ありがとうございます。」


 額を抑えながら海斗さんは頷きます。


 「でも師匠、ちょっとデコピンの力強すぎじゃないですか?まだ痛いんですけど」

 「ハッ、師匠に失礼なこと言った罰だと思って甘んじて受け入れな。まあ、私から言えることはそんくらいさ。じゃ、あとは自分で頑張りな。」


 そう話すと守花さんはひらひらと手を振り、ダンジョンのゲートを起動し、さっさと中へ入っていってしまいました。


 「もっと深く...か...」


 海斗さんは自身の手を見ながら守花さんに言われたことを思い返します。


 「...しばらくはダンジョン以外で鍛えるか。」


 グッと手を握り、レベルに頼らずに試練を突破する決意を決めました。



 2週間後...


 「さて...行きますか。」

 手首と足首をくるくると回し、腕をぐーっと天へと伸ばした後、真剣な目つきをゲートに向けて呟きます。

 あれから海斗さんは時の山の中をひたすら走ったり、ひたすら基礎のトレーニングメニューをこなしたり、ファントムベースでひたすら実戦を積んだりと、とにかく己を鍛え上げました。その成果がどれだけ出るのか楽しみですね。


 今回の廃城タイプのダンジョンは、規模自体は森や砂漠のダンジョンには劣るものの、様々なギミックがあり、全て攻略することでボス部屋に行けるダンジョンであり、難易度は中の上ほどの中級者向けのダンジョンです。


 さて、まず始めに海斗さんが入っていったのは浮島ゾーン。孤立している足場に飛び乗って一番奥にあるボタンを押せばクリアとなります。途中落ちてしまうと始めからやり直しになってしまいますので、早期クリアを目指したいところです。


 「ここは楽だしさっさとクリアするか...ここからなら助走をつければあそこまで行けるな。」


 なにやら脳内で計算している海斗さん。無茶なことをする予感がプンプンしますね。

 スタート位置から少し距離を取り、屈伸したり腕を伸ばしたりと軽く準備運動をすると、クラウチングスタートの構えを取ります。


 「いちについて...よーい...ドン!」


 風のように勢いよくスタートし、落ちるラインギリギリまで近づくと


 「せーのッ!!!」

 ードオォォォン!!!


 地面が削れるほど強く踏みしめ、前方に跳びました。水平に近い放物線を描き、始めに跳んだ場所からおよそ50mのところに着地する、かと思いましたが海斗さんは足場の端を掴むと


 「よいしょ!」

 ーブォッ!!


 軽く風が起きるほど体を思いっきり回転させ、そのエネルギーを利用して横の壁へと体を投げ出します。


 「3、2、1…今!」

 ードオォォォン!!!ズサァァ!!


 壁に当たるタイミングを図り、壁にヒビが入るくらいに力強く蹴ってボタンのある足場へ飛び込みました。着地もバッチリです。


 「よしよし。まあここは前からできてたけどちゃんとジャンプ力上がってるな。」


 前からこれができていたのには少しんー?となりましたが、本人が成長を実感しているのならまあいいでしょう。


 海斗さんが壁に埋められている赤いボタンを押すと、部屋の入り口まで戻ってきました。


 「さて、次だ次」



 次の部屋は何もない一面灰色の壁に囲まれた部屋で、海斗さんが足を踏み入れると


 ーガコン!!

 「「「「...」」」」カラカラ


 入り口の扉が締まり、4体のモンスターが現れました。

 そのモンスターは全身の骨が露出し、二足歩行で、手には剣と盾を装備しています。

 お馴染みのモンスター【スケルトン】が海斗さんの前に立ちはだかります。もちろんエンペラー級の敵なので、普通は大ピンチの状況なのですが


 「ここも時間をかけるだけ無駄だな。」


 海斗さんが地を蹴り、スケルトンたちに向かいます。スケルトンたちが反応したときには時既に遅し、一体のスケルトンに拳が衝突し、壁まで吹き飛ばされます。


 「「「...!!」」」


 仲間が一瞬で吹き飛ばされたのを見て、スケルトンたちが一斉にバックし、バラバラに逃げます。ですが


 「逃がさない」


 逃げた先にはもう海斗さんが回り込んでおり、強烈なキックを受け、スケルトンのうちの一体は無残にもバラバラな姿に変わりました。


 「「...!?!?」」

 「さて、【轟け、鬼の血よ。】」


 鬼化した海斗さんは残り2人に向かって走ります。


 「...!!」

 「...!」


 スケルトン2体は同時に動き、それぞれ海斗さんの後ろと前に立ちます。


 「【風龍・韋駄天】」


 突如、スケルトン2体の足元から暴風が吹き荒れ、2体は上に吹き飛びます。

 天井にぶつかる寸前に盾を構え、衝撃をもろに受けないですみました。しかし、2体は重力に従って落ちていきます。


 「【獄龍撃・魔空波】」


 いつの間にか飛び、2体と同じ高さにきた海斗さんが拳を振り抜き、薄い紫のエネルギーを飛ばすと、2体諸共壁に叩きつけられ、光の粒子になりました。


 「オッケー倒せた。ボタンは...」


奥にある壁が下に下がり、隠された空間が現れると、そこの壁に埋め込まれた青いボタンを見つけました。


 「よし、あと一つだな。」


 そう言ってボタンを押すと、また部屋の入り口まで戻ってきました。



 最後の部屋はコンサートホールのような広い会場で、前方には観客席、後方にはおしゃれに装飾されたステージがあり、ステージ上には金属で作られた機械の人形が、スーツとマジシャンの帽子を被り、背中にマントをつけて、ポーズをとってじっと固まっていました。


 海斗さんが席に座ると、ステージ上空にスクリーンが投影され、「銀のヒマワリを持っているマジシャンを当てろ」という文字が映されます。


 すると中央にいる機械人形の手元に銀色の花が出現し、それを懐にしまうとボンッと音を立てて白い煙が発生します。やがて煙が収まると、機械人形の数が3人から10人に増えていました。

 中央のマジシャンが再度銀色の花を見せると、機械人形たちが一斉に踊り始めます。

 ステージの床をタンタン、と蹴る音や、マントがブワッと翻る音を響かせ、見事なダンスを披露しています。

 途中で素早く位置を変えたり、アクロバティックな動きをしている裏でこっそり移動したりと、海斗さんを撹乱することも怠りません。


 やがてダンスが終わると、上空に再度スクリーンが投影され、「銀のヒマワリを持っているマジシャンに触れろ。チャンスは3回だ」という文字が映される。


 「多分、こいつだな。」


 グッと腰を上げ、立ち上がると、ステージの右端から2列目の後ろの列にいる機械人形の肩に触れました。

 触れられた機械人形はボンッと煙を発し、やがて煙が収まると触れた機械人形の姿は消え、銀色のヒマワリが床に置かれていました。ステージクリアです。


 ステージ奥にある機械に銀のヒマワリをかざし、扉が開くと、そこには壁に埋められた黄色のボタンがありました。


 「さて、やっとか…今回こそは絶対に勝つ。」


 そう呟き、ボタンを押して入り口に戻ると、白の奥にあった巨大な扉がゴゴゴ、という音とともに開かれます。


 ボス部屋

 とても広く、天井も高い広大なフィールドですが、洞窟型のダンジョンなどとは違ってちゃんと床や壁は舗装されています。


 そして部屋の奥の中心に、地面に剣を突き刺し、腰を下ろしている巨大な生物がいました。テラシャドウナイト。このダンジョンのボス、そして、海斗さんの因縁の相手です。


 「今日こそ勝たせてもらうぞ!」


 海斗さんが言い放つと、腰を下ろして海斗さんをじっと見ていたテラシャドウナイトが


 「これは試練だ。鬼の子よ。」

 「!?」


 突然口を開き、話し始めました。それを見て海斗さんもとても驚いているようです。


 「我を殺してみろ。今の貴様にならできるだろう。だが」


 そこまで言うと立ち上がり、地面に突き立てていた剣を抜き、構えます。


 「そうやすやすと勝たせる気はないがな!」


 酷く重たいプレッシャーが海斗さんに向けられました。

 そしてそのプレッシャーが向けられるのと同時にテラシャドウナイトが海斗さんに向かって迫ります。


 「始めから全力だ!【轟け、鬼の血よ】」


 鬼の力を解放した海斗さんが地を蹴り、猛スピードでテラシャドウナイトに近づき、先制攻撃で拳をお見舞いしますが、全く怯むことなく大剣で攻撃してきます。


 「無策で突っ込んでも命を落とすだけだぞ!鬼の子よ!」

 「うっせ!敵のくせに指図するな!」

 「そうか!では、善意を無視した報復といこうじゃないか!」


 テラシャドウナイトは自身の剣の間合いに海斗さんが入った瞬間に剣を左上から右下にかけてななめに大きく振り下ろします。

 もちろん攻撃は回避され、海斗さんの反撃、と思われましたが、回避され地面に先端が刺さった剣を思いっきり動かし、自身の周囲に円を描きます。すると、剣によって抉れた地面から紫色の炎が吹き出し、海斗さんの侵攻を阻みます。


 「くっそ!多分次の行動はあれだろ?」

 「では、答え合わせと行こうか?」


 海斗さんは後ろにバックし、じっと炎を見ています。まるで何かを警戒しているかのような目です。

 すると


 「【インパクト・ストライク】」


 炎の柱を吹き飛ばし、海斗さんに向かって飛ぶように向かっていきます。まるで銃弾のように、一直線に、目にも留まらぬ速さで海斗さんの元までくると、いつのまにか納めていた巨大な剣を抜き、横一文字に振り払いました。


 「ぐっ...」


 能力で腕に鱗を纏わせ、なんとか受けることができました。しかし、その衝撃は凄まじく、一直線に壁へと吹き飛ばされてしまいました。


 「【獄龍撃・魔空波】」


 壁に薄い紫のオーラが叩きつけられ、その衝撃を受けて、打ち返されるように海斗さんはテラシャドウナイトのほうに飛んでいきます。

 そして寸前まで近づくと、再度魔空波を放ち、地面に叩きつけます。重力が反転したかのように海斗さんの体が天井に引き寄せられます。さらに


 「【獄龍撃・魔空波】」


 今までよりも出力を上げて天井に打ち込むと、先ほどよりもさらに速いスピードでテラシャドウナイトの頭上に落ちていきます。


 「【獄龍撃・地割】」


 海斗さんのかかと落としが隕石のようにとてつもないスピードで直撃します。その衝撃で周囲は濃い砂煙に包まれ、何も見えなくなりました。

 数秒で砂煙が晴れると、私の目に映ったのは、両手で大剣を押さえ、攻撃を受け止めているテラシャドウナイトの姿でした。


 「ふむ、少しはやるようになったな。だが、まだまだだ」

 「くっそ...ぐあっ!?」


 突如、海斗さんを受け止めていた大剣が黒い光を帯び、爆発しました。その衝撃で海斗さんは壁まで吹っ飛び、激突してしまいます。

 ズルッと壁から滑り落ち、力なく地面に尻をつくと、そこにテラシャドウナイトの追撃が迫ります。


 「まだまだ弱いな。鬼の子よ。もう一度出直してくるがよい。」

 「...ここまで...なわけないよなぁ!!」

 「!?」


 海斗さんがニヤッと歯を見せて不敵に笑うと、


 ーブオッッッ!!!


 突然暴風が発生し、テラシャドウナイトの行く手を阻みます。

 その隙に背中から羽を生やして全力で横に飛び、距離を取ると、手をだらりと垂らし、大きく息を吐きました。


 「【限界まで轟け。鬼の血よ。鬼化・極限解放】」


 すると、海斗さんの髪が赤と黒のツートーンから、漆のような黒一色に染まり、二つの瞳は赤く変わっていました。


 「それじゃあ、反撃開始だ!」


 海斗さんが地を蹴ったかと思うと、その姿はフッとかき消え、次に視認したときには既にテラシャドウナイトに蹴りを放っていました。


 「速い...!」


 なんとか防具で受けることができましたが、防具にダメージが入っているのを感じます。テラシャドウナイトはこのままでは防具が壊れてしまうのも時間の問題だと気づきました。


 「まだまだぁ!」


 身を翻してさらに一発、二発、どんどん追撃の拳が黒い防具にぶつかります。その度に防具がす唸っているかのようにギシギシという音が聞こえてきます。


 「調子に乗るなァ!小僧ォ!」


 テラシャドウナイトは手に持っている大剣を体ごと振り回し、海斗さんを引き剥がすと、両手で剣の柄を握り、自分の体の前に剣を持ってきます。


 「ハアァァァ...!!!」


 気のこもった声で力強く柄を握り締めます。すると、ただでさえ大きかった剣がさらに巨大化し、赤黒いオーラを纏っています。


 「【デーモン・ブラスト】!!!」

 ードガァァァ!!!


 今までよりもさらに速い動きで海斗さんに剣を振り下ろします。

 轟音が響き、地面は揺れ、テラシャドウナイトの周辺の地面は大きくヒビが入っていました。

 しかし、海斗さんはあっさりと回避し、テラシャドウナイトの背中を取ります。

 すぐにもう一度追撃しようと振り向きますが、海斗さんの異様な雰囲気とその「言葉」がテラシャドウナイトをおじけづかせます。


 「【限界の果てまで轟け。鬼の血よ。全てを壊し、全てを守り抜く力を我に与えたまえ】」

 「なんだ…なんだその力は!」


 テラシャドウナイトが恐怖心を含んだ驚きの声を上げました。海斗さんを見ると、赤黒いオーラが体の隅々にまで張り巡っています。


 「【極限解放・鬼王】!!!」


 海斗さんの髪が赤く染まり、瞳孔が猫のように縦に細長く変化していきました。そしてそのままグッと拳を握り締めます。


 「これで、終わりだぁぁぁ!!!」

 ードゴォォォォォォ!!!!!

 「グ…アアア...」





 テラシャドウナイトが地面に仰向けに倒れ、持っていた剣はカランという音を立てて地に落ち、主とともに倒れています。


 「見事だった...鬼の子よ...このまま...そなたの行く末を見届けたいが...この体では...到底敵わぬ...」

 「...そっか」


 海斗さんはどこか悲しそうな声で呟きます。


 「なに...戦場では命が散るなど当たり前だ...だが、そうだな...」


 そう言うと、テラシャドウナイトの手の上が光り出し、黒い宝石が現れました。そのままゆっくりとテラシャドウナイトの手のひらに下りていきます。


 「それは...我が魂の一部を...結晶化...した...ものだ...やはり...そなたの...行く末を...見届けたい...」


 話している間にも、テラシャドウナイトの体はどんどん光の粒子へと変わりポロポロと崩れていきます。


 「良い…戦いだった…最後に…このような…戦いが…できたのは…武人として…この上なく良い…最期だろう…ありがとう…鬼の…子…よ…」


 ついにテラシャドウナイトの体の全てが光の粒子へと変わり、完全に消えてしまいました。コロッと黒い宝石が落ち、海斗さんは無言でそれを拾います。


 「…クリアだ。」


 そう呟き、いつの間にか現れた扉を開け、ゆっくりとなかに入って行きました。





 「これでアクセサリーを作って欲しい?」


 ダンジョンから帰った海斗さんは、山に建てられた鍛冶場で焔さんにアクセサリーの製作を依頼していました。


 「あぁ、色々あってね。ブレスレットでもペンダントでも良いから身に着けられるものに加工して欲しいんだ。」


 ふうん、と言いながら焔さんはじろじろと宝石を眺めます。


 「これ、中に魂が入ってる気がするな。上手くやらないと魂にダメージがいくから加工はかなり難しいぞ。」

 「うーん...じゃあ鏡平さんに頼んだほうが良いか?」


 いや、と首を振り、宝石を握って海斗さんと目を合わせます。


 「俺がやってみせる。大丈夫だ。エジソンキューブのおかげで手先も結構器用になっているし、それに、今までちゃんと武器や道具の製造の練習をしてきたんだし、挑戦してみたいんだ。」


 真っ直ぐな目で海斗さんを見て自身の決意を話します。それを聞いて海斗さんは


 「わかった。じゃあよろしく頼むよ。」


 と、焔さんに黒い宝石の加工を託しました。




 山の中で数日後


 「よし、龍介、早く行こうか」

 「そうだな」


 海斗さんが手首と足首をくるくると回しながら龍介さんに話しかけます。首元には黒い宝石で作られたペンダントがぶら下がっています。


 「ん?海斗、そんなペンダント持っていたか?」

 「前に色々あってさ。これ、モンスターの魂が結晶化されているんだ。」

 「どこで入手したのだそれは...」


 龍介さんはどこか呆れてるように見えます。海斗さんはたはは、と小さく笑ってペンダントを握ります。


 (あのモンスターが何者かは分からない。なぜ話せたのか、なぜ俺のこれからを見たいと言ってくれたのかは謎のままだ。でも)


 海斗さんはギュっとペンダントを握る力を少し強くします。


 (あいつの期待に応えられるくらい、強くならないとな。)


 「さ、早く行こう!龍介!」

 「うおっ、分かったから押すでない!」


 少し言い争いながら、2人はダンジョンに入って行きました。

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