第20話 ミラージュダンジョン
読者の皆さん、お久しぶりですね。天宮清歌です。本当なら前回は私がナレーションを行うはずだったんですが、心ちゃんが
「清歌、お願い!次のナレーターの出番、私に譲って!今度高級プリンあげるから!」
...と頼まれて、前回の出番は心ちゃんに譲りました。その後、ちゃんとお高いプリンをもらったのでまあ文句は無いです...でも一つ言いたいことがあるとするなら、前回私が担当した回、怜さん視点があったので私の出番1.5話くらいだったのに、結局心ちゃんは4話くらい出番があったのはずるいな、って思ったので、今度心ちゃんには何かスイーツを、そうですね、たい焼きでも奢ってもらうことにします。無駄話が長くなりましたね。では、始めましょう。
「こ、こんなモンスターが存在するとは...」
「でけぇスライムかと思ったらなんなんだよこいつ...体に人の目が大量に...」
前回心月さんたちが討伐したモンスター、特に、あの異形のモンスターを見て驚愕の声を上げるギルドの職員の方々。
スライムで液体状のモンスターは見慣れていても、流石に人の目が大量にあるのは見たことがないそうですね。
「で、これらの買取価格はどんな感じかな?」
心月さんの問いに受付を担当している女性は少し戸惑いながら答える。
「え、えぇと...現在鑑定しているあのモンスターに関してはまだ見当もつきませんが、ボルケイノゴブリン1体の価格が所持していた武器をふくめて60万円、ワイスゴーストが一体100万円、フタクビリザードは傷が多めだったので40万円、タックルボアが250万円、オオシロクロキツネが300万円、オオリュウノグマは討伐されて持ってこられるのはレアケースなので詳細な金額は分かりませんが大体500万円くらいにはなるかと思います。他にも数体モンスターを持ってきたうえ、謎のモンスターまで持ってきたとなると、総買取金額は4400万円ほどになるかと思います。」
「わーお、中々の金額だね。でも、前にも焔たちがここにきてモンスターを買い取ってもらった時もかなりの額だった気がするけど、大丈夫なのかい?」
心月さんの問いに対して、女性は冷静に答えます。
「金銭面に関しては国からも補助を受けておりますし、今回も前回の彼らの狩ってきたモンスターの死体も、かなりきれいな状態だったので、レアなモンスターのものに関してはオークションで高値で取引されるので、金銭面に関してはそこまで問題はありません。あと、すぐにお金をお渡しできるのは皆さまが持ってきたモンスターは国に渡され、別の機関がモンスターの素材をオークションにだしたり、職人や生産業を営む企業に卸すんですが、その売り上げはメインで国のほうに入るようになっているかわりにすぐに冒険者の皆さまにお金を渡せるように国に申請することで、翌日には皆さまにお金が振り込まれるようになっているんです。」
「へぇ、そうなってるんだ。上手いことできてるんだね。」
心月さんが感嘆の声を漏らすと、受付嬢の方がニッコリと笑顔を見せます。
「ええ、ですので今後ともどうぞ冒険者ギルドのご利用をよろしくお願いいたします。」
「はは、それはもちろん。」
心月さんが笑顔で答えると、受付嬢の方が一瞬悩むような表情を見せますが、すぐにそれを取り繕い
「...あの、前に来た少年たちの指南を行っていたのはお客さまがたですか?」
と落ち着いた声で問いかけます。
「あぁ、焔たちのことかい?ちょっとしたかかわりがあってね。で、なんでそんなことを聞いてきたの?」
「ギルドではダンジョンの管理、モンスターの素材の買取のほかに新人冒険者への講習会を行っておりまして、もしよろしければ戦い方のご指導をして頂けないでしょうか?」
その言葉を聞いた心月さんの顔が険しくなります。
「...悪いが、その話は断らせてもらう。少し過去に嫌な思い出があるんでね。大人数の前に出るのはなるべく遠慮したいんだ。」
なにかとても強い圧力を感じる声に、受付嬢の方がヒッ、と小さく悲鳴をあげました。心月さんはすぐに温和な態度に戻り、
「あぁ、すまないね。怖がらせてしまって。まぁ何かしらの形でギルドには貢献するさ。にしても、君は僕のような子供みたいなやつにも丁寧に接するんだね。」
と、いつもの口調で話します。
「え、えぇ、お客様が大人であることは書類を拝見させて頂いたので存じていましたし、お客様がただものではないのは戦闘を経験したことのない私にもなんとなくではありましたが感じることができましたので...」
「なるほどね。人の力を見抜く洞察力はこの仕事では重要になるだろうから大切にしなよ。まぁ関係ない僕が言うことではないんだけどね。」
「あ、ありがとうございます。」
少しだけ怯えているように感じましたが、それでも笑顔を作って心月さんにその笑みを向けました。
さて、ここから結構長くなりそうですのでシーンを移しましょう。
【悟さんの家】
ローテーブルに向かい合って風花さんと真莉ちゃん、悟さんが座り、お茶を飲みながら話し合っています。
「...で、悟先生、これからどうするんですか?」
風花さんが少しあきれているような声で悟さんに問いかけます。
「うーん、とりあえずは真遊に拠点をここに移してもらって同棲しようかな、とは考えているね。真遊とちょっと話し合ってみたけど賛成してくれたから、風花たちが山に泊まるときは真遊の家に泊まって欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「私達は大丈夫ですよ。でも、エルちゃんに会わせてくださいね?」
「うんうん、私も気になるから会ってみたい!」
そう笑顔で言う弟子2人に悟さんが笑いかけました。
「ははっ、それはもちろん。ところで、恵ちゃんと結衣ちゃんの修行の調子はどうだい?順調かい?」
その質問に対してえぇ、と風花さんが頷きます
「修行はかなり順調に進み、少し前の私たちと遜色ないレベルにまで強くなりました。また、2人とも2つ目の能力を発現しまして、恵さんは【反発】、結衣さんは【分析と計算】という能力らしいです。」
「へぇ、凄いね。ちゃんと強くなってるじゃないか。指導はみんなでやったのかい?」
「ええ、ですが途中から怜ちゃんは『ちょっとやりたいことがあるから』と言って指導はしなくなりましたね。」
「ふーん、そういや神奈もギルドで『こんだけ人数いたら大丈夫でしょ。私ちょっとやりたいことあるから先に山に戻るね』って言ってすぐに帰ってったな。」
「神奈さんもですか?もしかして怜ちゃんと一緒に何か凄いものを造ってるんですかね?」
「...ちゃんと大丈夫なものだよね?」
真莉ちゃんが不安そうに呟くと、風花さんも悟さんも黙りこんでしまいます。まああの二人ですから不安になるのは分かりますが、多分大丈夫でしょう。多分。
「ま、まぁ多分大丈夫だよ。うん、多分...」
「正直不安しかないのが本音なんですよね...」
2人が不安そうに弱々しく呟きます。ちなみに、風花さんは大丈夫でしたが、悟さんは過去にちゃんと神奈さんに痛い目にあわされています。
悟さんが不安をごまかすために一口お茶を飲むと、ピロリン、とスマホから音がなりました。
「ん?メールが...あれ?神奈からだ。『見せたいものがあるから風花ちゃんと真莉ちゃんを連れてファントムベースに集合して!』...行こうか」
「そうですね。まあ何事もないことを祈りましょう。」
【ファントムベース】
洞窟のような岩肌に囲まれた空間に焔さんたち、そして心月さんたちが集まりました。ちなみにエルちゃんは一緒に連れられて来て、焔さんたちに怯えているのか真遊さんの後ろに隠れています。
「諸君、よく来てくれたね。」
神奈さんがパンパン、と手を叩きながら焔さんたちのほうへ歩いてきます。その後ろには怜さんもいますね。
「今回君たちを呼んだのは他でもない。私たち2人の自慢のシステムがついに完成したからだ!その名も【ミラージュダンジョン】!」
神奈さんが声高らかに発言します。
「まあ詳しい説明はフロストにしてもらおう。フロスト、説明よろしくね。」
怜さんの声に応えるように、巨大なスクリーンが上空に投影される。
「了解しました。それでは、説明いたします。」
落ち着いた口調でフロストが説明を始める。
「ミラージュダンジョンはざっくり言うと選択制ダンジョンです。」
「それってモンスターの強さを選べたりするってことか?」
フロストさんの発言に焔さんが問いを投げかけます。
「その通りです。ホムラ。自身に合ったモンスターの強さで、様々な環境のダンジョンに挑戦することができます。」
その言葉に守花さんが片方の口角を少し上げ、ニヤリとした表情になります。
「へぇ、そりゃあ良いね。」
「難易度の種類は下から順にE→D→C→B→A→S→X→Z→エクストラ→マスター→クレイジー→ディザスター→エンペラー→ナイトメア→ゴッドとなっています。特にゴッドクラスは全ての敵が地上型ダンジョンのボス以上の強さになっているので、ソロでの突破はほぼ無理です。」
フロストのほぼ無理、と言う言葉に全員の表情が少し固くなります。そもそもの話ソロでのダンジョン攻略は基本的に自殺行為と同義だと聞いたことがあるんですが、なぜソロでダンジョンに行くんでしょうか?
「まあ、味方が邪魔にならないってのがやっぱ大きいさね。互いが足を引っ張り合って隙が生まれ、その隙を狩られて大ダメージを負っちまうからねぇ」
なるほど、そういうことですか。
「あとは、【レベル制度】というものがあり、今の皆さんの強さをレベル1として強くなるごとにレベルで示される制度があります。」
「ステータス下降とかはない?」
悟さんが片手をあげて質問します。
「それはないですね。現時点のステータスをレベル1とするので。また、レベルアップに必要な経験値は戦闘に参加したプレイヤー全員に配布されます。」
龍介さんがほう、と感心した声を漏らします。
「では一緒にダンジョン攻略を行った仲間同士で大きなレベルの格差が出ることはないだろうな。」
「ちなみにですが、敵にとどめを刺したプレイヤーにはボーナス経験値が付与されます。」
「うーんやっぱり取り合いになることはあるよね...」
そのことを聞き真莉ちゃんの顔が少し強張ります。
「基本的には足並み揃えてレベルを上げられると思うので大丈夫だと思います。それでは早速挑戦しますか?」
「あーフロスト、ちょっと待ってね。焔、海斗、風花、アイレ、俊、マリン、スカル、龍介、恵、結衣、集合」
怜さんがちょいちょい、と手招きして焔さんたちを呼び寄せます。
「これから毎日寝る前にこれのスイッチを押してから寝てほしいんだ」
「良いけどなんだ?これ」
焔さんが怪しむように目を細めて怜さんの手の上にある道具を見る。その道具は黒く、多角形の結晶のような形をしているもので、表面が少し反射し、怜さんや焔さんたちの顔を薄く、ぼんやりとですが写しています。
「これは睡眠中に使用者に干渉して夢の中で工学の学習ができるアイテム、名付けて【エジソンキューブ】だ。これからこれを使って技術力をつけてもらって私の手伝いができるようになってもらうから」
人数分のエジソンキューブを配り終わると、怜さんは人差し指を斜め上に向け、ウインクして笑いました。
「じゃ、頑張ってくれよ。エンジニアのたまごちゃんたち。」
「いや勝手にエンジニア志望にすんな」
「俺もエンジニアではなく鍛治師志望だからエンジニアにはならないかな」
「...私も。農業関係の職業希望だからエンジニアになる気はない」
「みんなそう言ってるけど、これ攻略し終わるときには山入る前の私レベルには技術力つくからね?」
「今回もすごいもの作りましたね...」
風花さんがちょっと引き気味に呟きました。まあでも危ないものではなさそうですし良かったですね。
「本当に良かったっすよ〜。ガチでほんとに」
「だな、ほんとに、マジで」
俊さんと焔さんが口を揃えて安堵の言葉を口にします。この二人は特に怜さんの被害に遭っているので、心から安心しているのが伝わります。
すると怜さんが口を尖らせて苦情を漏らします
「まったく...みんな私のことをなんだと思っているのさ。」
「技術力がやべーやつ」
「天才」
「尊敬できる友達...ですかね」
「...親友」
「自慢の姉」
「頼れる先輩かなー」
「信頼できる友達」
「頼れる技術者」
「お、恩人ですかね」
「私も同じですわ」
「...ごめんちょっと予想外すぎて照れちゃった」
怜さんの顔がほんの少し赤く染まったように感じます。まあこれだけ褒めのラッシュを受けたらそうなりますよね。
「ご、ごほん、まあ良い。とりあえずそれ使って私に追いつくくらいの技術力を身につけられるように頑張ってよ。」
「まぁ頑張るさ。それじゃあ、早速ダンジョンに行こう!」
「海斗張り切りすぎだろ。」
うきうきとした様子の海斗さんを少し呆れるように見る焔さん。ですが焔さんも何処かワクワクとしているように感じます。やはり皆さん戦闘大好きなんですかね?
ちょっと長くなりましたね。では今回はこの辺で終わりましょう。次回からミラージュダンジョンに焔さんたちが挑みます。お楽しみに!では
全員「まったね〜!」
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