第18話 異形

 【5階層】

 心月先生たちが進んでいると


 「グルルルル...」


 体は黒と白の毛に覆われ、三本の大きな尻尾は上にピーンと伸び、その者の存在感を表している。【オオシロクロキツネ】が心月先生たちの前に姿を現した。


 「じゃ、ここは俺が」


 悟さんが無警戒でとことこと前に出る。


 「グルル...グオォ!!」


 悟さんの態度が己を舐めているように感じたオオシロクロキツネが悟さんに吠え、飛びかかる。すると


 ードゴォォォン!!ギュルル!!

 「グオッ!?」


 突然、オオシロクロキツネの下から木の根が生え、オオシロクロキツネを絡めとり、動きを封じた。


 「さて...この後はどうしよう?...あ、そうだ」

 ーパチン!


 悟さんが指を鳴らす。すると


 ードオオン!!

 「グオォォ!?!?...ォ、ォ、ォ...」


 大きく鋭い岩がオオシロクロキツネの下から勢いよく生え、その体を貫いた。岩に赤い血が滴る。


 「ひゅ〜さすがだねー。」

 「どもども、まあちょっと解体が面倒くさくなるんだけどね。」

 「いや死体ごと燃やせばいいんじゃないの?」

 「死体が燃えたら駄目でしょう...あーいや、木の根だけ燃やすことはできますね。」

 「できるのかい?」

 「ええ、やってみますね。」


 鏡平さんが死体に近づいて、絡まっている木の根に手をかざす。すると


 ーボオォォォ!!


 音を立てて燃え始め、すぐに死体は炎に包まれた。


 ーパチン!


 鏡平さんが指を鳴らすと火が一瞬で消え去る。火が消えて見えたのは綺麗に木の根のみ焼け落ちた岩に刺さったオオシロクロキツネの死体だった。


 「「お〜」」パチパチパチ

 「へぇ、やるじゃないか」

 「ははは、どうも。それじゃあさっさと回収して次に行きましょう。」


 【5階層奥地】

 心月さんたちが進んでいると、目の前に巨大な扉の前に辿り着く。ボス前の扉でーすはーい。


 「もう出てきすぎて紹介が雑になりすぎてるね...」

 「じゃあみんな、行こうか」

 「「「「「おー!」」」」」


 扉を開け、中に入って見えたのは巨大な怪物


 「グルオオオオオ!!!!!」


 体表はトカゲのような皮膚に覆われ、大きくとても筋肉質な二本足で立ち、熊のようにどっしりと構えている。爪や牙はどちらも太く、鋭く発達しており、巨大な尻尾が地面にペタンとなっているため落ち着きがあるように思えるが、鋭くこちらを睨む目がそれを否定する。

 【オオリュウノグマ】が心月さんたちに気付くと大きな雄叫びを上げ、ボス部屋中の空気を震わせた。


 「じゃあ私がやろうかな〜?」


 真遊さんがいつもの調子で前に出る。敵が近付いてくるのを見てオオリュウノグマは手を地面につけ、四足獣のように姿勢を低くする。


 「【轟風】」

 ーゴオォォォ!!!

 「グオッ!?」


 凄まじい風が吹き荒れ、オオリュウノグマが怯む、分かりやすく生まれた隙を真遊さんは逃さない。


 「てーい!」

 ーキインッ!!


 真遊さんが風の刃を持ち、斬りかかるが、まるで全く効いていない。斬りかかったところも傷一つついていないようだ。


 「ありゃりゃ、鱗のようなものもないしパッと見皮膚も薄そうだから柔らかいと思ったんだけどこれはだいぶ硬いねー」

 「僕ちょっとその皮欲しくなってきましたね。」

 「職業のクセ出てるよ、鏡平」

 「真遊、手伝おっか?」

 「いや、私一人で大丈夫〜」


 真遊さんは後ろに飛びながら手に持っていた風の刃を思いっきりぶん投げるが、オオリュウノグマに当たった瞬間に弾けてしまった。弾けた風がとても小さな気流を成し、湯気のようなオオリュウノグマの白い吐息を上に巻き上げる。


 「グルアァァァ!!!」


 オオリュウノグマが雄叫びを上げ、口を大きくぐわっと開けると、オオリュウノグマの鼻先にバスケットボールほどの大きさの火球が出現する。


 「なんかきそうだからみんな気をつけて〜」

 ーボオォォォ!!!


 火球から勢いよく炎が吹き出し真遊さんや後ろの心月さんたちに迫る。


 「じゃあせっかくだしこれ切っちゃえ」


 真遊さんから巨大な風の刃が一瞬にして放たれると、吹き出した炎は真ん中を境に真っ二つに割れ、部屋の壁に当たり、広がってメラメラと燃えている。

 だが、風の刃はまだ止まらずにオオリュウノグマに迫る。オオリュウノグマは両手を交差して防御の姿勢をとっている。風の刃が届く、と思ったその瞬間


 ーパチンッ!


 乾いた指の音が部屋に響く。すると風の刃が弾け、巨大な上昇気流を作る。だが、オオリュウノグマを浮かすだけの力はなく、少しふらつかせる程度だったが


 ーパチンッ!

 「グオッ!?オオ...?」


 上昇気流だった風が真遊さんが指を鳴らした瞬間、ワイヤーほどの細さの針に変わり、オオリュウノグマの体に何本も突き刺さる。さらに針は地面も貫いて、深く深く地面に刺さった。ワイヤーほどの細さでもかなり丈夫で、しかも地面に固定されているため、オオリュウノグマは動くことができなくなっている


 「おー大成功だ〜。それじゃあ、バイバイ、楽しかったよ〜」

 「グオォォォ!!」

 ーザシュッ!!

 「グォォォ...」


 風の刃で頭と胴体がなき別れになり、大きな体が横に倒れ、頭がゴロゴロと転がり落ちた。


 「真遊、楽しかったかい?」

 「うん、満足〜。」

 「まああんだけ上手くいけばそりゃ満足するさね」

 「真遊さん、この針抜いてもらえますか?」

 「りょうか〜い」

 真遊さんが指を鳴らすと固形化した針が再び気体になり、渦を巻いて拡散した。

 「じゃあこれしまって次行きましょ」

 「「「「「りょうか〜い」」」」」

 「なんで全員真遊さんみたいな喋り方を...」


 ええやんか別にそういう気分だったんやろ...おっと申し訳ありませんでした。エセ関西弁が出てしまいました。

 それではシーンを飛ばして~?


 【10階層奥地】

 ボ ス 部 屋 に 着 き ま し た ☆

 「さすがに飛ばしすぎだよ...」

 「なんでこんな飛ばしたんだい?」

 いやだって、何回かモンスターと戦ってたけど全員1パンだったし、なんかよく分かんないけど宝箱とか全然ないし、もうボス前まで飛ばしても良いかなって。


 「やっべぇなんも言い返せんわw」

 「うーんちょっとくらいふざければ良かったかな」

 「まぁまぁ、さっさとボス部屋行こ~」


 まぁそんなこんなで扉を開けてボス部屋に入るとそこにいたのは異形の怪物だった。

 体表はスライムに似た黒っぽい青色のゼリー状のものであり、ポコポコと液体が沸騰するように半球状に浮きででは弾けてを繰り返していたり、毛のように細長い形を成している部分は生きの良いうなぎのようにうねうねと動いている。全体的な形は蛙が一番近いように思えるが、そいつの体にはあらゆる場所に人間の目のようなものが付いており、無機質ながらもこちらをじっと見続けており、絶え間なくこちらに緊張感を与え続けてくる。また、足と呼べる部分は見えないが、胴体から2本の短い腕を出し、蛙のように地面に手を置いている

 この世のものとは思えないこの化け物はぎょろぎょろと動かしていた目の動きをピタリと止め、一斉に心月さんたちに視線を向ける。


 「何だ...こいつは...?」

 「明らかに異質、というか異常だ...あんたたち、大丈夫かい!?」

 「きっっっも。何こいつ?そもそも倒せるの?」

 「そればっかりはやってみない限りは分からないな。」

 「っ!構えてください!来ます」

 「タルマ・テ・ヴェラジャ=スグサ・ワヌダ=ケ・トルガ・モルギリザ=テラ・ア・イルダ」


 化け物が謎の言葉を唱えると、心月さんたちの足元に魔法陣が出現する。本能が、今まで培ってきた経験が、心月さんたちに逃げろと命令する。それに従い魔法陣から瞬時に飛んで離れると、その瞬間にブチブチと音を立てながら化け物の体と同じ、青いゼリー状の物質が魔法陣から勢いよく吹き出し、天井にぶつかって部屋中に散らばり、散らばった物質はうにょうにょと芋虫のように蠢いていた。


 「うえぇ~...こりゃ地面は使えないな~」

 「とりあえずは何が効くのか試してみましょう。」

 「じゃあ私から...【滝流電】」


 神奈さんから放たれた極太の電気の柱が化け物に向かって落ちる。化け物に当たった瞬間、電気が化け物に落ちるスピードがとんでもなく遅くなり、目で簡単に追えるほどゆっくりと落ちていく。さらに地面に着いた電気は消えることなく液体のように広がり、やがてボス部屋中の地面を電気で覆いつくした。しかし化け物は潰された空き缶のようにぺちゃんこに潰れていたが、その形はゆっくりとだが攻撃をくらうまえの状態に戻っていく。どうやら電気自体は効いていないらしい。


 「えぇ、結構出力大きめだったんだけど効いてないの?」

 「じゃあ斬撃はどうかな〜?」


 真遊さんが巨大な風の刃を放つと、化け物の体が真っ二つに割れる。しかし、そこで死には至らず、体がドロドロと溶け出し液状化すると、再び形を成した。若干小さくはなっているが、さっきと同じように攻撃される前と同じ形を成している。しかも真っ二つにされそのまま形を再形成したからか化け物が2体に増えている。


 「わ〜ごめん。ゼリー状の敵っていう時点で分裂する懸念を入れておくべきだった。」

 「大丈夫、それより敵の攻撃が来る。みんな構えろ!」

 「タグリ・ム=スト・ネ・ダ=ケグラ・ソグフォム=テヴァ・アルド・ブ」

 「「「「「「「「「「テヴァ・アルド・ブ」」」」」」」」」」


 ボス部屋中に散らばったゼリー状の物質が呼応するように化け物の言葉の一部を復唱する。すると散らばったゼリー状の物質が形を変え、ロケット花火のような形になると一斉に上へ飛び、天井に当たって小規模な爆発を起こした。

 心月先生たちは大量の爆発を飛び回って避ける。中には天井に着弾する前に爆発するものもあり、高度を下げるだけでは避けきることはできず、しかも爆発の間を縫って化け物から触手が飛んでくる。触手に捕まるのは絶対にまずいと感じ、爆発は多少くらう覚悟で触手に捕まらないように避け続ける。だが


 ーガシッ!

 「あっ!」


 真遊さんの左足が触手に捕まってしまった。するととんでもない力で怪物のほうへ引っ張られてしまう。怪物はガバっと口(?)を開けた。食われる、と思われたその瞬間


 ードドドオォォォン!!!


 怪物の真下から何本もの岩の剣が飛び出し、さらに怪物を囲むように太い木の根が絡まりあって出来た極太の木の根が4本生えてきた。岩の剣が化け物の体を貫いたことで化け物は一瞬動きが止まった。その一瞬を逃さず悟さんが仕掛ける。


 「握りつぶせ」

 ーギュル!ブチュゥゥゥ!!!


 木の根の先端が巨大な人間の手のようになり、4本の手が化け物を握りつぶした。化け物の形は崩れ、ドロドロの液体になった。自身を引っ張っていた力がなくなったうえに触手の根本のほうがちぎれて無くなったため、なんとか真遊さんは触手から脱出することが出来た。

 だが、怪物は自身を攻撃した岩の剣と木の根の手を体で包み、体内に取り込んでしまった。しかも最初よりも体が大きくなったように感じる。


 「切っても刺しても潰してもダメ...近接攻撃はほぼ無効化されちまうねぇ。でも...【鬼術・剛力炎】」


 守花さんから放たれた広く広がった炎が怪物に命中するも特にダメージを受けている様子はない。


 「術も無効化されちまうと...さてどうするべきかねぇ...」


 守花さんを始め、先生たちの顔に悩みが見えてきたとき


 「...ねぇ鏡平、気付いてる?」

 「まぁなんとなくはどうすればあいつを殺せるか浮かんではいますね。心月先生」


 師弟コンビはなにやら攻略法となりえる可能性を見つけたようだ。


 「じゃあここはお願いして良いかい?」

 「弟子に花を持たせてくれるんですか?」

 「あぁ、たまにはね」

 「...まぁ、全力でやってやりますとも。」

 「あぁ、いってこい!」


 鏡平さんが炎で足場を作り、思いっきり踏み込んで未知の異形の怪物に突っ込んでいく。


 「フーッ...」


 一瞬だが目を閉じ、深く呼吸を行う。刀の柄を握る力が強くなる。


 「【アビス・インフェルノ】」

 ードオォォォ!!!!!


 炎によって攻撃範囲が大きく広がった赤い刃が地面と天井ごと深く、深く、2体に分かれた怪物をまとめて切り裂いた。

 再び動き出し、分裂するかと思われたが、ピクピクと若干動いてるだけでもう戦えるほどの力は無くなっていた。

 守花さん、神奈さん、悟さん、真遊さんが唖然としている中


 「心月先生」

 「あぁ、これは僕がやったほうが良さそうだね。」


 上空で見守っていた心月さんが着陸し、青いゼリー状の物質、化け物の体に手を置いた。


 「もう大丈夫だから、よく頑張ったね。それじゃあ、おやすみなさい。」


 化け物の体が紫色の光に包まれる。


 「ア...リ...ガ...ト...」


 化け物の柔らかい声が6人の人間に向けて送られる。やがて化け物はピクリとも動かなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る