第16話 茨を避けるか、茨に抗うか

 どもども皆さん、お久しぶりですね。それ以外は初めましてかな?横山 心(よこやま こころ)です。今回は私の番なんでどうぞよろしく。

 えーと前回は金稼ぎのためにダンジョンに行って、帰りにスタンピードに巻き込まれた後風花ちゃんがぶっ倒れたって感じだったかな?

 では、いつもの学校のシーンから始めよう。


 ドタバタなダンジョン攻略の翌日、焔たちはいたって変わらず学校へと向かう。靴は異常なし、教室の自分の机には「雑魚乙w」の文字あり、椅子には特に何も細工なし、いつも通りの日常ですね。

 授業中も昼休みも特に何もされず、昨日に引き続き今日も平和デイなのかな?と思っとったんですがね、はい。放課後事件が起きました。

 風花ちゃんとアイレちゃんが担任の先生に


 「体育館に今日回収した振り返りシート置いてきちゃってさ、ちょっとしばらく手が離せないから取ってきてくんないかな?」


 という「お前が取ってこいや!」と言いたくなる頼みを引き受けて、放課後帰る準備をしてから体育館に向かいました。そして目的のプリントもすぐに回収してさあ帰ろうとしたとき


 「助けて...!」


 女の子の声が脳内に響き、次の瞬間、視界の情報が上書きされる。そこに映ったのは下半身を露出した状態でこちらに手を伸ばしてくる男子生徒といやらしくこちらを見る男子生徒2人、そしてスマホを構え、こちらにカメラレンズを向けてくる女子生徒1人とその隣でニヤニヤしながらこちらを見る女子生徒1人だった。後ろに跳び箱が見えることから場所は体育館倉庫だろうか。

 視界が元に戻ると、2人は顔を見合わせ頷き体育館倉庫に走った。倉庫の扉は閉じている。急いで開けようとするも


 「...開かない!」


 どうやら中から内鍵がかけられているようだ。だが2人とも鍵は持ってないし扉は対能力者用に頑丈に作られているため、最終手段の扉を破壊して中に入るも難し


 ードオォォォン!!!


 えー、風花の木の根によって扉が簡単に吹っ飛びました。\(^o^)/躊躇なさすぎだろ某天狗仮面の師匠でも判断が早いと言うレベルだったぞ。

 そんなイカれた行動に倉庫の中にいた人たちは...


 「「「「「「...(ポカーン)」」」」」」


 あ、全員ポカーンとしてますね。

 あ、今の状況なんですが、なんとですねぇ!下半身を露出した男子生徒が裸の女子生徒の腕と胸に手を置き、今にも無理矢理ナニかを始めようとしているではあーりませんか!

 まあそんな状況を見て黙ってられるわけもなく、風花ちゃんが言葉に怒りを宿して話し始めます。


 「...その子を解放してください。今すぐ。」

 「...はぁ?木野ちゃあん?F級のカスのくせに私たちに指図するってのぉ?」

 「それにコイツは自分から俺たちとヤリたいって言い出したんだわ。なぁ?だろ?」


 裸の女子生徒はビクビク震えながら小さく頷く。これ圧掛けてんなぁ。


 「...今すぐその子を解放して。でなければ」


 風花とアイレの後ろに柔らかい風が吹き始める。


 「強行手段もやむを得ない。」


 真剣な目で男女グループを睨む。これは本気で怒ってますね。


 「...プッ、アハハハハ!!何言ってんの?あんたらみたいなF級のカスどもが私たちに敵うと思ってんの?F級は脳ミソもクソ雑魚なのねw」


 うっわぁ...(ドン引き)だが、そんな煽りには乗らずアイレが口を開く。


 「...うん、事実だよ?だから早くその子を渡して」

 「話聞いてた?あんたらの言うことに従うわけないでしょwそれにもっとお願いする態度があるんじゃないの?w」


 一瞬顔を見合わせると、二人とも一緒に頭を下げた。

 「「鎌田 逢里紗(かまた ありさ)様、その子をこちらへと渡していただけないでしょうか、こんな虫けら以下の存在からのお願いですがどうかお願い致します。」」


 その言葉を聞き逢里紗はニヤリと笑い、口を開く。


 「いいじゃない。自分をちゃんと虫ケラ以下だって自覚できてるわねwじゃあ、その態度に免じてこいつは渡してあげる。」


 話の途中で逢里紗は再度ニヤリと笑う。


 「でもぉ、人が気に入ってた物を奪うんだからぁ、それなりの対価は必要よね。てことで来週の月曜日までに1000万、私によこしなさいw」

 「「は?」」


 そりゃ"は?"ってなるわ。


 「は?じゃ無いわよ。気に入ってる物をあげるって言ってんだからそれくらい当然よねぇw」


 さらに周りにいた男子生徒や女子生徒がニヤニヤしながら口を開いた。


 「逢里紗ちゃーん、俺、せっかくのお楽しみ取られたから今ショックなんだけど、慰謝料として俺も1000万貰いたいなーw」

 「俺もーw」

 「じゃあ俺もーw」

 「じゃあ私も今から撮るはずだった映像さ、金になりそうだったのにそこのカスたちに邪魔されてショックだから私も1000万欲しいなぁw」

 「ってことだから来週の月曜までに5000万、ちゃんと持ってきてねーwあ、払えなかったらあんたら一生私らの奴隷だからw」

 「...分かりました。ですのでその子を渡してください。」

 「あははっw出来ることと出来ないことの区別も出来ないんだぁwまあ良いわ、ほら、さっさとそこのゴミを持ってどっか行ってよ、同じ空気をずっと吸ってると思うとほんとに気分悪いから。」

 「...はあ、わかった...ほら、一緒に行こう。」

 「は、はい...」

 「じゃーねークソ雑魚ちゃんたちw払えなくてどっかに逃げないでよーwま、逃げられないんだけどねw」


 そうして3人は体育館倉庫から去る。というかさ、さっきいじめられてた子今全裸だけどどうすんの?


 「今から服を作ります。【創造】」


 風花が能力を発動すると、手元に下着、シャツ、スカート、ブレザーが出現し、それをいじめられてた子に渡す。


 「あ、ありがとうございます。」


 手早く着替えると、3人は外に出る。すると


 「お、奇遇だね。しかも状況もだとは、大丈夫だった?」

 「あ、怜ちゃん。そっちの子はまさか...」

 「うん、さっき男どもに囲まれて体要求されてたから能力使って無理矢理連れてきた。いやー助かったよ、この子の服どうしようかなって思って。一応私の普段着貸してるんだけどやっぱサイズ大きくてさ。」

 「怜ちゃん背高いもんね。」

 「え今デブって言った?」

 「...誰も言ってない。耳腐ってる?」

 「なら良いや、...ただちょっと面倒なことになってね。」

 「「まさか...」」

 「この子を連れてくにあたって来週の月曜までに5000万円持ってこいって言われて...しかも持って来れなかったらこの市に居られなくするって言われてさ。」

 「「えぇ...」」


 合計1億円がこのグループに課せられましたました。一応こいつら中学生だよ?アニメの熱血系の主人公でも諦めるレベルだよ?


 「まあ昨日のやつである程度は賄えるけど、またダンジョン行かないとなぁ。」

 「あ、そういえば昨日どれくらい敵を倒したのかとかどれくらい稼げたのかとか聞いてないんですよね。」

 「...私も。風花の付き添いしてたから。」

 「あーそういや2人は分かんないんだっけか。えーとね、倒したのが集計した範囲で分かったのが2108体」

 「は?」

 「は?」

 「は?」

 「は?」

 「んで、その日稼いだのが雑魚敵だけで2100万円、中ボスとボスで80万円」

 「「「「は?」」」」

 「最後にあのドラゴン、ただでさえ強力なモンスターなのにスタンピードの影響で異常に強化されてて、値段がだいぶ跳ね上がって6800万円だったよ。」

 「「「「は?」」」」


 は?


 「ナレーターまで驚いちゃったか」


 そりゃそうだよあんたら2108体も倒したのかよ!しかもドラゴンの金額エグいし!


 「まああのレベルのドラゴンだったし妥当でしょ?あと、スタンピードの影響を受けたのはあのドラゴンだけじゃなくて、雑魚敵にも影響を受けた個体がいるっぽかったから雑魚敵だけでも結構金額いったんだよね。」

 「な、なるほど....」

 「まあそんなことは置いといて、さっさと時の山に行こう。そこの2人も連れて。」

 「ですね」

 「...だね」


 というわけで何を言っているのか分からない2人を連れて一行は時の山へ向かう。もちろん私服貸してた子の服を生成してからね。

 山の中を歩き、やがて1つの小さな小屋にたどり着いた。


 「やあ風花、アイレちゃんも怜ちゃんもいらっしゃい、んでもそこの2人は見覚えないな。誰だい?」


 小屋から深緑色の髪色でメガネをかけ、農業用の灰色のツナギを着た若い男が出てきた。


 「先生、どうも。この2人は学校で男に言い寄られて体を要求されてたので助け出して連れてきました。」

 「なるほどねぇ、ま、小屋は自由に使ってよ。俺はこれから追肥の作業があるから。」

 「ありがとうございます。」

 そう言って深緑色の髪の男が去っていったので、一行は小屋に入る。

 「えっと...あの人は?...」

 「【草葉 悟】(くさば さとる)先生、私に能力の使い方を教えてくれた先生です。まあとにかく中で少し話しましょう。」


 そうして居間に座り、話を始める。あ、飲み物は緑茶です。


 「さて、とりあえず自己紹介から始めるか。私は上月怜、能力は【電気操作】と【ロボットダイブ】。F級能力者だよ。」

 「私は木野風花です。能力は【自然操作】と【創造】です。怜ちゃんと同じくF級能力者ですね。」

 「...秋風愛奈、みんなからはアイレって呼ばれてる。能力は【風操作】と【なりきらせ】。2人と同じくF級能力者。」


 3人の自己紹介が終わると、まず三つ編みのおさげにメガネをかけた子が話し始める。風花ちゃんとアイレちゃんが助けた子だね


 「わ、私は大友 恵(おおとも めぐみ)です。能力は【共有】、F級能力者です。」


 次にその隣にいるロングのストレートヘアで、私と同じく片目が髪で隠れてる子が話し始める。


 「わたくしは知花 結衣(ちか ゆい)です。能力は【知識】、みなさんと同じくF級能力者です。」


 っと、何だこの紙?あ、これ能力の説明か。じゃあ読みまーす。


 能力【共有】F級能力

 自分の五感などを共有できる。

 能力【知識】F級能力

 自分が学んだこと、経験したことを知識として常人より効率よく覚える。また、知識として覚えたものは簡単に思い出せる。一言でいえば「物覚えが良い」といったところ


 んー...なんていうかこう...うん。


 「...ナレーターが何か戸惑ってる。」

 「まあF級能力の初期性能なんてこんなもんだからね。さて、本題に入ろう。」


 怜が恵と結衣に改めて目を向ける。


 「まあ何でああなってたのかは聞かない。どうせあの連中に脅されてたってとこだろうし。ただそうだな...いつからあいつらにちょっかいかけられてた?」

 「わ、私は一昨日くらいからですかね。」

 「わたくしは昨日からでした。」

 「ふむ...これ、昨日とか何もなかったのってさ」

 「えぇ、彼女たちのヘイトが2人に向いたからでしょうね。」

 「まあ、だろうね。...さて、じゃあ2人に聞こう。これからどうしたい?」

 「ど、どうしたい?とは?」

 「もう少し詳しく説明をお願い致します。」


 2人が戸惑った表情を見せる。


 「あぁ、ごめんごめん。ここの山は特別で、山の中の時間の流れが外の時間の流れと比べてゆっくりと進んでいるんだ。具体的には外の時間での1時間が山の中では1年間分の時間になってる。」

 「い、1年間...」

 「しかも一部以外は山の中に入る前の状態に戻るから10年居ようが20年居ようが山から出たら元通りさ、でも何故だか身体の成長が戻ることは無い。そして仮想戦闘施設もあって実戦も簡単に積める。ここはそんな環境だ。」

 「すごいですね...」

 「さて、ここで改めて聞こう、君たちはどうしたい?何も変わらず前のように過ごすか、それともここで己の力を磨くか。」

 「え、えぇと...」

 「うーん...」

 「当たり前の話だが、君たちに何かあったときに私たちが居合わせたら助けるけど、必ずしも君たちが何かあったときに私たちが居る訳ではない。君たちのボディーガードでも騎士でもないんだ、私たちは。もちろん、ここで修行する選択だって楽なものじゃない。私たちだって色々きつかったこともあったけどそれでも何とか耐えてここまで強くなれた。」


 怜は真剣な顔で改めて2人に問いかける。


 「もちろん、どっちを選んだって私たちは否定しない。そんな権利はないからね。ただ、だからこそ、君たちが選択してくれ。


 力を求めて茨に抗うか、それとも力を捨てて茨を避けるか。」


 2人は少しだけ顔に悩みが出たが、すぐにキリっと、決意した目を怜たちに向けた。


 「私は...やります。ここで強くなってやります!頑張れば皆さんみたいに強くなれるんですよね?」

 「まあ確証はないししないけどねー」


 怜以外がズッコケそうになった。なんやねんまじで。でも、怜はニヤリと笑って


 「力は実るのは間違いないさ。でも、私たちを追い抜かすのは難しいぞー(^ω^)」

 「そ、それでもやってやりますよ!」

 「ほむほむ、楽しみに待ってるぞよ。...んで結衣、君はどうしたい?」

 「わたくしもやります。自分の身くらいは自分で守ってこそですし、なによりこんなすごい場所で修行できるのは千載一遇のチャンスだと思いましたので、ここで強くなります!」


 2人の目には覚悟と決意が現れていた。と、ここで作業が終わった悟が帰って来た。


 「お話は終わったかい?まあ、最後らへんはちょっと聞いてたんだけどね。」

 「盗み聞きですか?」

 「嫌だなぁ人聞きの悪いこと言って、まあそれはさておき、僕から提案がある。」

 「提案?」

 「うん、この2人の稽古は君たちにつけて欲しいんだ。」

 「私たちが、ですか?」

 「...でも1億円までまだ足りないしそれも何とかしないと。」

 「ん?1億円?何のことだい?」

 「実はかくかくしかじかでして...」

 「...なるほどねぇ2人の身代金ってとこか。」


 「何で伝わるの?」


 これが師弟の成せる技か...


 「いやいや、怜ちゃんとアイレちゃんも分かってたでしょ?」

 「うん、当然」

 「...当たり前」

 「えっ?えっ?」

 「そうだな、それについては僕たちで何とかしよう。君たちは2人のトレーニングに集中してくれ。」

 「えっ、悪いですよそんな」

 「いいのいいの、あとちょっとって言ったってまだ数千万は残ってるでしょ?それに誰かに教えるってのも大事なことなんだよ。だから、こっからは大人たちの仕事だ。」

 「...分かりました。ありがとうございます。」


 風花がぺこりと一礼すると、悟はニッコリ笑って


 「なに、教え子たちが困ってるんだ、こんなことは皆やるさ。...さてと、じゃあ僕はあいつらに協力を仰ぎに行きますかね。」


 と言ってぐーっと背伸びすると外へ行ってしまう。怜たちが2人に向き直り、いたずらっぽくも、優しい笑顔を見せる。


 「さて、それじゃあ準備しようか。泊まり込みになるからね。親御さんにもいわなきゃだね。」


 そう言って全員立ち上がり、外へ出ようとすると、おっと、と何かを思い出すと、怜たちは顔を見合わせて頷き、2人の方を見た。


 「「「2人とも、これからよろしくね!」」」

 「「はい!」」


 2人は笑顔で頷く。

 心温まるほわほわした空気が小屋に満ちた。

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