第15話 スタンピード

 前回のあらすじ

 RTAかと思うほどのえげつないスピードで150階層まで攻略した焔たち、いくつかの道中のモンスターを瞬殺し、ボスの場所まで辿り着く。

 幻を見せ、姿を消すボス、【ツインウルフ】に最初こそしてやられるも、すぐに対策を思いつき優勢の状態となる。すると突然風花がツインウルフに対し「私たちの仲間になりませんか?」と提案する。その結果、2匹とも提案に乗り【テイム】によって狼2匹が仲間に加わったとこで始メルヨー



【ツインウルフ】をテイムし、今日の目標を達成した焔たち一行は現在、狼2匹の名前を決めている。


 「んー、赤のほうは【フレア】、青のほうは【ファントム】なんてどう?」

 「赤のほうは良いけど青のほうはなんか変じゃね?」

 「【赤(せき)】と【紺】はどうだ?」

 「...赤(せき)もなんか違和感がある...」

 「【レッドキング】と【ブルークイーン】は?」

 「「「「「「「「絶対にダメ」」」」」」」」

 「さすがに冗談で言ったから。」

 「まあ、最終的な決定権はお姉ちゃんにあるからね。」

 「というか風花はなんかアイディアないのか?」

 「私ですかー...うーん...」


 少し考え込み、やがて口を開く。


 「赤のほうは【ラキュレス】、青のほうは【ミラ】でどうですかね?」


 おおー。と、全員が感心したように言った。


 「良いんじゃないか?」

 「だね」

 「うむうむ、私もいいと思うぞよ。」

 「...さすが風花。」

 「きっと2匹とも気に入ってくれるっすよ。」

 「私もさんせー!」

 「オレっちも!」

 「我も賛成だな。中々良いセンスだ。」

 「あはは...みんなありがとう。まあ2人が嫌なら全然変えるけど...どうかな?」

 「「ワフッ!」」


 どうやら2匹とも気に入ったようだ。ちなみに俺もこの名前は良いと思う。


 「ありがとう。じゃあこれからよろしくね。ラキュレス、ミラ。」

 「「ワフッ!」」

 「さーて名前も決まったことだしさっさと地上に帰ろうか。」

 「...まあまあお腹減った。」

 「上に着いたら何か食べるか。」

 「牛丼食おう牛丼。」

 「あっ、でも外食はペット可のところじゃないとダメですね。」

 「何かテイクアウトするかどっかで色々買ってみんなで食うかしましょうよ。」

 「良いね!やっぱせっかくならみんなで食べたい!」

 「まあとにかく早く地上行こうぜ!」


 風花がゲートを展開し、地上に戻ろうとするが、ここで焔と龍介が間違えようのない違和感を捉える。


 「ん、どうしたんだ?龍介。」

 「なんだこの魔力は...とても大きく歪んでいる?...だが何故急に?...」

 「お前ら構えろ!大量の敵がこっちに来る!ざっと見ても50はいる!」

 「50!?」


 突然の異常事態だが焔たちは落ち着いて武器を構える。だが


 ーズゴォォォォォ!!!


 一瞬だが全員が、巨大なエネルギーによる大きな揺れを感じ取った。


 「なんだ!?」

 「敵がこっちに到着する!お前ら構えろ!」


 ボス部屋の奥の階段から焦げ茶色の毛を持つ熊が現れると


 「グオォォォォォ!!!」


 と、雄叫びを上げる。その声に釣られたのか、下の階へ続く階段から、ボス部屋の入り口から、大小様々なモンスターが怒涛の勢いで焔たちへ向けて突撃する。


 「【フレアターボ】」


 自己強化魔法を発動させると前方に手を突き出した。魔力が手に集約していく


 「【死火ノ原】」

 「「「グギャアアアア!?!?」」」


 焔から放たれた巨大な炎がモンスターたちを焼き尽くす。


 「片側はやったからもう片方頼む」

 「了解だ。【ドラゴンブースト】、【フレアターボ】」


 龍介が自己強化魔法を発動し、手を前に突き出した。


 「【火龍の雄叫び】」

 「「「グオオオオ!?!?」」」


 モンスターの下から無数の炎の柱が現れ敵がどんどん灰に変わっていった。


 「さて、これからどうするつもりだ?」

 「海斗、怜、風花、スカル、龍介は下へ行ってこの大量発生の原因をなんとかしてきてくれ。おそらくこれは【スタンピード】だ。だとしたら下の方に原因の元となってるのがあるはずだ。それを破壊するなりなんなりしてくれ。俺、アイレ、俊、マリンはこの階層より上の階層のモンスターたちの殲滅を行う。お前ら!なんとしてもダンジョンの外にモンスターを出さないように俺たちで止めるぞ!」

 全員「了解!」


 さて、ここからはそれぞれのグループの様子を見ていくか。


 【焔たち】

 まず焔たちだが、俊が上にワープするゲートを生成して上へと向かい、上層の敵の殲滅するらしくいな。ん?なんで俊がワープゲートを作れるのかって?そういえば俊の能力については説明してなかったな。ちょうど良いしマリンの能力も合わせて説明するか。


 ー俊の能力【技盗み】ー

 効果

 自分が見た技や魔法などをコピーできる。また、自分の任意でコピー元の生物の自分がコピーした技の使用を10分間封じることができる。

 ーマリンの能力【術操作】ー

 効果

 名前に「術」がつくもの(魔術、呪術、忍術など)を自由自在に使うことができる


 ...とまあこんな感じなわけだが、すでに戦闘が始まっているようだな。

 入り口に向かってくるモンスターたちがアイレの風の刃によって1匹残らず全て倒されている。どうやら2層に分けて風を常時展開しているようだな。1層目がモンスターに吹く向かい風、2層目が風の刃で、減速したところに斬撃を絶え間なく浴びせているようだ。


 「...ふう、やっぱこれ疲れる。」


 維持するだけでも中々疲れるらしいがこれなら入り口は大丈夫だろう。

 さて、6階層では焔が敵を焼き尽くしたり自由自在に宙を舞う2本の刀で敵を斬り倒している。

 順調に敵を倒していると奥に巨大なシルエットを見つける。


 「グオオオ...」


 焔はこの姿に見覚えがある。その正体は65階層の中ボス、【ビッグオーガ】だ。その体の大きさはハイパーオーガとそこまで大差ない大きさであり、腕も足も丸太のように太いが角は生えておらず、足は遅くて知能は低いモンスターだ。

 65階層の中ボスモンスターまでもやって来たが、やることは変わらない。


 「【閃光花火・穿】」


 焔が少し溜めてから小さめの火球を放つと火球はものすごいスピードで飛んでいき、ビッグオーガの額に直撃し、風穴を開けた。ヘッドショットをくらったビッグオーガはふらりとよろめいた後、力無く後ろに倒れた。

 中ボスを倒すことができたが、まだまだ敵が溢れてくる。まだまだ戦いは終わらないようだ。


 その頃俊も15階層で大量の敵と戦っていた。

 次から次へと大小様々な敵がなだれこんでくるが、焦る様子はなく背中の触手や所持している剣で敵を屍に変えてゆく。調子良く敵を倒していると


 「ギュアアアア!」


 大きな影が頭上を通り過ぎる。その怪物は胴体は人間の女の体だが、大きな羽を持ち、足は鳥の形であった。【ハーピー】が風を纏って俊の周りを飛び回る。

 ハーピーが縦横無尽に飛び回り不規則に風の斬撃を放つが、触手と剣を巧みに扱って斬撃を受け流す。それを繰り返していると、ハーピーに異変が起こる。


 「ギュア...ア...ア?...」


 ハーピーの翼が、足がそして体が凍っていく。

 俊の周囲には白い雪がパラパラと落ちていた。

 ハーピーは苦しそうな様子でフラフラと宙に浮いていたが、やがて力尽きたかのように体が地に落ちた。

 しかし俊にはハーピーの最期を見届けられるほどの余裕はなかった。視界を埋め尽くすほどのモンスターたちの大群が俊に向かって押し寄せる。剣を強く握り直して再度モンスターたちを睨む。


悪夢はまだ、終わらない。




 「あーもう終わんない!」


 30階層で戦っているマリンは敵を殲滅しながら倒しても倒しても湧いて出てくるモンスターを見て嘆いていた。

 かれこれ何十分と戦い続けているためこう言いたくなる気持ちも理解できるが、そんな思いとは裏腹に敵は増え続ける一方だ。


 「本当にいつになったら終わるんだろ...ってうわっ!」


 不安を口にしたマリンに突然巨大な拳が襲いかかる。


 「【アクアランス】」


 水の槍を放ち迎え撃つが、拳は一切怯むことなく攻撃をし続ける。マリンの攻撃によって一部が欠損したとしても


 「...これ、奥に操ってる奴いるよね」


 拳の攻撃に合わせてマリンが動く。拳が地面に当たったタイミングで奥へ駆け抜ける。奥にはモンスターがうじゃうじゃいるが、槍で薙ぎ払い、上手くかわしながら拳を操作している主を探す。すると


 「...」


 黒く赤い目をした人型のロボットを発見した。しかしその周囲に他のモンスターはいない。それもそのはず、ロボットの右半分が巨大な手で埋まっていたからだ。張本人を見つけ、構えると


 「「「グギャアアアアア!?!?」」」

 「「「グオオオォォ!?!?」」」

 「「「キシャァァァ!?!?」」」


 モンスターたちを吹っ飛ばしながら巨大な拳が猛烈なスピードで突っ込んでくる。もちろんマリンはそれを軽々横にかわすとそのまま壁を蹴ってロボットへ攻撃を仕掛けるが、もう一つの手によって防がれてしまう。そこにもう一つの手が迫るが風魔法を使って体を飛ばし、なんとか難を逃れる。

 攻撃も防御も全く隙がない、まさに要塞と言うべき敵がマリンに立ちはだかる。


 「まっ、そろそろ決めるけどねっっと。」


 マリンが体をぐーっと伸ばし、深呼吸をすると、地を蹴ってロボットへ向かっていく。ここまでは普通の行動だ。そう、ここまでは。

 ロボットへ走るマリンの姿が1、2、3、4とどんどん増えていき、総勢20のマリンがロボットに向かって走り、槍を構える。


 「...!!」


 ロボットは少し驚きつつもしっかりと反応し、巨大な手を開くと、大量のショットを放つ。1体、2体、3体と消えていくが、マリンたちの動きは止まらない。


 「「せーの!」」


 マリンたちは思いっきり跳躍し、風と水を纏った槍を突き出した。もちろんロボットは巨大な手で応戦するが、マリンのうち数体が槍を横に持ち、巨大な手に思いっきり打ちつける。

 巨大な手が止まった一瞬の時間、それだけで勝敗が決まった。残った本体のマリンの槍がロボットの腹を貫いた。さらにそれだけでなく、足に風を纏わせ、ロボットを蹴り飛ばす。強い衝撃と激しい損傷を受けたロボットは目の光が消え、機能を停止した。また、それと同時に


 ーピピピッ、ピピピッー


 電子音がマリンの耳に響く。


 「ん?これ通信機かな?」


 耳につけているワイヤレスイヤホンを軽く押すと、青いウィンドウが表示され、怜たちの姿が映った。他にも焔たちの姿も映っている。


 「スタンピードの原因は破壊できた。ミッション完了だ。」

 「「「「お疲れー」」」」

 「だけど少しトラブルが起きていてね...風花が倒れてしまった。今龍介と怜が診てくれてる」


 少し時を遡って怜たちに一体何があったのか見てみよう。


 【怜たち】

 怜たちはまず風花の能力で下へと続くワープゲートを作り、最下層まで潜った。どうやらダンジョンの魔力が大きく乱れ、さらにはボスモンスターも暴走しているため、一気に行くことができたようだ。

 最下層に着いた怜たちだが、大量のモンスターたちが怜たちに気づき、怒涛の勢いで押し寄せてくる。


 「うわぁ...こんだけいるときっしょいなあ...どうする?」

 「当然、全て塵にする。」


 龍介が手を前に突き出すと、魔力がどんどん集まっていく。


 「【赫い星】」


 龍介が放った炎によって、見える限りの道は炎に包まれモンスターたちの死体をメラメラと燃やしている。


 「これは進めないよ。焔なら別だろうけど」

 「どーすんだよこれ」

 「仕方ない、燃えている場所の酸素を一時的に消滅させよう。後ろに下がっていてくれ。」


 全員が下がったのを確認し、再度魔力を集中させる。


 「【虚空ノ炎】」


 すると、見る見るうちに炎が弱まっていき、やがて全ての炎が消えた。


 「おーすごい」

 「敵の気配は無いし、今のうちに進もう」

 「そうですね、また大量に湧いて来たら嫌ですし」

 「「ウォン」」

 「じゃあ行こうぜ!」


 一向は駆け足で奥へ向かう。道中にはモンスターの死体が大量にあった。この量が襲いかかって来たのだと思うと少しゾッとするな。だが、しばらく進んで違和感を覚える。死体が全く無いのだ。焦げ跡はあるがモンスターの姿も死体も全くない。

 この事実を吉と思うか嫌な感じがすると思うか、そう思っているともう見慣れたボス部屋の扉の前に到着した。


 「...さてと、行こうか」

 「まあ時間は無いだろうからな。」


 扉を開けるとそこには


 「グルルル...グオオオオ!!!!」


 体表は黒く、一つ一つが大きい鱗に包まれ、大きく鋭い爪と牙は数多の獲物を狩ってきたことを示すように赤い跡が着いている。そして頭に着いた2本の角はとても立派でたくましく、その持ち主の威厳と貫禄を表していた。

 【黒龍・ナイトメア】が紫のオーラを纏い、怜たちを見下ろす。


 「「グルルル...」」

 「ミラ?ラキュレス?」

 「おそらく、お前を守ろうとしているのだ。」

 「まあ、こりゃ危険に感じるよねー。」

 「俺とスカルは久しぶりだね、この感じ。」

 「まあそうか。でもなんかなー...龍介の方が強いだろ、これ」

 「さて、お喋りはここまで。みんな行くよ!」

 「「「「おう!」」」」


 戦闘が始まった。初手、怜たちはそれぞれ自己強化魔法を発動し、風花はミラの力を使って姿を消す。怜、海斗、スカルはドラゴンに向かって走り出す。龍介は飛翔し後方から魔法で援護する。

 一方ドラゴンは前方に炎のブレスを放つ。だが近接組は軽く避け、攻撃を準備する。


 「【獄龍撃・崩拳神速】」

 「【雷切りNo8.稲光】」


 海斗と怜がそれぞれ技を発動し、スカルは能力で弱点を量産してそれぞれ攻撃する。しかし


 「グルル...」


 ドラゴンは全くダメージを受けた様子を見せない。


 「固った!」

 「近接は無理か?」

 「とりあえずは様子を見ようぜ」


 3人がドラゴンから距離を置くと、上空の龍介が動いた。ドラゴンの上に巨大な魔法陣が展開される。


 「【大轟雷】」


 魔法陣から放たれた雷がドラゴンに直撃し、周囲が激しい光に包まれる。

 やがて光が落ち着くと、ドラゴンが軽い攻撃をくらっただけかのようにピンピンしていた。


 「...ふむ、あの鱗、ここらの魔力を過剰に吸収したことでとんでもない固さになっているな。中盤から異様にモンスターがいなかったのもこれが理由か。...だとしてもまさかアレをくらっても余裕だとは...」


 冷静に分析する龍介の声に若干の焦りが見える。すると


 「グオオオ!!!」


 雄叫びをあげたドラゴンが大きく口を開く。そこにバチバチと音を立てる青白い光と紫に燃える火花が集まる。


 「っ!全員備えろ!とんでもない攻撃が来るかもしれん!」


 その声に全員が警戒を強めると、ドラゴンが電気を帯びた紫のブレスを放った。

 その威力は凄まじく、ボス部屋の入り口を破壊しさらにダンジョンの奥へ奥へとブレスのエネルギーが道を破壊しながら進んでいく。


 「まじぃ?...」

 「嘘だろ?...」


 あまりの威力に全員が困惑を隠せない。

 ドラゴンが再度ブレスを放つために口を開けようとしたそのとき


 「グオオ?」


 ボス部屋の地面が美しい草花で埋まっていく


 「皆さん、ここは私にやらせてください。」


 風花が姿を現し、前に伸ばした片腕を下ろす。


 「...策が何かあるのか?」


 「はい、なので少しの間私に任せてもらえますか?」

 「だったら断る理由もないし、時間もあるわけじゃないからお願いしちゃおっかなー」

 「ありがとうございます。じゃあ...」


 風花の後ろからミラとラキュレスが現れる。


 「ミラ、ラキュレス、行くよ」

 「「ウォン!!」」


 ミラとラキュレスが走り出す。それを見たドラゴンの角が紫に輝きだす。バチバチと音が鳴り、その音は次第に大きくなっていく。


 「グオオ!!!」


 ドラゴンから無数の紫の雷が放たれた。バリバリと音を鳴らし、焦げた後を地面に残す。当たったら黒焦げだ。だが軽やかに動くミラとラキュレスには一切当たらない。


 「グルル、ガオオオ!」


 ラキュレスが炎のブレスを放つ。しかしそれはドラゴンの鱗にあっけなく防がれてしまう。地面の花が弱々しく燃えている。だが、それだけでトリガーは十分だった。

 小さな火がメラメラと燃え盛り、やがてドラゴンよりも大きくなった。だが、それだけではない。炎は大きく揺らぎ段々と形を成していく。時には太く、時には薄く、そしてときには大きく、まるで粘土のごとく形を変え、ついに姿を現したのは、龍だ。

 赤い炎で出来上がった龍は、偽物とはいえ、威圧感を出すには十分すぎるものだった。


 「ッ!グオオオオ!グオッ!?」


 たまらず威嚇するドラゴンの下から何かが貫いた。それは木の根だ。いくつかの木の根がドラゴンを下から貫き、顎に刺した木の根は口から出て地面に突き刺さることで顎を下へ縫い止めた


 「グオオァァァ!!!」


 怒りをその身に宿したドラゴンは角を光らせ雷を放つ。今度こそ当たったかと思えば煙のようにその姿はかき消える。ミラの幻影だ。


 「グアッ!?」

 「...ごめんね、一撃で仕留められなくて。楽に死なせられなくて。」

 「ッ!?」


 ドラゴンの背後に音もなく風花が近づいた。ミラの力を利用して姿を消して近づいたのだ。すると、ドラゴンの首に手を添える。


 「おやすみ。」


 巨大な斬撃が発生し、ドラゴンの首と胴を切り離した。ドラゴンの体から力が抜け、大きな音を立てて体全体が地に着く。


 「...つかれた...でも...これで...スタンピード...は」

 ーバダン

 「「「「風花!」」」」


 風花の体から力が抜け、そのままバタリと倒れてしまう。仲間の呼ぶ声を最後に風花は意識を手放した。


 「ん...ここは...家?」


 風花が起きると見覚えのある白い天井、目線を下に落とすと見慣れた家具や小物が風花の目に映る。


 「ええと...私はさっきまでダンジョンでスタンピードに巻き込まれて、ドラゴンを倒して、それから...」


 下の階から何かタタタタと走ってくる音が聞こえてくる。すると2匹の狼が自分のところへ寄ってきた。


 「「ウォン!」」

 「ミラ...ラキュレス...良かった。というかそうだ、お母さんに目が覚めたことを伝えに行かないと...ん?手紙?」


 枕元に一通の手紙が置いてあることに気づく。見てみると


 ー風花へ

 体は大丈夫か?あの後みんなで大量のモンスターの死骸を集めてギルドに渡した結果、まあ大騒ぎだったよ。特にドラゴンとかはオークションに出されるらしく、相当な値打ちが期待できそうだから今回の目的は達成だな。

 今回、ワープゲートを作ったり、ミラとラキュレスを仲間にしたり、ドラゴンを倒したりで大手柄だったけどいくらなんでも無茶しすぎだ。まあ非があるのは何もできなかった俺たちだけどな。みんな今、もっと強くなろうって躍起になってるよ。怜はちょっと怖いけど。

 とにかく今回はお疲れ様だけど今後はちゃんと自分の魔力を考えて運用すること。もし危なそうだったらちゃんと言ってくれ。

 後はそうだな、もういじめに対してやられるフリはもうしなくて良いって決まったから、明日ちゃんと学校行けそうだったらよろしくな。

 今日は本当にお疲れ様。とにかく今は体を休めてくれ。頑張ってくれてありがとな。

                 焔よりー


 「...まあ、今回は焔くんの言う通りにおとなしくしようかな。」


 風花は立ち上がって下に向かう。心の中でやり遂げた達成感と仲間の温かさを感じながら。


 天が紅市のとある建物で

 1人の男がパソコンを見ながら不敵な笑みを浮かべる。


 「クックック...実に良い。実験は成功、モンスターどもが地上へ出ることは出来なかったが素晴らしい才能の持ち主を見つけることができた。」


 男は笑みをより一層強く浮かべる。


 「彼らには我が計画の駒として動いてもらおう。クックック...今からが楽しみだ...」


 怪しい影が人知れず動き出した。

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