第10話 弱者だから。(海斗視点)


 「あれがドラゴンの人間の姿か...。」


 俺たちは人間へと姿を変えたドラゴンと対峙していた。


 「明らかに気迫というかプレッシャーが普通じゃないな。」

 「ああ、それに人間に姿を変えたとゆうことはおそらく能力が使えるようになったはずだから用心しないとすぐやられそうだな。」


 スカルの言う通り魔物は人間の姿になると能力が使えるようになる。だが、相手の能力に関する情報は一切ない。ゆえに手の内を見せているこちら側が不利だ。

 だが対抗策を思いつく前にドラゴンが動いた。

 ドラゴンから炎と稲妻が放たれる。俺たちはバラけて攻撃を回避するが追加で上下左右至る所から光線が放たれ攻撃の密度がとんでもない事になっていた。



 「ぐえっ!」


 焔が光線をくらってしまった。だがすぐに立て直して攻撃する。


 「【閃光花火・散】」


 小さな炎の弾幕がドラゴンへ放たれた。

 だがドラゴンは慌てる事なく手を前に突き出した。


 「【アクアウォール】」


 焔の攻撃が水の壁に消されてしまった。さらにドラゴンは自分の周囲に岩の槍を6つ形成した。


 「穿て。」


 ドラゴンから岩の槍が放たれた。回避しようとするが面倒なことに追尾してくる。無理に振り切ろうとするより破壊した方が早いだろう。


 「【火龍・炎乱】」

 「おとなしく打たせるとでも?」

 「は?うわっと!」


 俺が技を打とうとしたとき、ドラゴンが突風を発生させバランスを崩してきた。すぐに立て直したが岩の槍が迫る。


 「ちっ、【鬼術・暴食口】」


 鬼術を使用して岩の槍を消す。だが間髪入れずに光の槍、炎の矢、風の刃が放たれる。本当にキリがない。鬼化の時間も無限ではないため先にこちらがジリ貧になるのが確定だろう。



 「やっべーまじでこれどうやって攻撃すれば良いか全く分かんないんだが。」

 「オレっちの能力的には遠距離攻撃なら確定で当てられるんだけど多分全部魔法で相殺されるな。」

 「攻撃できたとしてもちゃんとダメージを与えられるかは別だからね。やっぱり直接叩くしかないか?」

 「おそらくそれしか無いな。...そうだ、スカルの能力を使って俺たちの座標を変えて奴の懐に潜り込もう。それで俺と海斗で直接叩くってのはどうだ?」

 「確かに良さそうだけど、スカルってそんな事出来るのか?」

 「ああ、多分大丈夫だぜ。」

 「ならそれで行こう。決着をつけるぞ!」

 「「おう!」」


 やる事は決まった。後は全力でやるだけだ。



 まずは陽動だ。スカルが能力を使っている間は回避も防御も出来ないだろうからまずはドラゴンの意識をこちらに向けなければならない。俺と焔はドラゴンの周りをぐるぐると回りながら軽めに遠距離攻撃を放ち続ける。

 「ちっ、ちょこまかと...何のつもりだ?」

 ドラゴンは冷静なままだが意識は完全にこちらに向いている。今がチャンスだ。

 「焔!海斗!やるぞ!」

 スカルの声が聞こえると俺たちは一瞬にしてドラゴンの目の前に移動した。ドラゴンは予想外の事に驚いている様子だ。だったら叩くなら今しかない!

 「【獄龍撃・滅】」

 「【炎獣舞・龍】」

 辺りが白い光に包まれた。強大な衝撃波が生じ、離れて戦いを見ていた冒険者たちの衣服が揺れる。

 しばらく経ち光が落ち着くと、大の字になって倒れているドラゴン(人間状態)の姿が見えた。


 「...ふう勝負あり、だな。」

 「いやーキツかったなー。」

 「オレっち達もまだまだってことかもな。」


 両者の戦いを讃えるように優しい風が吹き抜けた。



 戦いに敗れたドラゴンは地面に倒れたままどこか清々しい顔で話し始めた。


 「…ははは、想像以上だな。まさかこの私が敗れるとは。」

 「いやー言ってもこっちは3人だったからな。」

 「しかもこっちが負けていてもおかしくないくらいこっちもギリギリだったからね。ドラゴンさん、良い勝負をありがとう。」

 「オレっちからも礼を言うぜ。楽しい勝負をありがとな。次戦うときは圧勝してやるから覚悟しておけよ。」


 スカルが倒れているドラゴンに手を伸ばしたドラゴンは一瞬驚いた様子を見せたが表情を緩ませてスカルの手を取った。


 「…ああ、久方ぶりに楽しい戦いができた。ありがとう、若き者たちよ。」

 「...1つ聞かせてほしい。お前たちは何故力を求めた?」

 「?どういうことだ?」


 俺たちの頭の中にはてなマークが浮かんだ。


 「これほどの力...才能だけで手に入るようなものではあるまい。勝手な想像で悪いがきっとたゆまぬ努力をしてきたのだろう。なぜそこまでして力を求めたのだ。」


 俺は一瞬の思考の末、こう言った。


 「弱者だから。強者に理不尽に大切なものを奪われるようなままじゃなくなる方法があったから、かな。」


 俺とドラゴンの視線が合う。その後ドラゴンは目を伏せ、ふっ、と笑った。


 「ははは、なるほどな。素晴らしい決意だ。...それと1つ頼みがあるのだが良いか?」

 「まあ無理難題でなければ。」

 「ありがとう。それで頼みというのは...」


 ドラゴンは何か決意したかのようにこちらを見る。


 「私を、お前たちの仲間に入れてくれないだろうか。」


 一瞬驚いたがすぐに焔とスカルにアイコンタクトを取る。二人とも頷いた。俺はドラゴンに顔を向ける。


 「ああ、これからよろしくな。えーと名前は...」

 「龍介だ。蒼崎 龍介(あおざき りゅうすけ)。そういえばお前たちの名前も聞いてないな。何というのだ?」

 「ああ確かに。俺は天鳥 海斗(あまとり かいと)だ。」

 「霊松 焔(たままつ ほむら)だ。」

 「スカルだぜ。」

 「なるほどな。じゃあ改めてこれからよろしくな。焔、海斗、スカル。」

 「こっちこそよろしくな。龍介。」


 俺たちと龍介は固く握手した。

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