第8話 黒き龍(海斗視点)


 やぁみんな、天鳥海斗です


 修行から3日経った今日、俺達は変わらずに学校に登校している。

 下駄箱の扉を開けると異臭が放たれる。焔と怜の上履きも同じようだ。上履きの中を見てみると生ゴミが靴いっぱいに詰められていた。何故ここまでして嫌がらせがしたいのだろうか。

 俺達は教室に行く前に事務室に寄って事務員の国頭 征司(くにがみ せいじ)さんに事情を説明し、生ゴミを捨てさせてもらった。

 事情や計画の事を話すと征司さんは


 「事情は分かった。まあなんか困った事があったらいつでも頼ってこいよ。」


 と言ってくれた。


 俺たちは事務室を後にして教室に向かって歩いた。上履きに関しては正直に言って履きたくないのだが、画鋲などを踏まされる可能性もあるので仕方なく履いている。

 教室に入ると目の前から液体を大量にかけられた。どうやらいじめっ子グループが水入りバケツを持って教室のドア前に待機していたようだ。


 「ヒャハハハハwwwケッサクだなぁwあ、この水はお前らが片付けろよ。拒否権なんてねーからw」

 「ホラ汚ねーからさっさと片付けろよw」

 「うわーwビチョビチョで気持ちわるーw」


 水をかけてきたいじめっ子たちが嘲笑う様に言う。

 今すぐ殴りたいが、計画を台無しにする訳にはいかないため何とか自分を抑えた。



 ー放課後ー

 俺と焔は屋上に来てそれぞれ2万円ずついじめっ子に手渡した。


 「おーおーわざわざ持ってきてくれてありがとよっと!」


 いじめっ子は金を受け取ると、俺達を蹴飛ばしてきた。そのまま周りの奴らも俺達を殴り、蹴飛ばし始めた。

 

 ー割愛ー


 しばらく経ち、いじめっ子達は満足した様に屋上から去っていく。しかし、とんでもないことを言ってきた。


 「じゃあな、カス2人組wあ、今日朝にサプライズしてやったんだから5万円、人数分それぞれ用意しろよw出来ませんは無しだからな。もしそうしたらお前ら、この学校に居られなくしてやるからな。じゃ〜よろしく〜www」


 いじめっ子達はそう言って屋上から立ち去っていった。


 「「...」」


 怒りを抑えきれなくなる前に学校を後にする。

 やられっぱなしだが、昨日怜からもらったアレがあるからどれだけ殴られようが、金を取られようが結局は奴らが地獄を見るだけだ。



 俺達は学校から帰った後、スカルを連れて時の山で鍛錬していた。


 「うーん、やっぱりあんま勝てないなー。」

 「まあさすがにアニメや漫画のキャラクター相手は厳しい所があるよな。」


 現在はファントムベースで対人戦の練習をしている。ファントムベースは戦闘しているシーンを一瞬でも見るとそれを元に敵ユニットを作る事が出来る。また、オリジナルで敵ユニットを作成する事が出来るため、訓練がかなりやりやすい。


 「まあでも、さっきの動きはなかなか良かったと思うぞ。ってか、海斗の2つ目の能力って何なんだ?」

 「俺の2つ目の能力は『鬼化』って言う能力で、文字通り鬼になることができる能力だね。鬼になることで身体能力と再生能力が上がる効果があるんだよ。」

 「なるほどな、バフみたいなもんか。」

 「まあバフとは違うけれどね。あ、あと鬼化によって『鬼術』って言う特殊な力が使えるんだ。」

 「鬼術?どんなのなんだ?」

 「まあ妖術とそこまで変わんないよ。火を放ったり血を使って傷を癒したりできるんだ。」

 「へぇ、結構便利そうだな。」


 会話をしている最中、人の影が足元に写る。上空を見ると怜が飛んで来たのが分かった。


 「よ、3人ともちょっと良いかい?どうやら山の外で面白そうな事が起きたみたいだ。」


 怜は着地しつつ話をする。


 「面白そうな事?どんな事だ?」

 「どうやらとある村でドラゴンが目撃されたらしい。せっかくだから3人でちょっとその村まで行って来て欲しい。」

 「まあ、ひと段落ついたところだから良いけど怜は来ないの?」


 尋ねると、怜は頭をかきながら残念そうな様子を見せる。


 「あー、私も興味はあるんだけどやりたい事があるから今回はパスで。それで3人とも行ってくれるって事で良いのかな?」

 「もちろん。」

 「大丈夫だよ。」

 「当たり前だぜ。」

 「おっけーじゃあ万が一いじめっ子達に会ったら面倒だからコレつけて。」


 そう言うと怜は狐のお面をそれぞれに渡してきた。


 「あ、息苦しくなったり視界が悪くなったりしないように加工してあるから心配しないでね。」

 「了解。んじゃ早速行くか。」

 「異議なーし!」

 「腕が鳴るねぇ。」

 「それじゃあ頼むよ。あ、それと場所は『天城(あまぎ)村』だからよろしくね。」

 「分かった。んじゃ、行ってきまーす。」


 俺達は離陸し、気持ち良い風を感じながら天城村まで飛翔し始めた。


 ー天城村ー


 緑に包まれたのどかな村で、住宅街の様な住宅が密集している場所や、丈の低い草たちが生い茂る広い平原などが見える。

 そしてその平原で一匹の黒いドラゴンと大勢の武装した人間達が対峙していた。


 「なるほど、あれが例のドラゴンか。」


 ドラゴンは、岩をも穿てるのではないかと思ってしまうほど鋭く尖った爪や牙、角を携えており、全身の黒い鱗は夕日に照らされ妖しく光っていた。

 対峙している人間達はおそらく『冒険者』と呼ばれる人達だろう。前にも言ったと思うが、この世界には『ダンジョン』と呼ばれる場所があり、そこを探索する人達のことを冒険者と呼ぶ。また、今回の様にダンジョンの外に現れた魔物の対処も担っている。

 変に目立つのも避けたいので、しばらく上空から戦いを見ていようと思う。


 「A班、突撃開始!C班、攻撃準備!」

 「「「「「了解!!」」」」」


 最前列で武器を構えていた冒険者達が一斉にドラゴンに向かって突撃し、攻撃を仕掛けた。


 「こい、我がしもべよ。」


 ドラゴンがそう言うとドラゴンの足元から5匹ほど魔物らしき生物が現れた。

 その生物達は闇の如く黒い体で、ただ一つ、目だけが光を宿していたが、瞳孔などはなく白一色に染まっていた。形的には鳥、サメ、チーター、熊、蟻といった感じである。そしてどれも人間の大きさを優に超える大きさだ。

 とゆうか俺の能力使って上手い事やれば消えんじゃね?と思ったが、冒険者の人達の戦いの様子を見たいのでやめておこうと思う。


 「D班、E班は周りの魔物を倒せ、A班は変わらずドラゴンを叩くぞ!」


 指揮官らしき男の指示で後方に待機していた冒険者達が一斉に動く。冒険者の中には少し素行が悪い人もいると聞いた事があったが、ちゃんと統率が取れていることに少し驚いた。


 「おら死ねェ!」

 「くらいやがれ!」


 威勢の良い掛け声と共に冒険者達が一斉に攻撃する。だが、ドラゴンに攻撃が届く直前に全ての攻撃が弾かれた。


 「なんだぁ!?全く効かねーぞ!?」

 「バリアを張ってる!これじゃ効かない!」

 「早く壊さないといつまで経っても攻撃が効きませんよー!」


 冒険者達がざわつく中、指揮官らしき男が拳を握りしめて構えながら叫ぶ


 「落ち着け、バリアといっても割ってしまえば意味はない。私が『メテオフィスト』でバリアを破壊する。バリアが壊れた瞬間にA班と遠距離攻撃を準備していたC班で一気にダメージを与えるぞ!」

 「「「「「了解!!」」」」」


 指示を受けた冒険者達はドラゴンから距離を取り、各々攻撃の準備を始めた。

 冒険者達が全員離れたとき、指揮官らしき男が地を蹴りドラゴンに突っ込んでいく。男の拳が赤く光った。


 「メテオフィスト!」


 男の拳がバリアに衝突し、衝撃波が周りの人間達にその拳の威力を伝える。指揮官らしき男とドラゴンの周囲に土埃が舞い、2人を包む。

 数秒経ち土埃が晴れた後、周りの人間達が目にしたのは


 ドラゴンの前で膝をついている指揮官らしき男の姿だった。


 「「「「「.....!!」」」」」


 冒険者達は全員何一つ言葉を発さずにただ目の前の事実に驚愕していた。


 「今のは少し危なかったな。」


 ドラゴンはため息をついてそう言った。


 「それで、次は誰が来る?指揮官はやられ、我が僕と戦っていた人間どもは大半が倒されている。そんな中戦いを挑んでくる馬鹿か強者はいないのか?」


 冒険者達が全員息を呑んだ。



 「スカル、行こう。焔は念のためあの指揮官っぽい人を安全な所へ運んでくれ。」

 「了解だ」

 「よっしゃ!いっちょやってやるぜ!」


 俺とスカルはドラゴンの前に降り立った。


 「何者だ。用が無いのなら今すぐ立ち去れ。」


 かなりの威圧を感じるが、お構いなしにドラゴンに向かって話し始める。


 「いや、少しドラゴンさんに聞きたいことがありましてね。」

 「聞きたい事だと?」

 「はい。まずドラゴンさんにこれ以上交戦の意思はありますか?」


 ドラゴンはため息をついた後俺の問いに答えた。


 「いや、そちら側が攻撃しないのなら私に戦う理由は無い。元々、先ほど戦っていたのは向こうが私を殺そうとしてきたからだしな。」

 「なるほど、ではもう一つ、ドラゴンさんは何故この地に来たのですか?」


 少しの沈黙の後、ドラゴンは口を開いた。


 「元々私は人間に姿を変え、この地に住み着いていた。天城村の人間達は近くに住み着いた私を快く受け入れ、ドラゴンであることを明かしても私を拒絶する事なく今まで通りに接してくれた」

 「別にドラゴンであることは黙ったままで良かったんじゃ無いのか?」

 「いや、人間に姿を変えた魔物は10年に1度月光浴をしなければ人間の姿を保てないのでな。この姿のことをちゃんと言っておかないと村民を驚かせてしまうからな。とゆうか白髪の小僧、お前は人間に姿を変えているのだから知っているのではないのか。」

 「「「...!?」」」

 「何故わかった?とでも聞きたげだな。これくらいは魔力を見れば分かる。白髪の小僧だけ明らかに魔力の感じが違うからな。」


 これは想像以上に強者の予感がする。まあただ交戦の意思はないといっていたしおそらくは大丈夫だろう。一抹の不安があるとするならここが小説の世界だから展開的に戦うことになりそうなことぐらいだが。


 「話を戻すが先日が月光浴を行わなければならないタイミングであったため姿をかえ、月光浴を行っていたのだが、天城村の村民以外の人間に姿を見られ、この武装した人間どもと戦うことになってしまったのだ。」

 「なるほど、分かりました。では我々は退散します。あっでもあの冒険者の人達にはとりあえず戦わなくても良いことだけ伝えておきますね。」


 冒険者の人達に戦わなくても良いことを伝えようとしたとき、ドラゴンが口を開いた。


 「待て、お前ら。」


 威圧するような声が俺たちの鼓膜を揺らす。俺達はドラゴンに向き合った。


 「...どうかされましたか?」

 「お前らは何故この地に来た?何故こんなことを聞いてきた?答えろ。」

 「そうですね...友人にドラゴンさんがこの地にいる事を聞き、珍しいから自分の代わりに見てきてと頼まれたからここに来ました。質問をしたのはただ単純にこれ以上冒険者さん達を攻撃しようとしているかを聞きたかったからです。」

 「仮にあの人間どもを攻撃しようとしてると言ったらお前らはどうした?」

 「まあ、そのときはドラゴンさんと戦うつもりでしたね。」

 「お前らは先ほどのあの人間どもと私が戦っているところは見たか?」

 「ええ、見させていただきましたよ。」

 「先ほどの戦いを見た後でも私に戦いを挑もうとしていたのか?」

 「ええまあ、冒険者さん達を攻撃しようとしていたのなら。」

 「そうか...なら、私と一戦交えよう。お前らの実力がどのようなものか気になった。」


 どこかドラゴンの表情に喜びが含まれてるように感じる。


 「ちなみに嫌だと言ったら?」

 「結界を張ってお前らを逃げられなくするだけだが?」

 「オーマイガー。」

 「ワーオ強制バトルだぁ。」

 「これTo be continueってヤツ?」



 そんな事を言いつつ、いつのまにか戻ってきた焔と共に戦闘体制をとった。

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