第八話 「ご主人様」と「ポチ」

「血の契約を破ったら死ぬって言ったはずなのに、どうして破ろうとするの?

 死にたいの?そんなに死にたいの?」

「いや、普通に考えて破ったら死ぬ契約なんて嘘っぱちだと思うだろ?」


俺は昨日の神社で志乃崎から説教を食らっていた。しかも正座しながら。

ここに来てすぐ「そこに正座しなさい」って言い出すから反射的に断ったら、

首を締められそうになったので大人しく座った。

だって、本気で殺してきそうなんだもん・・・


「それはの普通でしょ?

 とにかく、契約は絶対に守ること。破って苦しむのはあなただけじゃないのよ。」

「ん?破った側にだけ罰があるんじゃないのか?」

「そんなわけ無いでしょ。血の契約は互いの血液を交換してる以上、

 片方が死んでしまったらもう片方も死ぬことは無いけど、

 死んだほうがマシってくらいの苦しみを受けるのよ。」

「じゃあ尚更そんな契約破棄しろよ!互いにデメリットしかねぇじゃん!」

「吸血鬼であることが人間にバレたら、

 血の契約を結ばなければならないっていう決まりがあるのよ。

 結ばなくてもいいんだったらあなたみたいな人と契約なんてしないわよ。」


さらっと酷いこと言いやがるなこいつ・・・


「と・に・か・く。わかったかしら?」

「・・・まぁ、まだ全部は信じきれないが・・・わかったよ。」

「それはそれとして今日契約を破りそうになった罰を与えなきゃ行けないわね。」


おや?今、何やら不穏な言葉が・・・


「さて、どんな罰を与えようかしら。鞭打ち?それとも全身を縛るのがいいかしら。

 単純に罵倒し続けるのもいいわね。」


罰のラインナップがドSすぎる件について。

そんなことされたら俺、ナニかに目覚めちゃいそう。


「・・・決めた。これからあなたの名前は『ポチ』よ。」

「・・・は?」

「それが今回の罰。

 これからあなたは私のペット『犬のポチ』として生きていくの。」

「・・・俺には藍川秦都っていう名前があるんだが?」

「それは人間としての名前でしょ?

 あなたは『犬』よ。だから犬らしくご主人様の命令は聞きなさい。」

「何が『ご主人様の命令は聞きなさい』だよ!ふざけんな!人権の侵害だ!」

「何おかしなこと言ってるの?犬なんだから『人権』じゃないでしょ?」

「鬼畜!ドS!人でなし!」

「私はそもそも人間じゃないわよ。」

「いちいちツッコまなくていい!」

「はぁ・・・躾のなってない犬ね・・・」


駄目だこいつ。もうすでに俺を人間として扱ってない・・・


「まあいいわ。早速命令よ。ポチ、そこに立って腕を出しなさい。」

「だから俺はポチじゃ・・・」

「出しなさい。」

「俺はポ・・・」

「出しなさい。」

「・・・」

「出・し・な・さ・い。」

「・・・はい。」

「お利口さんね。ご褒美におやつでもいる?」

「だから俺はポチでもなければ犬でもねえよ!」

「あら、そうなの?

 世の中の男性の中にはこういう風に扱われると喜ぶって聞いたことがあるけど。」

「・・・俺にそんな癖は無い。」


無い・・・・・・はずだよな?

俺は志乃崎に噛まれた方の腕を差し出した。


「そのままジッとしてなさい。・・・あむ。」


志乃崎は昨日噛まれたところと同じ場所を再び噛んできた。

まあ、腕を出した時点で何されるのかはなんとなく察していたが・・・


「んむ・・・ん・・・ん・・・」

「・・・」

「んん・・・ちゅう・・・ん・・・」

「・・・」


相変わらずエッな光景だ。

全く、破廉恥なやつめ・・・ありがとうございます。

でも、前回と違ってなんか吸い出されてるような感じがするな・・・

『吸血』ってやつか?


「・・・ぷは。・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・大丈夫か?」

「ふう・・・ふう・・・ポチの癖に・・・はぁ・・・生意気よ・・・ふう・・・」

(やっぱり美味しい・・・今まで輸血パックで我慢してきたのが馬鹿みたい・・・

 クセになっちゃう・・・)

「・・・」


テレパシーが通じている。普段は通じないのはどうしてだろうか。

何か条件を満たす必要があるのか?


「なあ、志乃崎。」

「ふう・・・な、何よ?」

(あぁ、駄目・・・もっと、もっと欲しくなっちゃう・・・)

「俺の血ってそんなに美味しいのか?」

「あ、あなた何で私の考えてることがわかるの!?」

「何でって・・・昨日教えたじゃないか、俺はテレパシーが使えるって。」

「・・・本当に使えるのね。」

(嘘だと思ってたわ・・・)


いや、信じてなかったんかい。命の危機に嘘なんてつくわけ無いだろ。

こいつ、どんだけ俺のこと信用してないんだよ。


「・・・決めた。ポチ、ご褒美をあげるわ。」

「結構です。」


俺は即座に断り、そのまま帰ろうとした。だが・・・


「待ちなさい。」


腕を掴まれた。って、痛い痛い痛い。握力強すぎだろ。


「せっかくご主人様がペットにご褒美をあげるって言ってるのに断るわけ?」

「俺はペットになった覚えはない。」

「いいから。ありがたく受け取りなさい?」

「いや、だからいらないって。」

「受け取りなさい。」

「いらない。」

「受け取りなさい。」

「いら・・・」

「受・け・取・り・な・さ・い。」

「・・・ありがたくいただきます。」

「ふふふ。お利口さんね。」


・・・なんかだんだん主従関係がはっきりしてきてないか?





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