第七話 こちらが彼女を見ている時、彼女もまたこちらを見ている

志乃崎との1件を終えたあと、俺は家に帰り、

帰りが遅くなって理由を適当にはぐらかしつつ、ご飯と風呂を済ませ、

速やかにベッドへダイブした。


「なんか今日は頭が疲れた・・・」


吸血鬼・・・そんなのがこの世に存在していたなんて思わなかった。

俺は宇宙人や幽霊はいると信じているタイプだが、

流石に吸血鬼がいるとまでは思っていない。

しかもそれが自分のクラスメイトで、『明坂の女王』と呼ばれる志乃崎鈴がだぞ?

訳が分からないよ。


「そうだ、これは夢なんだ。悪い夢、何かの間違いだよ。

 そうに違いない。そうであってくれ。頼む。お願いします。」


一周回ってこれは夢であると自分に信じ込ませた。

そうじゃないと、俺の脳がゲシュタルト崩壊する。

色々考えているうちに、俺の意識はふと消えた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



翌日、俺はいつもより清々しい気分で登校した。


「おはよう、圭造。」

「よう秦都!ん?なんかお前、いつもよりスッキリしてないか?」

 (よう秦都!ん?なんかお前、いつもよりスッキリしてないか?)

「そうか?よく寝たからかな。」


圭造は相変わらずである。お前は一生そのままでいてくれ。


「そういえばさ・・・」

「ん?どうしたんだ秦都?」

 (ん?どうしたんだ秦都?)

「実は志乃崎がさ・・・」


俺は圭造にを伝えようとした。

だって冷静に考えてみてくれよ。吸血鬼なんているわけ無いだろ?

確かに志乃崎は自分が吸血鬼だの、血の契約だの、

突然翼を生やすだの色々やってたけどさ。

その時の俺に言ってやりたい。『あんた疲れてるのよ』って。


「志乃崎?志乃崎ってあの『明坂の女王』のことか?」

(志乃崎?志乃崎ってあの『明坂の女王』のことか?)

「ああ、そうなんだ。俺、その志乃崎に関する衝撃の事実を知ったんだよ。」


え?もし圭造に志乃崎が吸血鬼であることを言ったら俺が死ぬんじゃないかって?

はっはっはっ。君、もしかして本当に死ぬと思っているのかい?

やだなぁ。そんなわけ無いだろう?


「衝撃の事実?それってなん・・・!?」

 (衝撃の事実?それってなん・・・!?)

「どうしたんだ圭造?急に黙ったりして。」

「・・・後ろ。」

(・・・後ろ。)

「え?」


俺はゆっくりと後ろを向いた。




















「あら、私もその衝撃の事実とやらを聞いてみたいわ。」

「・・・シ、シノザキサン」


俺の後ろにはいつの間にか笑顔の志乃崎女王が立っていた。

てかいつからいたんだ?足音どころか気配さえしてなかったぞ?


「それで?一体何なのかしら、衝撃の事実って。(⌒▽⌒)」

(〜〜〜〜ね〜〜あ〜〜く)

「・・・」


顔は笑ってるのにどことなく圧を感じる・・・やばい、チビりそう。


「あ〜〜いや、何だったけな〜ど忘れしちゃったなぁ〜」

「そう、残念ね。気になったのに。ねえ?厚沢くんもそう思わない?」

(〜〜い〜〜〜〜〜め〜〜よ)

「そ、そう・・・ですね。」

(そ、そう・・・ですね。)

「じゃあ、思い出したら教えてね?」

(〜〜〜ね〜〜〜〜〜〜よ)

「ハ、ハイ。ワカリマシタ。」


そう言うと、志乃崎は自分の席へと帰っていった。


「・・・秦都。お前、志乃崎さんと仲良くなったのか?」

(・・・秦都。お前、志乃崎さんと仲良くなったのか?)

「色々あったんだよ・・・」


気づいていなかったが、いつの間にかクラスの人達から視線を向けられていた。

それもそのはず、あの志乃崎が男子に話しかけたのだから。


(藍川のやつ、志乃崎さんとどんな関係なんだ?)(・・・羨ましい)

(志乃崎さんって、あんなやつと仲良かったっけ?)(なんか冴えない男子・・・)


失礼なことを考えるクラスメイトたち。冴えない男子で悪かったな。

なんとも言えない空気の中、先生が教室に入ってきたため皆それぞれ席に戻った。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



その後、チラチラと周囲からの視線を集めつつ授業を受けた。

その視線も俺が周りを見渡せば急に消えるがな。

でも、やけに強い視線を感じたような・・・

まあ、気にしても仕方ないか。


「秦都!俺、今日も部活だから一緒には帰れない!」

(秦都!俺、今日も部活だから一緒には帰れない!)

「ああ、わかったよ。」


風のうわさだが、圭造は部活の期待のルーキーということで有名らしい。

まあ、中学生の頃、部活を全国大会まであと一歩のところまで導いたやつだからな。

友達として尊敬できる。


「・・・帰るか。」


俺は視線を無視して下駄箱に向かった。

そして、上履きを靴に履き替え、Go home しようとしたところ・・・


「ねえ。」


・・・俺は何も聞いてないし、聞こえない。


「ねえ。聞こえてるでしょ?さっさとこっち向いてくれない?」

「・・・」

「そう、無視するのね。

 ・・・私が今ここで叫び声を上げたらどうなるかしら。ねえ?」

「やだなぁ冗談だよ冗談。」

「ごまかさなくていいから。早く行くわよ。」

「いってらっしゃい。」

「次ふざけたら首の骨折るわよ。」

「申し訳ございませんでした。」


俺は黙って志乃崎についていった。だって怖いんだもん。

本気で首折ってきそうだし。

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