第六話 強制契約
とりあえず、俺の息が整うまで待ってもらった。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
「腕、まくって出してくれる?」
「腕?」
言われたままに俺は右腕の袖をまくった。
にしても、腕を出してどうするんだろうか。
はっ!ま、まさか、『血』って付くくらいだから、俺の腕が斬られ・・・
「あむ。」
「っ!?な、何やってんだお前!?」
突然、志乃崎が腕を噛んできた。
「ひょっと、動かにゃいでよ。やりじゅらいじゃない。」
「いやいやいや、この状況で落ち着けるやつなんているか!」
突然、クラスメイトが自分の腕を噛かんできて平静を保つことができると思うか?
というか、薄暗い神社の境内で女が男の腕を噛んでる状況って何?
傍から見れば、完全にヤバいやつだろ。
「いいかりゃ、あにゃたはだみゃってにゃさい・・・」
「・・・」
「はむ・・・ん・・・んく・・・」
「・・・」
「ん・・・んんぅ・・・」
「・・・」
あの・・・ちょっとエッな声出すのやめてもらっていい?
志乃崎って、黙ってれば普通に美人な女子高生なんだよ。
で、俺も健全な男子高校生なわけ。
その辺りのことをしっかりと把握した上で行動してほしいよね。
全く、最近の若者はこれだから・・・
嘘です。最高です。もっとしてください。
「・・・ぷは」
「・・・」
志乃崎が俺の腕から口を離した。どうやら終わったようだ。・・・残念。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・」
「ふう・・・ふう・・・」
「し、志乃崎?大丈夫か?」
「はぁ・・・あなたに心配されるほど・・・はぁ・・・私は・・・はぁ・・・
落ちぶれてないわよ・・・ふう・・・」
(なんて美味しいの?こんな味、知ったらやめられなくなっちゃう・・・)
「・・・そ、そうか。」
強気に言っているものの、志乃崎の息は荒い。
頬は赤いし、目も潤んでいる・・・ような気がする。
志乃崎が落ち着いてきたところで、俺は話しかけた。
「契約って言うのは結局何なんだ?」
「その腕、見てみなさい。」
言われたとおりに見てみると、
先程まで志乃崎が噛んでいたところに2つの赤い点がついていた。
「血の契約って言うのは吸血鬼同士、
もしくは人間と吸血鬼の間で交わされる契約のことよ。
口頭や書類上での契約よりも強い拘束力を持つわ。
そして、契約する際には互いの血液を交換する必要があるの。」
「なるほどね。だから急に腕を噛まれたのか。」
「そうよ。・・・ほら、鋭い歯が見えるでしょ?そこで交換するの。」
そう言って口を開き、自分の歯を見せてくる志乃崎。
・・・美人がやると、こんな何気ない行動もエッな感じになるんだな。
「ちなみに契約を破ったりしたらどうなるんだ?」
「破った者は全身の穴という穴から血液が抜けて死ぬわ。」
「・・・は?」
え、今こいつ『死ぬ』とか言ったよな?
「はは・・・冗談きついぜ。」
「冗談じゃないわよ。過去に多くの人間がそれで亡くなったわ。」
「おい、今すぐその契約を取り消せ。」
「無理よ。私に腕を噛まれた時点で契約がほぼ完了するから。」
「ふざけんな!何でそんな契約を結ばなきゃならないんだよ!
俺が周りに広めないように頼めばいいだけだろうが!」
「だってクラスメイトとはいえ、ほぼ初対面みたいなものでしょ?
そんな人に頼んだって、守ってくれるかどうかわからないわ。」
「だからって死ぬリスクを背負う必要は無いだろ!?」
なんでいつの間にか危ない契約を結んでんの?
偶然知っちゃっただけで強制的に契約を押し付けられるんだよ・・・
俺が可哀想じゃないか。
「うるさいわね。知ってしまったのが運の尽きよ。諦めなさい。」
「俺だって知りたくて知ったわけじゃねえよ・・・」
「そろそろ、私、帰るわね。」
「は?おい、待てよ。まだ言いたいことが山積みなんだが?」
「どうせ私に対する文句でしょ?
それに血の契約は一度交わした以上、余程のことがない限り消えないわ。」
「はぁぁぁぁ!?」
あまりにも理不尽すぎる仕様に俺は思わず叫んだ。
「じゃあ・・・これからよろしくね?藍川くん?」
そう言った志乃崎は背中から黒い翼を出し、飛び去ってしまった。
「・・・」
彼女が行ってしまったあと、俺はしばらくその場に立ち尽くした。
「・・・帰るか。」
急展開に次ぐ急展開で頭がパンクした俺は、かろうじて足を動かした。
やけに月明かりが眩しい、秋の夜の出来事だった。
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