第4話 パラレル・アンブレラ

 安里は待ち合わせの時間になるまで、駅前の商店街で時間を潰していた。

 高校を卒業してからあっという間に十年が過ぎた。今も付き合いがあるのはごく僅かである。


 安里は一件の店前に飾られている傘を見て懐かしい気持ちになった。


 水をかけると花柄が浮かび上がる傘。


 昔の記憶にうっすらこの傘の思い出がある。二人で帰った相手の顔はハッキリと思い出せない。そう言えば、あの時貰ったブレスレットは結局一度も着けること無く今はどこにあるのかも分からない。


 安里は店前に飾られている傘に、備え付けられていた霧吹きでそっと水をかけ待ち合わせの場所へと向かった。




 ◇


 今日は雨が降るからと妻から渡された傘は、高校生の時に買った水に濡れると桜の柄が浮かび上がる傘だ。

 高校を卒業する時は、この先もずっと高橋と奏帆と居れるもんだと思っていた。だけど時間と距離が少しずつその関係を疎遠のものへと変えていった。


 久しぶりに二人に会いたいなぁ。


 そんな事を考えながら涼は妻に見送られ家を出たのだった。



 ◇


 今日は久しぶりに安里と会う。

 お互い、高校を卒業した後もたまに会っていたのだが、最近は仕事が忙しく中々会えないでいた。


 奏帆は急いで待ち合わせの場所へと向かった。待ち合わせの場所へと向かう途中、駅前の商店街に水で濡れ花柄の模様が浮かび上がった傘が目に入った。

 奏帆はそんな傘を横目に時計を見た。急がずとも待ち合わせには間に合いそうだった。


 安里と会ったらどこに行こうか?


 奏帆はそんな事を考えながら待ち合わせの場所へと向かうのだった。




 了

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