第2話 三月二十日の高科 涼

 俺は朝から落ち着かなかった。


 待ち合わせの時間より一本早い電車から降りると高橋たかはしから届いたLINEのメッセージを見返していた。

 俺の彼女で高橋の親友でもある奏帆かほに『サプライズで卒業プレゼントを一緒に選びに付いてきて欲しい』と言うメッセージだ。

 高橋とは高一から同じクラスで馬も合い、よく話すし、奏帆と三人で何度も遊びに行ったりもした。普段なら高橋からの誘いも何とも思わないのだが、俺が落ち着かなかったのには二つ理由があった。


 一つは初めて高橋と二人だけで出掛ける事。

 そしてもう一つは、高橋が俺の事を好きだと言う噂を聞いていた事。


 確かに俺達は仲が良かったが、好きだ恋人だって言う関係ではなかったはずだ。だけど二人きりだけで会いたい、買い物に行こうと誘われる事は一度もなかった。

 まさか高橋がね。

 そんな事は無いだろうと待ち合わせの場所に近付いた俺の目に映ったのは、普段の格好と全く違う高橋の姿だった。いつもは履かないスカートに首もとの小さなネックレス。小さな腕時計で時間を見ている反対の肩には、可愛らしい鞄がかかっていた。

 俺は意識しないように普段通りを装い、高橋に声をかけたつもりだった。だけど振り替える高橋の口元が、いつもより色艶やかに見えて思わず見とれてしまった。俺は髙橋に何て声をかけようかと考えたが、結局何も言わずに近くの雑貨屋から巡ることを提案した。


 最初の雑貨屋には奏帆の好きそうなデザインのものが沢山合った。小さなハートのピアスやネックレス、ピンキーリングやバック。それだけじゃなくて高橋の好きそうなデザインのブレスレットもあった。俺は高橋に声をかけようとした時、高橋がそのブレスレットを手に取り眺めている姿が見えた。


 買ってあげようか?


 悩んだ俺はその一言は言わず、奏帆に選んだ雑貨の候補を高橋に見せた。

 その後俺達は幾つかの雑貨屋を周り、お昼には高橋が行きたいと行っていたカフェでご飯を食べたりした。いつもの他愛もない話や馬鹿話に盛り上がる俺達はいつも通りだった。

 やっぱりこの距離感がいいと俺は改めて思った。

 結局夕方まで雑貨屋を巡ったが最初の雑貨屋で目星を付けた物を買うことにした。二人で買った奏帆のプレゼントを持ち、雑貨屋の外に出た時だった。天気予報通り、ポツリと雨が降ってきた。俺は雑貨屋に傘が売っていたのを思い出した。水に濡れると桜の柄が浮かび上がる傘だ。高橋を外の入口に待たせ雑貨屋の傘を買いに向かった。その途中に高橋の見ていたブレスレットが目に入った。高橋だって卒業だ。俺は高橋へのサプライズにもブレスレットを買った。


 駅まで少しだから一つの傘で帰ろうと、外の入口で待つ高橋の上に傘を差し、買ったばかりのブレスレットを渡した。驚くと同時に嬉しそうな表情を見ると、どうやら好みの物であったらしい。


 駅までの帰り道。

 いつもの馬鹿話で盛り上がる俺と高橋の会話のテンポのように、傘にあたる雨の音が心地好く響いていた。



 続く

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