パラレル・アンブレラ
ろくろわ
第1話 三月二十日の高橋 安里
高校生活最後の三月。
私は親友の彼氏とデートをした。
きっと彼は、これをデートだなんてこれっぽっちも思っていないだろうけど。たったの三時間だったけれど。何を伝え、何かをした訳でも無いけれど。
それでも私は、親友に内緒で親友の彼氏とデートをしたのだった。
元々、
高科は全然格好良くなんか無くて、スポーツや勉強が出来る奴でも無くて、どちらかと言うとアホな奴だった。ただ凄く話の相性が良くて、同じような感性で笑うツボも同じで、話しているのが楽しくて。兎に角、気がついた時には一緒にいたいと想っていた。
高二の夏。
そんな高科が付き合ったのは、私の親友で高科と同じ部活に入ってた
私は想いを伝える事もなく、親友と親友の彼氏となった高科と三人で過ごす学生生活を送った。
映画や買い物を三人で行き、夏や秋の祭りも共に過ごした。
私達はどんな気持ちで過ごしてきたんだろう。
私だけが、言い様の無い幸福感と疎外感と喪失感と共に過ごしていたのだろうか。
だから、せめて高校最後の日に二人だけで過ごしたかった。
だから私は高科に一日買い物に付き合って欲しいと誘った。親友の奏帆へ卒業祝を買いたいと嘘をついて。
三月二十日。
当日の天気は午後から雨が降る予想だった。私は待合せの時間より一本早い電車に乗った。普段履かないヒラヒラとしたスカートにちょっとした小物を姉に借り、唇にはほんの化粧をして。似合わないのは分かってる。だけどちょっとだけ期待してた。高科が可愛いって言ってくれるかもって。
待合せより早い電車だったのに、高科も待合せより早く着いたようで、私のすぐ後に合流できた。
高科は私の変化には気が付かなかったようだったけど。
それから私達は近くの雑貨屋を巡った。
高科が雑貨の中から奏帆の好きそうなものを幾つか選んで私に見せてきた。私は自分が見ていたブレスレットを棚に戻すと高科が奏帆に選んだ物を見た。
全く、奏帆の好きそうなものばかりだった。
高科が奏帆を良く見ている事が分かる。私はさっきまで自分が見ていたブレスレットを横目でみた。私の好みを高科は知らないでしょうね。
結局その雑貨屋で奏帆のプレゼントは買わなかった。もしそこで買ってしまうと今日の目的が終わってしまうかも知れなかったから。
私は行ってみたいカフェがあった。見たいお店だってまだあった。だから高科をもう少しだけ独り占めにした。
カフェでは違うものを頼んで二人で分けてみた。周りから見たらどんな風に見えるんだろうなとそんな事を思いながら。
結局一日探したが、奏帆のプレゼントは最初の店の雑貨にする事にした。高科のアドバイスで私が選んだものだ。
雑貨屋から出るとポツポツと雨が降り始めていた。天気予報はどうやら当たりだったみたい。私が鞄から折り畳み傘を出そうとした時、高科がちょっと待っててと先程の雑貨屋に戻っていった。そして暫くして帰って来た高科の手には、水で濡れると桜の花びらが浮かび上がる傘と私が見ていたブレスレットが握られていた。
私が好きそうなデザインだったからとブレスレットをくれ、駅まで少しだから一つの傘で帰ろうと言う高科。
そう言う所がダメだと思う。
隣で歩く高科の肩に少し触れる。手を伸ばせば繋げそうなその左手。すぐそこにあるのに触れる事のできないその距離。楽しそうに馬鹿話をしている横顔を見ながら、この距離を恨めしく思う。
私のもどかしい気持ちを表しているみたいに、傘に当たる雨粒の音が少しうるさかった。
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます