ぽっかりと

 つい先日、惜しまれつつ閉店した地元のスーパーの解体工事が完了を迎えた。

 ああ、とうとう失くなってしまったのか。フラットパネル越しに晒された更地を眺めながら、改めて感慨に耽る。

 思えば物心ついた頃から、買い物といえばこのスーパー一択だった。文具におもちゃ、衣類に生活雑貨、もちろん食品だって。ここに行けば必ず何か揃って、手に入れる事が出来た。

 あれから三十年。似たようなスーパーがあちこちに現れ、ネットショッピングやコンビニの台頭など、買い物にまつわる環境も発展していった。オープンから半世紀近く経過した建物も経年劣化の波に抗えず、閉店の判断に至ったのも致し方ないと思っている。

 でも、あのスーパーには、他にはない思い出が沢山詰まっていた。初めて家族でレストランで外食した事。友達とフードコートで今川焼を食べて駄弁った事。当時まだあった屋上遊園地で遊び回った事。大人になってからだって、顔見知りの店員さんとレジ越しに世間話をしたり、フードコートでノートパソコンを開いて執筆したり。とにかく、私にとって印象深い思い出の多くが、この場所から生まれたのだ。

 閉店してから程なくして始まった工事。重機によって日に日にビルが原型を失っていくさまを眺めては、小さな嘆息をこぼしていた。後ろばかり振り返ったって仕方ないのだと、頭では割り切っているはずなのに。ガリガリ、バタン! と騒音を立てながら建物が削り崩れゆく度に、大事な思い出も一緒に抉られ蔑ろにされているような気がして、やっぱり一抹の悲しさを拭いきれなかった。

 仕事帰りに、また工事現場を通り過ぎる。このぽっかり生まれた更地だが、再来月から大型電気店の新築工事が始まるらしい。

 スクラップアンドビルド。悲しみを抱えながら、それでも私は歓迎しようと思う。

 ここから、また新たな思い出や出会いが生まれる事を願って。私に限らず、かの地を愛した人々にとっても。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る