第四話 魔物
魔物。
それは世界に巣食う、魔力を持った化け物。
人類の天敵。
やつらはどこからともなく現れた。
未知のダンジョンと共に―。
やつらは密林、洞窟、海域、ありとあらゆるところから突如として現れた。
巨大な体躯、
魔力と呼ばれる力まで有していた。
そんな化け物に、人同士で諍い合ってきた人類がどうやって太刀打ちできようか。
人々は瞬く間に捕食されるか、あるいは苗床としてその生涯を終えることとなった。
しかし人類にとって不幸中の幸いだったのは、化け物共が現れた生息地から決して出ることがなかったことだった。
こうして奇跡的に生き延びた者たちは、長い
まず人々は、化け物のいない安全な地に
時は流れ、自ずと血筋が続いていくと子孫の中からレベルの成長が著しく早い者が現れだす。
強き者同士が交配することでその確率も如実と増えていき、着々と人類の戦力は増えていった。
そして数百年後、力を持った優秀な者たちを筆頭にして、奪われた地を取り戻すべく第一回奪還作戦が開始される。
のちに第一次魔物大戦と呼ばれる戦いである。
人類の反撃の始まりだ。
この戦いで多くの血が流れ、多数の死者が天へと還っていった。
だが、この戦いは膨大な数の犠牲を出しながらも人類側の勝利に終わったのだった。
こうして人類は一つ目の略奪された地の奪還に期す。
彼の地はセントマリア。
人類はこの地で、ある存在を発見することになる。
それこそがダンジョンである。
ダンジョン。
その存在は魔物が現れる以前には確認されていなかったものだ。
どのような形で魔物が出現したのか未だ不明であったが、突然現れたダンジョンと魔物にはなにか密接な繋がりがあるのではないかと考えられた。
そして人類はダンジョンの調査を試みる。
第一回目の偵察では十五人の精鋭が派遣されるも、誰一人として戻るものはおらず失敗と断定し全員死亡として処理された。
続いて第二回目の偵察を実施。
以前よりもはるかに多い四十人もの大規模な偵察隊で調査が開始された。
これによりダンジョン内には、外に出現した魔物と同じように魔物がいることが判明。
また奥にはヌシと思われる魔物がいることも確認されるのであった。
人類はさらにダンジョンの謎を探求するべくヌシの攻略隊を編成し、幾度となくヌシに攻撃を仕掛けた。
そして数十年をかけて人類は遂にヌシを撃破することに成功。
これにより人類は新たな大きい一歩を遂げることになる。
その一歩となる事例とは、ダンジョンのヌシを倒したことで、ある生息地から魔物が一斉に死滅したという話であった。
これがどういう理屈で起きたことなのか検討もつかない。しかし前述の事例から、ダンジョンと魔物は密接に関わり合っていることが断定。
さらにダンジョンには、未だ先に未到達の階層の存在が確認され、階層ごとには別種と見られるヌシの存在も確認された。
こうして人類は、奪われた地の奪還のためダンジョンの攻略に乗り出したのであった。
魔物とダンジョン。
これらはどこから来たのか、どうやって現れたのか現在も未だ解明されていない。
されど人類は遥か昔から長い間、今まで戦ってきたのだ。
かつて自らのものであった地の奪還を夢見て。
><><><
俺は鬱蒼とする密林を歩きながら、魔物に関する書物や親から聞かせてもらった伝承を思い返していた。
ゲームではちょろっとしか説明されなかったのだが、詳しい内容は思いのほか凄惨な歴史だった。
制作会社はよくこんなにも設定を
それに俺の知らない設定もいくつかある。
例えば、外のマップなんて序盤のストーリーでは出てこなかったし、自分の村の名前やシルクというキャラクターも転生してから初めて聞いたものだった。
これらに関してはゲームに関わってこない内容のはずだし、わざわざ作り込む必要もないと思うのだが……。
それとも俺がプレイできていない内容のところなのだろうか?
かく言う俺は、ゲームをプレイしているといっても本編の半分くらいしかできていなかった。
徹夜でやったといっても遊び始めて初日だった訳なので、どうしてもストーリーを全部把握しきれていないのだ。
そのため、俺の知らないストーリーの部分が絡んできているとしたら正直お手上げな訳なのである。
まぁこれ以上考えても詮無いことだろう。
被りをふるい、俺は考えるのをやめた。
現在、俺・レベッカ・ソルドの三人組は魔物の生息地、デボス密林に足を踏み入れている。
の、はずなのだが……。密林に入ってからというもの、うす気味悪い雰囲気だけがでているだけで目当ての魔物は影すら見当たらないでいた。
「魔物なんて全然いねぇじゃねえか!!」
ソルドの張り詰めた怒声が辺り一面に響く。
まぁ無理もない。
俺たちがデボス密林に入ってからもう
ソルドの気持ちは大いに共感できた。
そもそも、【えちダン2】では学園が舞台だったこともあり、ダンジョン外の魔物を見たことがない。
そのため、どのくらいの数の魔物が外にいるのか俺には検討不明だった。
もしかするとそこらへんはゲームの後半で絡んでくるのかもしれないが、それは俺が知る由もない。
これが普通な訳ないよなぁ。
ちらと、少し離れて歩くレベッカを見やる。
端整な顔には似つかわしくないほど、こめかみには皺が寄っていて額に青筋までもがたっているのが見てとれた。
こ、こわ! 額に青筋たててる人初めて見た。こりゃゴリラ女から凶暴ゴリラ女にランクアップしとかんと。
というかコレ、内面を知らずに外見だけで惚れたやつが今のコイツ見たら脱兎のごとく逃げ出すだろうな……。
見るからに怒りが頂点に達しそうな迫力で、いつこちらに八つ当たりで飛び火してこないか非常に不安だ。
するとそんな彼女はついに我慢が限界に達したのか、小さな口を限界まで大きくひらいた。
「あー! もう耐えきれないわ! ぜんっっっぜん出てこないじゃないのよ!! ちょっとくらい奥に入ったって何も言われないわよ! ほら、行くわよ!」
そう激昂すると、ズンズンと密林の奥へと足を進め始めた。
「ちょっ」
これはまずい。
俺たちは今まですぐ帰還できるようになるべく密林の入り口付近をぐるぐるしていたのだが、魔物に出会えないと見るや、奥へと行こうというのだ。
「ほら、いくぞ」
そんなレベッカのあとにソルドもついていく。
困惑して立ち尽くしていると、レベッカがこちらに振り返り俺のじっと見つめた。
目と目が合う〜瞬間〜…じゃねぇ!
一瞬、地球にいた頃にあった歌の歌詞が脳裏をよぎったが、それどころではない。
すんごい目つきでこっち睨んできてるんですけど。
双方の目と目が重なり、数十秒ほど見つめ合っていただろうか。
レベッカはふんっと鼻を鳴らしたかと思えば、また密林の奥の方へどんどん足を進め始めた。
なんだったの、今の時間……。
凶暴ゴリラ女が手を出してくるのかと思って、ヒヤヒヤものである。
とりあえず、攻撃がとんでこなかったことに俺は安堵の息を吐いた。
そんなレベッカを見て、ソルドはきょとんとしながらもあとに続いていく。
しかし、このまま二人だけを行かせてしまってはいけない。
実はレベッカがしようとしている行為は規約違反に該当されるのだ。
フェリスさんからの説明では、新米冒険者の間はデボス密林の奥へ行かないようにと忠告されており、ギルドの規約にもなっている。
おそらく危険を考慮して、なるべくすぐに撤退できる入り口付近で戦ってほしいといったところだろう。
しかし現状、このままでは魔物に出会えそうにないのもまた事実。
ここで俺が二人を引き止めたとしても、プライドの高いレベッカがそれを許さないだろう。
すみませんフェリスさん……。
フェリスさんに罪悪感を感じながらも俺は二人のあとを追った。
そうしてレベッカに続いて奥へ奥へと歩いていると、隣にいたソルドが口をひらいた。
「なぁ、もしかして魔物が現れないのってお前が疫病神とかだからじゃねえだろうなぁ? 忌み子なんだろ、お前って」
「えっ……」
不覚にも狼狽えてしまう。
嫌味はともかくとして、言われてみれば魔物がいないのは俺のせいなのではと思えてくる。
実際レベル0であり、異常な存在なのは間違いないのだから可能性としては否定できない。
俺が知らないだけで魔物を寄せつけない体質だったりするかもしれないわけなのだ。
動揺していると、ソルドはそんな俺を見かねて頭を掻き、わざとらしく気を落とした。
「はぁ、なんで俺はこんなやつと組まなきゃならねえんだ〜! 可愛いレベッカちゃんがいることがほんと救いだな」
ソルドのそんな嫌味を聞いてるうちに俺たちはどんどん奥へと進んで行き、気付けば辺りは暗くなっていた。
――――。
"キュ"
「「「!」」」
歩いてどれくらい経っただろうか。
微かだが聞きなれない鳴き声らしきものが近くから聞こえた。
その鳴き声は俺だけでなく二人にも聞こえたようで、声の方へと俺たちはすぐさま駆ける。
声のした方へ急ぐと、そこにはウサギと思えるような見た目に角を生やした魔物がこちらに向かって走ってきていた。
こいつが先ほどの鳴き声の主だろう。
「ようやく出たわね!!」
待ちに待った魔物の登場にレベッカが勢いよく吠えた。
◎まだ十二歳だもんね、二時間も怒りを我慢できてえらい!
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