第31話「幕間、実力派パーティを探そう」

 天才魔族である私、アルマは今非常に難しい問題と向き合っています。ダンジョンに入れるのに最適なパーティは何か? という非常に難しい命題です。


 何しろこの前、面白くなりそうだから、という理由で姫騎士を送り込んだらとんだ無能パーティで、魔王様から通信で『パーティを送ってきてくれているのは本当に感謝する、ただもう少しだけマシな力を持ったやつにしてくれないか』と遠回しに注意されてしまった。


 あの配信は私もしっかり見ていたのでとてもよく分かる。ギリギリ配信として成り立っていたのは、あのカレンという娘のトーク力によるものが大きい。とてもではないけれどあのパーティは実力と認識が食い違っている。


 あえて私に弁解をさせてもらえるとしたら、あんなのでも姫騎士を名乗れる人間どものシステムに問題があるのだと強く主張したい。本当にどうやって姫騎士という騎士の一種になれたのか不思議で仕方ない。無能でもなれるなんて人間達は人材不足にも程があるだろう。あるいは顔採用したのかだが、どちらにせよまともなものではないことは確かだ。


 配信で見せたあの無能ぶりにはあきれて開いた口が塞がらなかった。見ている分にはともかく、アレを私が見込んで送り込んだという事実に頭がキリキリと痛んだ。魔王様にあわせる顔がないとさえ思うほどだった。


 だから……だから次こそはまともなパーティを選定したいと思っている。人間の肩書きがあてにならないと言うことは理解した。せめて何か学習しないと同じ事を繰り返す救いようのないダメ魔族になってしまう。魔王様の役に立ちたいし、立場だってもっと上を目指したい。だからどうかこの町にはまともなパーティが居ることを邪神様に祈りたい。


「はぁ……」


 ため息と共に酒場に入る。情報収集と言えば酒場だが、魔族に比べ人間は酒に弱い傾向があるので、語っていることの信憑性が怪しいこともある。泥酔した人間の武勇伝は大体ウソだと割と早めに知った。


 だからこの日は噂の収集だ。現在日が落ちて少し経っているので酒場にいるような連中は酔い潰れていてあてにならない。しかしその噂だけでも手がかり程度にはなるし、金払いの良い客がいれば金持ちか腕利きである可能性がある。その辺の見極めはしたいと思っている。武勇伝はあてにならないのでそういうことを言いながら絡んでくるやつは虫の一択だ。


 時折キレそうになる事もあるが、人間側へのスパイとしてはそんな軽々しい行動はとれない。たとえ相手がクソ雑魚でパンチ一発で吹き飛ぶような相手でも、それをやってはならないのだ。


 そうして私は一軒目の酒場に入った。


 席に着いて私はエールを頼む。判断力が鈍らないように酒は控えめにする。飲もうと思えば飲めるにしても、魔族なら割と飲んでいる火が付くような酒を飲むわけにもいかない。あの酒は人間達に需要がないと知ったときは多少驚いた。魔族なら少し酒が飲めるやつはあのくらいのものでないと一切酔わないからだ。だというのに人間ときたらエール数杯で潰れるやつまでいる始末だ。魔王様が人間を滅ぼさない理由はあまりよく理解出来ないが、勝とうと思えば勝てる相手なら放置しても良いのではないかと人間達と触れあって思い至った。


 すると噂が嫌でも耳に飛び込んでくる。


「しかしあの『白銀の竜』がなぁ……」


「あのダンジョン、初心者向けとか言いながらかなり難しいらしいぜ」


「それでも突破したんだから大したものだな。流石だよ、なんでもダンジョンのボスはドラゴンだったらしいな」


 ピキ


 頭の中で魔力の器にひびが入ったような気がしました。間違いなく魔王様が作ったダンジョンのことを喋っているのでしょう。しかし連中は言うに事かいて居もしないドラゴンをでっち上げたのですか? 魔王様への冒涜ですし、自分の頭の悪さを誤魔化しているのがものすごく腹立たしいですね。


 あの初等教育レベルのパズルを解けなかったやつらが、自分はすごいのだと吹聴して回っているのでしょう、ものすごくムカつきますね、いっそ即死トラップのあるダンジョンを紹介してやりたいくらいです。


「しかし物騒な話だよな、アイツらでキツいならほとんどのやつが無理なんじゃないか?」


「だろうな、それなりに金にはなったらしいが、ダンジョンのキツさを考えると割に合わねえよな」


 はぁ……この酒場から出て行きましょうかね、愚にも付かない話題が延々されているとゾンビでもないのに耳が腐り落ちそうです。人間へ期待していることが間違いなのでしょう、魔王様も人間を滅ぼす路線ではないようですから、あのムカつく噂を垂れ流しているパーティを討伐するのもみっともないですね。


「もう一杯」


 私はエールをもう一杯頼みました。いっそぐでんぐでんに酔い潰れてしまいたくなっています、こんな時は酒に強い魔族の体なのが悔しくさえ思えます。簡単に酒で意識を失える人間が羨ましいくらいですね、魔族は大抵本気で飲むと死ぬ前に酒場の酒がなくなりますもんねえ……


「どこかにそこそこ優秀な人は居ませんかねえ……」


 思わずそうこぼしてしまいます。優秀なやつがそこかしこに転がっていたら、魔族が人間相手に勝てるはずはないのですが、良いことばかりではないようです。


 日が沈んだ頃には客がゾロゾロと入ってきて、なんだか居心地が悪くなってきました。もう既にエールだけで十杯は飲んでいるのですが、意識はハッキリしたままです。先ほど一杯頼んだときには『大丈夫か?』と人間ごときに心配をされてしまいました。人間は魔族より劣っていると思いますが、集団となるためにお互いを守っているからそれなりに戦えるのでしょう。魔族は真っ先に手柄を優先しますからね。


「知ってるか? あのダンジョンは入る度に難易度が変わるらしいぞ」


「ウソだろ! そんなダンジョン聞いたこともないぞ」


「ウソじゃないって、現にどうしようもないパーティでも、実力派でも平等に失敗したり成功したりしてるんだぞ?」


 そういえば確かにあのダンジョンはかなり運要素が絡みますね、後はギミックを構築する魔王様の気分次第でしょうか。それはさておきあのダンジョンに実力派パーティが入ったことがあるかは一つ疑問に思いますよ。大抵入ってすぐ酷い目に遭っているような気がしますがね。しかもたいていの場合注意していれば回避出来るトラップで、です。人間の警戒心がないだけで、そもそも不用意に入ってくる時点で実力も何もないと思います。


「もう一杯」


「あんた……もうやめた方がいいんじゃ……」


「良いから出してください、代金ならありますよ」


 私は銀貨を一枚チップとして叩きつけて注文しました。金の力に抗えなかったマスターは渋々とではありますが新しいエールを注いでくれました。


 この町に優秀なパーティはいないようですね。ならばせめて動画にして面白いパーティがいないでしょうか? むしろ見ていて面白い方が実力より重要ですしね。


「お隣、いいですか?」


 なんだかチャラついた男が私の隣の席に着きました。人間は分かりやすいですね。


「代金をあなたが持ってくださるんですか?」


「ははは! そのくらい全然構わないよ!」


「ほぅ……」


 言った、言いましたね。この人間は私に飲めるだけ飲んでいいと言いやがりました。だったらたっぷり飲ませていただくとしますかね。ついでに噂も適当に流しておきましょう。人間もそれなりにいますし、運が良ければ一つくらいマシなパーティが聞いてくれるでしょう。


「マスター、ウイスキーを、ジョッキでお願いします!」


「え!? ええっと……水割りでいいか?」


「いや、原液で」


「は!? いや……お嬢さん、ウイスキーって何か分かってて言ってるのか?」


「知っていますよ、有名な蒸留酒でしょう」


「じゃあジョッキ一杯飲もうなんて無茶は……」


「お金はこちらの素敵な男性が支払ってくれるそうなので気にしないでください」


「え! ……あぁ、確かに俺が金は持つけど……」


 そこで私の記憶は途切れました、気がつくと太陽が昇っていました。場所は宿ですね、もちろん私の取った宿で私以外の誰かがいるわけでもありません。ああ、久しぶりにタダ酒にありついたので飲みすぎましたね……


 そのまま身なりを整えて町に出たのですが、なんだか人間に避けられているような気がします。おかしいですね、人間にきちんと擬態出来ているはずですし、隙があるわけないと思うのですが……


 頭を撫でてみましたが、やはりきちんと魔族の角はまったく出ていません。見えないどころか頭をマッサージしても角が生えていたとは気付かないでしょう。ではなぜ?


 とりあえず昨日、記憶が無くなった酒場に行ってみますか。何も盗られている様子も無いですし、衣服もきちんと整っています。何か失敗があったとは思えないのですが、あの男が酒に一服盛ったのでしょうか? そんなことはないと思うのですが……人間が耐えられない量でも盛られないと記憶を無くすようなことはないはずです。


 酒場に行ってみると一枚の貼り紙がしてありました。


『ボトルが空になったので次の仕入れまで臨時休業します』


「ヒィッ!」


 それを読んだときに裏から出てきていた人間……アレは酒場のマスターですね、そいつが悲鳴を上げてすっこんでいきました。つまりは私がやらかしたということですね。体に害がないとは言っても飲み過ぎれば記憶は飛びます。昨日の私は酒場を一つ空にしてしまったようですね……


 その噂が広まったのか、酒場どころか食堂さえも私は出禁になっていました。これはもうこの町での活動は出来ませんね、魔王様には大変申し訳ないですがここで噂を流すのは諦めましょう。


 私はそうして町を出ることにしました。街道を歩いているときに身ぐるみを剥がれて『私は女に目がくらんで迷惑をかけました』という札を持たされ、お屋敷の前に立っている男がいましたが気にしないことにしました。魔族に安易に酒を奢るなどと言う行為に出たのが悪いのです、自業自得、私はまったく悪くない!


 というわけで町を出て人目がなくなったところで羽を生やしてさっさと飛び去りました。まったく……人間は軟弱です。


 次の町にはどうかまともなパーティがいますようにと願いながら、私は飛びました。


 ――あるパーティ


「なあ、あの酔っぱらいが言っていたこと、本当だと思うか?」


「怪しいところじゃない? 簡単に攻略出来て報酬の言いダンジョンがそんな簡単に見つかんないでしょ」


「だよな、でもせっかくだし見るだけ見に行かないか?」


「あなたはホント物好きね……」


 そうして一つのパーティはアルマの知らないところでダンジョンに向かうのだった。

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