第25話「前回の配信の評価」

「なあなあ、前の配信は笑えたよな」


「クッソ笑ったな。人間は楽しい連中だよ、魔族を襲わないなら長生きして欲しいよ。あとさ、実況のカレンって娘、めっちゃいい声だよな?」


「そうそう、独身の魔族がガチ恋してるって噂だぜ」


 ここは魔族領城下町の酒場、他愛ない話を聞くのも人材不足の魔王様は私に任せるくらいしかないのだ。


 コソコソとメモを取る、また人間領に行ってダンジョンへ人間をおびき出さないといけないのでこういった活動は早く終わらせたい。


「なあなあ、この後広告で流れてた飯屋に行こうぜ!」


「お! いいじゃん! なかなか美味しそうな店だったよな」


 また別の場所ではそんな声があがる。うんうん、スポンサーの売り上げが上がれば広告費をふっかけることも出来るのでいいことだ。


 私は気分良く酒場で耳に入る情報を聞きながらエールを飲む。仕事が順調にいっているときのエールは大変美味しいと思う。あのカレンとか言うぽっと出の自称アイドルがデカい顔をしているのは少しだけ気に食わないけれど、それは仕方のないことなのでしょう、私に実況しろと言われてもしどろもどろになるのは目に見えていますしね。


「しかし魔王様もなかなかエグいこと考えるよなあ」


「いいじゃん、おかげで楽しめたじゃん」


「まあそれはそうなんだがな」


「おい、俺も混ぜてくれよ。次の配信で人間がダンジョンをクリア出来るか賭けようぜ」


「いいなそれ、俺は失敗する方に賭けるわ」


「じゃあ俺は成功する方で」


「俺も成功する方だ」


 賭け事は違法ではあるが、こんな場末の酒場で行われる他愛ない賭けに治安維持の労力を割くこともないか。どうせ連中は賭けがなくなろうが税金を納めたりはしないのだ。それに賭けるなら確実に次回の配信は見てくれるだろう。わざわざ視聴者を減らすようなことはしなくていい。


 また別の場所から配信の話題が聞こえてくる。


「人間ってロクでもない連中だけど見ている分には面白いな」


「つーかアイツらそのうち勝手に戦い始めそうだよな、魔王軍が活躍することはないんじゃないかと思うよ」


「そうそう! ご丁寧に仲間割れをしてくれるんだから、何で俺らが戦わなきゃならないんだって話だよな」


 いいことだ、人間が勝手に減ることは助かるのだが、あまり減りすぎると魔族の楽しみが無くなってしまうので面白くないですからね。人間は生かさず殺さず楽しむおもちゃなのだから魔王様が殺し尽くす気は無いのだろう。


 コソコソメモを取りながら酒をちびちび飲む。美味しいのでついつい一気飲みしたくなるが、酒で潰れるとまともに務めをこなせないので困るんですよね。たまにはプライベートで意識が無くなるまで酒を飲みたいものです。


 ちなみに広告費は順調に上がっているそうだ。あまり主張したいわけではないが、多少は私の努力も関係していると思いたい。ダンジョンに送り込むパーティに情報を渡すとき、慎重に実力が見合う連中を選んでいるのです。


「それにしても人間も物好きだよな、わざわざそこまでして金を集めなくてもいいのにさ」


 バン


 おっと、思わず納税していない連中がしっかりと重税を払っている人間を悪く言ったのでイラッとしてしまった。その言葉はきちんと納税してから行って欲しい、魔王様の課している税金は払わなくてもペナルティが無い上に、人間達が一般的に貸されている税金よりかなり安い。それなのにコイツらときたらまったく払っていないのです。あきれかえりますね。


 昔は納税していない連中を片っ端から投獄していた時代もあったらしいが、その時代にはあまりにも払っていない人間が多すぎて牢獄が溢れかえった上に、そいつらを死なせるわけにもいかないのでそれにかかる費用がとんでもなかったと聞く。それのせいで今ではああいう連中が野放しにされているそうですが……


「やっぱりムカつく……」


 こそりと呟いた。この事を魔王様に報告したところであまり意味は無いだろう。こういう情報は側近のブレインに伝えておくべきだ。アイツの方が財政事情にはシビアですしね。あんまりケチくさいのもなんだかなとは思いますが、それなりの厳しさは必要でしょう。


「人間だけどついつい応援したくなるよな、こういうこと言っちゃいけないんだろうけどさ」


「分かる、弱い生き物が懸命に頑張るのってスゲー面白いよな。魔族がダンジョンに挑戦したらあっという間に終わるしな。むしろ弱いから楽しいんだよなあ」


 ふむ……あまり実力派で噂が流れるような連中にはダンジョンのことを教えない方がいいですね。楽勝でも完敗でもない、なかなか私の選別眼が試されるようですね。後で通信魔法をつかって次のダンジョンの難易度を聞いておかないといけませんね。


 しかし、魔族と人間が争う必要ってあるんでしょうか? 全戦に立ったことのない私にはよく分かりません、人間なんて会話の出来る動物程度にしか思っていません。


 それでも、確かにペット同士を戦わせるようなイベントはあるのであれと似たようなものなのでしょうか? 少なくともペットと戦いたいとは思いませんが、見ている分には面白いですからね。


 私はもう少し人間と関わりを持った方がいいのかも知れません。ダンジョンに適切なパーティを選ぶのは私に一任されていますからね。勝手に見つけて入ってきたようなパーティは大抵敗退していますからね。


「次の配信だとどんなやつが来るんだろうな」


「勇者が来たりして」


「ねーよ、勇者があんなものに挑戦するほど暇じゃねえだろ。勇者なんてのは少し強い人間だろうが、いざとなったら魔族で囲んでボッコボコだろ」


「だな!」


 そう言いながら笑い合う魔族を見て、勇者を舐めすぎなのではないかと思います。本当にそれでいいのでしょうか? 評判を聞くかぎりではそれなりの実力者のようですが、人間の中にも勇者候補がいて、その中から勇者が出てくるらしいですが、そう言った危険なものを魔族があらかじめ潰しておいた方がいい気もしますね。


 とはいえ、人間を舐めきっている連中が戦力になるとも思えませんがね。


 配信の評価も大体集まりましたし、魔王様とブレインに報告を上げておきましょうか。しかし気が重いですね、魔族が納税をきちんとしてくれればこんな事はしなくてもいいというのに……


 贅沢を言うのはやめましょう、今回の配信の評判は上々だった、それだけでも十分良いことなのですし、求めればキリがありません。そこそこで我慢しましょう。


「お勘定ここに置いておきますね」


 私は伝票とぴったりの代金をカウンターに置いて店を出ました。さて……報告しますかね。魔王様のためと割り切りましょう。私は出来る魔族なのですからね。


 そして、一時宿泊している宿に向かいました。魔王様のダンジョンの評判が良かったので私の足取りは少しだけ軽くなっていました。

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