第26話「幕間、人間の事情」

 私は今、また別の町に移動してきたところです。いい感じのパーティを見つけてダンジョンに送り込むのが役目です。魔王様のためにしっかり働かなければなりません、強すぎても弱すぎても不適格なのでちょうど良いレベルの連中を探す必要があります。そんなわけで私は今、酒場で情報収集をしています。ちなみに経費になりますが、決して横領ではありません。


「なあ、最近話題になってるよな……」


「ああ、あの入る度に中身の変わるダンジョンだろ?」


「そうそう、そんなもの聞いたことが無いんだがな、二組が入ったときそれぞれが別の造りになってたって噂だよな」


 魔王様の新技術もそれなりに有名になったようですね、あのダンジョンなら人間も飽きたり必勝パターンを見つたりすることも無いでしょう、実に効率が良いものです。魔王様が作ったものは実に優秀です。


 さて、この酒場にめぼしいパーティはいるでしょうか? 私くらいになると見ただけでパーティの実力なんて分かるものです。


「なあ、ここのところ金が無いんだが、行ってみないか?」


 いけませんね、その言葉を発した人間のいるパーティはあまりにも弱すぎます。強くある必要はありませんが、一部屋目で脱落するような雑魚では困ります。


 私はそこで独り言を言いました。


「うー……ひっく……あのダンジョンキツすぎなんですよ、なんですかいきなりオークキングが出てくるとか……あんなの絶対初心者向けじゃないですよぅ……」


 私の独り言を聞いた連中は黙り込んで酒場から出て行きました。オークキングごときにビビるヤツにはは行って欲しくはないんですよ。


「あんた、まったく酔ってないだろう?」


 おっと、酒場のマスターにはバレバレでしたね。ずっと私が居たことを知っているのだから無理もないですけど。


「私は危ない場所に実力の無い方々をむざむざ向かわせるつもりはありませんから」


「ほぅ……まあ好きにしな、ウチは冒険者の事情には深入りしないんでな」


 一応節度をわきまえた酒場ですね。深く細かいことを聞き出そうとする面倒な場所で無いことは調べておいて良かったです。


 そんなことを考えていると、冒険者のアライアンスらしき集団が入ってきました。ぱっと見たところ複数パーティで合同受注をした帰りでしょうか? 都合のよさそうなパーティが一つでもあればありがたいのですが。


 一つの集団として入ってきた人間達は三組に分かれてテーブルを陣取りました。おそらくこの三組がそれぞれ一つのパーティなのでしょう。あまり期待出来る連中ではありませんね。本当に強いなら一つのパーティでもダンジョン攻略は出来てしかるべきなのですが、これだけの数の暴力で攻略するのは自分の実力不足を宣伝しているようなものです。


「じゃあ『竜の巣』攻略を祝って! 乾杯!」


 報酬をもらってきた帰りなのでしょうか? 皆が遠慮なくエールを頼んでグビグビと飲んでいます。私もお金はありますが、このパーティを観察してからでなければ飲めません、諜報員の辛いところです。


「いやー、苦労したな。死人が出なかったのが奇跡みたいだよ。本当にめでたい!」


 めでたいのは『竜の巣』程度にこれだけの人数を動員したトップの頭ではないでしょうか? あのくらいなら私でもソロで踏破出来るようなところですよ、祝うようなことではなく、むしろ恥じることだと思うのですがね。


 しかしそれだけ聞けばコイツらの実力は分かったようなものだ。私はさらにエールを一杯頼んだ。


 すぐに運ばれてきたのでゴクゴク飲みながらもう少しマシなパーティを待ちます。しかし先ほどの連中が去らないと次が入ってこられないほど酒場がアイツらに占有されています。まったく……傍迷惑な連中ですよ。


 だからこそ、私が有望株を見つけるためにここで粘るのはまったく全て全部仕事なのです。だからここで飲むものを全て魔王様に経費として支払ってもらうことに問題は曇り一点もありません。


「エール……いえ、ジンを一杯いただけるかしら?」


「あんた大丈夫なのか? もう結構飲んでるだろう」


「大丈夫ですからさっさと出してください」


 私が少し語気を強めます、すぐに新しい一杯が出てきました。それを飲みながらここで話し込んでいる無能たちをどうしたものかと考えます。この程度の連中なら恐れる必要はありませんが、追い出すのは営業妨害ですからね。


「いやあ、ホブゴブリンにあったときは死ぬかと思ったな!」


「ワハハ! アレは人間達の絆というものの見せ所だったな! みんなで力を合わせればあの程度楽勝だぜ!」


 馬鹿じゃないのでしょうか? ホブゴブリンなんてクソ雑魚相手にこれだけの集団で戦ったのですか? いや、それよりヤバいのはそれを誇らしげに語っているところですね、ホブゴブリン相手に集団で戦ったなんて言って自慢が出来るのは魔族の子供がせいぜいでしょう。いい年してホブゴブリンと集団で戦ったら馬鹿にされること間違い無しですよ。


「しかし竜の巣なんて名前だからドラゴンが待ってるかと思ったら、ボスがゴブリンとはな、拍子抜けだったな」


 あそこはドラゴンの子供を育てるための巣なので子供が育って独り立ちした跡地なのですが……その程度の情報収集もしなかったのでしょうか? 普通に攻略しているパーティもいるのに事前に確認もしないんですか、論外ですね。


 お酒を飲むと心地よく微睡まどろめますね。やはり人間達が無能すぎると酒に逃げたくなるものです。まともなパーティを用意出来ないと魔王様に顔向け出来ません、現実逃避もしたくなるってものです。


 グラスに入ったジンを舐めながら連中が潰れるを待ちました。やはり弱いだけあって、それは酒の方も同じらしく、私がちびちびグラス一杯のジンを飲んでいる間にほとんどが酔い潰れて潰れていない人間は潰れた人間を連れてなんとか会計を済ませたようで出て行きました。アレでよく生きていられますね、魔族だったらとっくに死んでいますよ。


「あんた、随分と飲んでるが強いんだな」


 マスターも団体が出て行って暇になったのか私に話しかけてきました。


「ええ、酒には慣れているもので。ところでここには実力のあるパーティは来ないんですか?」


 マスターは苦笑して答えました。


「さっきの奴らじゃダメかい? ここらじゃ結構な強さで評判なんだがな……」


「アレが……」


 アレが強い方って、ここには期待出来ないですね。もう少しマシだと思っていたのですが、これでは使い物になりません。


「はぁ……会計をお願いします。それと、これを自信のある人が来たら渡してくれませんか。お代に金貨一枚払いましょう、お釣りは要りません」


 あまり感心したやり方ではないが、ここのマスターに任せるとしよう。私は『力に自信のあるパーティ歓迎! 新ダンジョンに眠るお宝!』と書かれて、地図まで付いている紙の束を渡し、金貨を置いて店を出ました。私にはこの町は手に負えません、私にはあまりにも役不足です。


「ふぅ……やはり人間は雑魚ですね……」


 そう独り言を言いつつ私は村を去ることにしました。願わくばまともなパーティがダンジョンに来ますように。

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