第24話「ダンジョンに新部屋を作ろう!」

「魔王様、この前の配信でスポンサーは皆満足しております」


 今日はブレインが朝から景気のいい話を持ってきてくれた。それは何よりだ、魔王城の財政も少しはマシになるだろう。そもそもそんな赤字状態で俺を呼ぶんじゃねえと言いたいが、そこはいってしまうと小物感が出るので飲み込んでおく。


「新しいスポンサーは見つかったか?」


「はい、酒を扱っている企業や大衆向けの食堂チェーンが名乗りを上げています」


「よくやった、問題無い、広告が規定に違反しないのを確認してから受け取って置いてくれ」


「拝承いたしました」


 さて、前回の配信は割と人気が出たな。となるとしなければならないことがある。


「となるとダンジョンに新部屋が必要だな。まさか前と同じものを映すわけにもいかないしな」


 視聴者は前と同じものを見ても満足しないだろう。新しい面白さを提供しないとな。そう考えているとブレインが口を開いた。


「スポンサーに名乗りを上げたのが食関係なのであまり残忍な食欲が無くなるものはやめて欲しいとうかがっております」


 そういやどっちもメシ関係か、となると内臓が飛び散るようなトラップは不可だな。そもそもそんなものを配信するダンジョンに仕掛けるつもりも無いが、多少は気を回しておこう。


「なるほど、それは分かった。さて、カレンもそろそろ来るだろうし、新しいトラップについて考えようか」


「そうですね、毎回使い回すわけにもいきませんからね」


 一応ブレインもその事は理解しているようだが、いささか真面目すぎる気がするので頭のやわらかいカレンも呼んでおいた。実況するにしても何があるかは理解しておいた方が良いしな。


「魔王様! 遅れてすみません! 実況者カレン、来ました!」


 扉をバタンと開けてカレンが入ってきた。遅刻だが来ただけマシだろう。だらしない連中が多い中、一応来たので褒めてやってもいい。普通はブレインほどの忠誠心を持っていないからな。


「よく来たな、さて、それじゃあ新しいギミックの案を考えようか」


 そうして三人で席に座り、何を作るかの相談は無事始まった。


「入ってきた人間達を底なしの落とし穴に落とすのはどうでしょう?」


 それはカレンのアイデアだ。しかしそれでは問題がある。


「初手でそんなものを使ったらどんな実況をするつもりだ?」


 初手即死トラップは悪手だろう、見ていて面白くもなんともない。ボス部屋の前で突然落とされるなら多少は盛り上がる気もするが、それならボスと戦わせた方が同接が多そうだ。


「そこはほら……私の実況でカバーしますよ」


「どんだけ自分に自信があるんだ……」


 カレンのアイデアを却下してもう少し穏当なものを考える。何か面白いものは無いかな?


「そうですね、お金を入れるとアイテムが出る仕掛けを作っておくのはどうでしょう? その中に次の部屋への鍵を入れておけば当たるか外れるかで盛り上がりそうではないでしょうか?」


「うーん……パーティが金持ちなら出るまで金を入れるだろうがなあ……金を持ってないやつが入ってきたらな……」


 ブレインのアイデアは保留だ。盛り上がりそうな気もするが、退路を断つわけにもいかないので何らかの救済要素を入れておく必要があるな。それをカバー出来るアイデアが見つかればその時に作るか。


「はいはい! 三択問題を出して外れたら強力な魔物が出てくるっていうのはどうでしょうか?」


 なるほど、確かに結構面白そうだ。しかも外れてもただ終わるだけではなく、魔物を倒せば生き残れるというのは問題だけではない救済措置のあるギミックとして面白い。


「悪くない、それは採用しておこう」


「やった!」


 カレンが自分のアイデアが採用されて喜んでいる。ただ、このトラップは入ってきたやつが極端に強いとゴリ押し出来るのが問題だがな。それでも三択問題なら回答が割れたときに人間がもめ事を起こすだろうし面白そうではある。


「ちなみに用意する魔物の案は何かあるか?」


 俺がそう訊くと、そこは考えていなかったらしく少し考え始めた。


「超強い魔物で良いんじゃないですか? 間違えたらヤバいというスリルがあるじゃないですか」


 それはちょっとな……


「それをやると間違えると即死するトラップと変わらないからな。作ってから適当な魔物を考えておくよ」


 そしてその案はかなりいい線をいっていることを俺は認めた。カレンも実際に冒険者たちを実況解説しているおかげでその効果はあるようだ。


「魔王様、パーティの中から任意の一人の指を一本捧げないと進めない部屋などいかがでしょう? こうすればパーティが揉めるのは確実だと思いますな」


「ブレイン、お前は人間のことを考えろ。そんなトラップしかけた日にはすぐにダンジョンから逃げ出して終わりだぞ?」


 コイツ地味に物騒なことを考えるな。揉めるのは確実だがそれをやったところで最終的に撤退という決断をするに決まっている。退路を断つことも出来るが、そうしたらダンジョンに潜ってくるパーティが一気に減るだろう。それではダメなのだよ。


「じゃあ俺の案としては月並みだが『迷路』だな。これなら入ってしまえば逃げづらいし、危険も少ない。適当にその中にアイテムでも置いておけば暇な人間達が必死になって出口を探すだろ」


 あまり凝ったものではないが、三叉路があればどちらに進むか悩むのが人間というものだ、それが二人三人と増えれば意見が割れて揉めていく。魔族が必死に争わなくても勝手に人間の士気を落とすことが出来る。安上がりで人形たちの醜い争いを楽しめるシンプルなトラップだ。


「なるほど」


「魔王様なら作れるでしょうけど、それでそんなに人間が揉めますかね?」


「大丈夫だよ、人間は言葉でしか意思疎通が出来ないからな。心の底からわかり合う事なんてないんだよ」


 実にシンプルだが、精神の脆弱な人間にはこのくらいでいいんだよ。難しいことを考える必要は無い、ただ意見が割れるものを用意するという単純なことだ。


「魔王様は人間に甘くありませんか?」


 ブレインが人間に厳しくしたいという気持ちは見て取れる。気持ちは分かるが魔族や魔物を使う必要は無いだろう。


「例えばの話だが、ある国に強力な魔法が使える杖を大量に渡して、隣の国には少量同じものを流したとして、どうなると思う?」


「それは人間が魔族領に攻め込んで……」


「来ない、そんなことになったら魔族を倒す前に力を持った国が力の弱い国を支配しようとする。人間同士で争うだろうな、賭けてもいいが人間はそんな立派な目標をも思想も持っていない」


 ブレインは俺の言葉に黙り込んだ。ここにいるメンバーで一番人間に甘いのがブレインではないかとさえ思うほどだ。人間をそんな立派な生き物だと思っているなら考えを改めた方がいいぞ。


「じゃあ私のとっておきのアイデアを一つ! 人間の服だけを溶かすスライムを振らせるのはどうです!」


「お前の頭の中がピンク色なのはよく分かったよ、スポンサーが離れるから却下だ」


「そんなー……結構いけてるアイデアだと思ったんですがね」


 とりあえずいくつかアイデアは出たし、後はどのように調整するかだな。あとこの前の配信の評価も気になるところだ。悪くないとは聞いているが、今後の参考のために調べておきたい。


「よし、それでは今日は解散だ、二人とも下がっていいぞ」


「ははっ!」


「はーい」


 二人が出て行ったのを見送って、俺はセルフ残業をする。魔族にさせると残業代を請求されるからな。


「あー……早く人を沢山雇えるくらい金が欲しいな……」


 その独り言は誰も聞いていない。ただの願いだった。

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