第23話「感想戦」

『さて、それでは人間のパーティ一行がダンジョンを完走した感想ですが……」


 あれから、決意を固めたパーティはボス部屋に殴り込んで中にいたトカゲを殴り飛ばした。このダンジョンで修羅場をくぐり、仲間の絆も深まっている人間達の敵にはならなかった。いまいち微妙に退屈な終わり方をしてしまったのでカレンが解説を入れているところだ。


「魔王様、人間達に報酬を奪われましたが問題は?」


「無いな、きっちりスポンサーからの広告料を考えて撮られても問題無いものしか置いてないからな」


 そう、あのパーティはボス部屋の先の宝物庫に入り宝箱に入った幾ばくかのお金を回収し、たいして使い道のない宝飾品を持ってホクホクしながら帰っていった。宝石の方は多分売り払うのだろう。別にそれで構わない、報酬はスポンサーの広告料から出しているのだからな。


 魔王としてもあのパーティにならくれてやっても良いかと思っているので良かったんじゃ無いだろうか? 少なくとも不興を買うほど同接は減っていない、その証拠にカレンの感想でもきちんと視聴しているリスナーがいる。なお解説ついでにさっきのパーティのダンジョン攻略を録画したものを再放送しているので、どこが強くてどこが弱かったのかがよく分かるようにしている。


「しかしあっけなく陥落しましたねえ」


「ギミックで楽しませようとしたダンジョンだからな、魔物や魔族は無駄に投入出来ないだろ、生きてるからな」


「魔族が人間と戦うのが普通のような気もしますが……」


「いいんだよ、わざわざ減らすのがいいことじゃないってこと。勝手に向こうから来たなら労力無しで倒せた方がいいだろ? あと、人間が苦戦しているところより人間が仲間内で争っているところの方が数字出るだろ?」


 実際ワームを使ったトラップのところが最高の同接を記録しているしな。アレは魔物と言うより動物に近いものだからノーカンだ。


『このシーン何度見ても笑えますね、このクズみたいなやりとりが最高です! あ、その後はつまんないので巻きで』


 カレンはパーティの結束が固くなったシーンはサラッと流した。つまんないからな、アレ。


「しかし人間にダンジョン攻略をされてしまうと舐められるのでは?」


 ブレインがそう訊くので一応答えておく。


「あのパーティがダンジョンの詳細を語ると思うか? どう考えても足を引っ張り合っているところはぼかすだろ、そしたら信憑性のない情報にしかならんよ」


 ウソを混ぜると本当のことまで疑われてしまうものだ。正直に話せばどこまで許されるか分からない争いをしていたからな。世間体などと言うものを気にする人間が自慢はしないだろう。


「たしかに、問題無いでしょうな。しかしボスはもう少しマシなものを用意しても良かったのでは?」


 あー、そこやっぱ気になるか。


「お前が魔王城の財政は一番よく知ってるだろ? あのくらいしか用意出来ないんだわな」


「確かに安く使える魔族は少ないですが……」


「どうせ負けるなら雑魚を入れときゃいーんだよ。微妙に苦戦したところで倒されたらその分の報酬が丸損だろうが。魔族なんて起用したら遺族に支払わなきゃならないんだよ」


 雇用にかかる費用の方がダンジョンの報酬より高くつく、実力が確かな魔族を用意したりしたら広告代が軽く吹き飛ぶくらいかかるからな。適当な魔物でも置いておけばいいんだよ。


 見栄ってものが魔族にもあるが、それなら志願してダンジョンのボスをやれって言う話だ。負けたときだけ怒られても困る。


『やはり人間の争いは楽しいですね、皆さんが希望するならもう一回くらい見直しましょうかね』


 どんだけ需要があるんだ、人間の内紛。


「チョロい連中だよ、このくらい安くあがればいくらでも広告費で元は取れる。ダンジョンの品質を上げて欲しいなら魔族の連中に税金払えと言っておいてくれ」


 俺はブレインを適当にあしらう。金が無いんだからただで作れるギミックでどうにかするしかねえだろうが、ダンジョンはサーカスじゃないんだよ。


 しかし同接が落ちないどころか微増しているので配信を着るタイミングを逃してしまった。未だに楽しそうに配信しているカレンを無理矢理止めるのは少し気が引ける。いっそパーティがいなくなってからのエンディングに広告でも挟んでやれば良かったな。


『さて、再走もそこそこしましたし、残りの部分を適当に見て終わりましょうかね。後はつまんないので興味がない人は見る必要無いですよー』


 そうして見所が終わった途端に同接がガクッと下がった。実にわかりやすいリスナーだ。カレンもこれ以上引き延ばすつもりもないのだろう、徐々に解説が雑になっていく。人間が善戦するところは見ても面白くないと言うのが証明されたな。


 そもそも魔族だって人間が襲ってこなけりゃ話し合いするっての。ただ少し多めに取り分が欲しいと主張するから人間が勝手にキレてるんじゃないか、そこまで責任持てるわけないっての。


『はーい、じゃあ倍速再生したので今回の配信は終わりです! 待て次回!』


 それだけ言ってカレンは配信を終わるよう俺にサインを出した。魔導具のスイッチを切って今回の配信は終了した。微妙だったかと思ったがこれならそこそこには納得してくれるだろう。スポンサーが満足いくならそれでいいさ。


「カレン、配信終わったならブレインもいるんだから飯にしようか。今回は全社の広告を流せたから肉も野菜も満足いくまで食べていいぞ」


「やった!」


「本当ですか魔王様!?」


 いや、ブレインくらいは俺の性格を把握して欲しかったな……まったく、俺がケチなやつみたいな認識を持ちやがって、余計な出費をなくしただけでこれだ。無駄遣いが多すぎたのを止めただけじゃないか。


「それでは私は厨房に牛を一頭裁いてくるように言ってきます!」


「お前以外とノリがいいんだな」


 そう言うか言わないかの間にブレインはさっさと部屋を出て走っていった。俺は魔王城内にミニダンジョンを作る、炎が噴き出すトラップと、その上に滑りのいい金属板を出す。本来は炎に落とすために使うものだが、今回は坂状にせず平面に置く。これで配信部屋で小さなバーベキューが出来る。なかなかダンジョンをどこにでも作れると応用が利くな。


 これを果たしてダンジョンと読んでいいのかは意見が分かれるだろうが、俺がダンジョンだと認識しさえすればいいようだ。


「魔王様! 牛肉と豚肉お待たせしました! 内臓まで綺麗に洗って全て食べられる状態です!」


 俺はそれを受け取って、もう少し魔王城の管理もそのくらい頑張って欲しいなと思った。


 それはさておき、『かんぱーい!』のカレンの声で三人の配信成功記念会が開かれたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る